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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-見通しは暗くとも今は楽し①-


とある夜の艦長室でシオンはアキトとその隣に控えるミスティと対面していた。


なんとも言えない沈黙が流れる中、それをシオンは自ら終わらせる。


「“天使”、また逃しちゃいました」

「……それは知ってます」

「ついでに言うと艦内での手がかりもゼロです」


シオンのシンプルな報告にミスティは頭を抱えて見せた。


「一応確認しますが、何回目ですか?」

「今回で三回目ですね」

「成果がどうこう以前に、正確にそこを理解していてその軽い態度なことに腹が立ちますね」


たった今報告したように、“天使”との最初の遭遇からプラス二回で今回で三回目。

その全てで“天使”をあっさりと逃した上に手がかりもゼロという状況が続いている。


「結果が出てないのは事実なんですけど、“天使”に逃げられる件については半分人類軍のせいでもあると思うんですけど?」

「それは……」

「さすがにそろそろ“捕まえろ”なのか“殺せ”なのかくらいはっきりして欲しいです」


上層部から“捜索しろ”以上の命令が来ていないことはシオンも重々承知していた。

ひとまずはそれでいいだろうと軽く考えていたので苦言を呈したことはなかったが、それはあくまでそう時間をかけずに何かしらその先の指示が出るだろうと思っていたからだ。


それがまさか三回目の接触を終えるまでにはっきりした命令が来ないままだとはシオンも予想していなかった。


“天使”をあっさり逃してしまっているのには、命令がはっきりしていない都合本気で捕まえにかかれないという背景も少なからずあるのだ。


「本音を言えばもう命令ないままでもとっ捕まえにかかりたいところなんですけど……不本意ながらちょっと前にやらかしたばっかりの俺は身勝手しにくいですし」

「それに関しては貴方の自業自得でしょう」

「もういっそ、艦長がゴーサイン出してくれればいいんじゃないですかね?」

「そうもいかない。俺もお前ほどではないが勝手をしにくい立場だ。……それもお前のせいだがな」


なんとも動きづらい状況に三人ともで唸る。


状況を考えれば勝手に捕まえてしまっても結果オーライで見逃してもらえそうな気もするのだが、命令違反は命令違反だ。

仮にお咎めなしで済んだとしても、前回やらかしたことからの信用回復にはつながらないし、シオンを嫌ってる連中は嬉々としてそこを囃し立ててくるだろう。


現状シオンは、シオンを嫌っている連中が文句を言えないように動かなくてはならないわけだ。


「……とはいえ、このまま成果が出せなければそれはそれで上層部からの評価を下げることになるのでは?」

「一応“捜索しろ”って命令はちゃんと果たしてるっていうのにひどい話ですよね」

「文句を言っても仕方がないだろう」


アキトのため息混じりの現実的な一言でミスティとシオンは口をつぐむ。


「とにかく、それが“天使”にどこまでつながるかは別としても≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫を〈ミストルテイン〉に乗せておける期間もそう長くは残されていない」


境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫の欧州ツアーはもうすぐ最終公演を迎える。

それ自体は喜ばしいことなのだが、そうなってしまうと彼らが〈ミストルテイン〉に乗っている理由はなくなる。

“天使”につながる手がかりを〈ミストルテイン〉の中に囲っておくことができなくなってしまうのだ。


それによって全く“天使”を追跡できなくなるわけではないが、状況が後退するのは間違いない。

加えて、若干強引に民間人を新型戦艦に乗せたにもかかわらずなんの結果も得られなかったとなると確実にいい顔はされない。


タイムリミットは≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫の公演終了まで、ということになりそうだ。


「イースタル。それまでに≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫に潜んでいる“天使”の魔力の発生源を見つけられる見通しは?」

「まー正直現状のままじゃないんですよね」

「ですから軽い調子で言うことではないと言ってるでしょう……」

「そうは言っても、ないものをあるっていうわけにもいかないじゃないですか」


実際問題、今のシオンには手立てがない。

もちろん何もしてないわけではなく、秘密裏に艦内に張り巡らせていた他インチ用の魔術を補強するなどの工夫はしているのだが、それでも引っかからないのだ。


“天使”の魔力のにおいは依然として感じ取れるとシルバは言っているが、それは無意識に漏れ出ている微弱なものに過ぎない。

発生源たる本人が本気で隠している限りは、発生源の特定までは難しいだろう。


「なんなら〈ミストルテイン〉艦内にもそこそこ気配が馴染み始めてて、前より余計に探りにくくなってるっていう」

「……ここに来て状況が悪化してる報告は聞きたくなかったですね」

「正直、出てきた“天使”を直接とっ捕まえるほうが遥かに難易度低いです。艦長のほうでもできるだけ上層部急かしておいてくださいよ」


それだけ告げてシオンはクルリとアキトとミスティに背を向けた。


「ちょ、まだ話は終わってませんよ⁉︎」

「ミスティ、構わない。……どうせ言っても聞きはしないだろうしな」

「艦長殿のお許しも出ましたし、しっつれいしまーす」


ヒラヒラと手を振りながらシオンは艦長室を出ると、そのまま格納庫へと足を向ける。その足取りは軽い。


“天使”探しが難航しているのは承知の上だが、シオンにとってはそれよりも優先順位の高い、もっと楽しいこと(・・・・・)があるのだ。


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