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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-ガールズトーク②-


「それにしても、シオンに恋の気配か〜」

「いや、さっきまだ決まったわけじゃないと言ってませんでした?」

「決まってはないけど、そもそも女の子に見惚れるなんて話が初めてだもの。盛り上がっちゃうわよ〜」


リーナの冷静な指摘にもリンリーとアカネはウキウキした様子を見せるばかり。


確かにシオンが異性に見惚れるという状況はナツミもリーナも目にしたことがない。そういう意味では彼女らの考えもわかるのだが、かと言ってそれを恋へと直結させるのはいかがなものだろう。


「正直、シオンくんに数パーセントでも恋の気配があるってだけでも祭りっすよね。これまで本気でなんにもなかったっすから! アタシとしてはギルくんとガブリエラちゃんルートもアリっすよ」

「シオンもギルも割といい男だと思うんだけど、びっくりするくらい色恋沙汰と無縁すぎてつまんないのよね……」

「(あ、これ、単純に恋バナで盛り上がりたいだけのやつだ)」


学生時代、女子生徒で集まってたまにやっていたおしゃべりの様子が頭をよぎった。そこでも根拠のないうわさ話まで話が波及することはしばしばあったので、今十三技班の女性陣の間で繰り広げられているのもそういう類のものなのだろう。


「あ……でも、ナツミさんとしてはあまり面白くない話題になるのでしょうか?」

「へ?」

「だって、ナツミさんは多少なりシオンさんに感情が向いているのですよね?」

「……いやいやいや!」


アンジェラから唐突にそんな言葉を投げかけられ、ナツミは激しく首を横に振った。


「そんなことないよ? 普通に友達だよ?」

「ですが以前、可愛いと言われたことを気にしていらっしゃったりと単なる友人関係であるすれば多少不自然な反応がいくつかありましたし……」

「まあ! ナツミ様はシオン様のことをお慕いになっていらっしゃるのですか⁉︎」

「なんだかややこしい感じになってきてる……!」


年下の少女ふたりから曇りない瞳を向けられて困惑するナツミ。

以前アンジェラひとりを相手にしたときもそうだったが、これはおそらく何を言ってもイマイチ話が噛み合わない状況である。


助けを求めるようにリーナを見るも黙って首を横に振られた。

十三技班の女性陣は少女ふたりほどではないが興味はあるのだろう。下手に助けを求めれば火に油を注がれかねない。


「(こ、こういうときは話題をそらすのが一番だよね)」


このままナツミの話題が続けばどうなるかわからない。

幸い、恋バナでさえあればあっさりと食いついてくれそうな気配はあるので、別の人物の恋の話題に持っていければなんとかできそうだ。


そしてナツミが咄嗟に思いつく恋の話題といえば、とてもわかりやすく恋をしている少女が目の前にいる。


「あたしの話なんて別に面白くないよ。むしろマリーちゃんこそシルバ君との進展とかないの?」


ナツミの言葉にアンジェラの視線はマリエッタに移り、当のマリエッタは少し頬を赤らめて両手で可愛らしく口を押さえた。

リーナや年上組には逃げたことがバレバレであろうヘタクソな話題転換ではあったが、幸い一番勢いが強かったアンジェラとマリエッタの注意はそれた。


「……まあ、確かに一番わかりやすくラブコメやってるんで興味はあったんすよね〜。実際のところどうなんすか?」

「そうですね。わたくしの恋はあくまでまだまだ進行中といったところです。……何せ、シルバ様はまだ全くわたくしを意識してくださらないのですもの」


意識してくれないとは語りつつも、マリエッタにあまり落ち込んでいるような様子は見られない。ナツミから見れば、むしろ幸せそうにも見える。

その事実に内心首を傾げつつ、黙って話を聞く。


「あのシルバってヤツ。結構クールっていうか、整備の話とか以外は全然乗ってくれないんだけど……」

「そうですね。ご本人も仰ってましたがあまり人間が好きではないそうです」

「……人間嫌いに恋って難易度高くない?」

「それはそうかもしれませんが、そういう風に口にしている割には優しい人なのですよ」


例えばマリエッタが飛びかかるように抱き着こうとすれば、避けられるのに避けずに安全に抱きとめてくれる。

振り払うのが簡単なはずなのに、決して無理に手を振り払ったりしない。

体格差から歩幅が大きく違うはずなのに、隣を歩くときは絶対に歩調を合わせてくれる。


「“わたくしだからそうしてくれる”というわけではないのでしょうけれど、決して冷たい人ではないんです」


マリエッタがそのように語るシルバの姿をナツミはもちろん他の面々は目にしたことがない。

せいぜい一緒に戦場に出ることのあるリーナに多少思い当たる節があるくらいだろう。


「(シオンが気に入ってるみたいだから悪い子じゃないのは間違いないと思うけど……)」


正直、ナツミの中では話しかけにくい人物という以上の印象はない。

おそらくそれは〈ミストルテイン〉に搭乗している大多数が同じだろう。


加えて、シルバとマリエッタを日々見ていて気になることはある。


「しかし、わたしたちが目にする限りシルバさんはマリーを突き放すような態度を示していることが多いように思います」


ナツミの中にあった、マリエッタに尋ねるには少々躊躇してしまう質問をアンジェラが投げかけた。

気遣いが足りないというよりは、純粋にアンジェラはマリエッタを心配をしているようだった。


「想い人にそのような冷たい対応をされるのは、辛くはないんですか?」

「……そうですね。何も思わないわけではないですが、シルバ様のお考えもわかるのです」

「シルバさんの考え?」


アンジェラが不思議そうな顔をするのにマリエッタは静かに頷いた。

普段の少々騒がしくマイペースな振る舞いとは違う物静かな雰囲気にナツミは少し背筋が伸びた。


「シルバ様は、わたくしのことを気遣ってくださっているんですよ。……厳密にはわたくしが勘違い(・・・)しているのではと心配していらっしゃるのです」

「勘違いって……?」

「このシルバ様への好意が“恋”ではなく“憧れ”や“錯覚”であるということですよ」


なんでそんな考えに?というナツミたちの考えは自然と伝わったのか、マリエッタは続ける。


「わたくしとシルバ様の出会いは、それこそ映画のワンシーンのようでした。アンノウンの巨大な牙に体を貫かれそうになったその刹那に、シルバ様はわたくしをたくましい腕で抱きかかえて救い出し、アンノウンを文字通り一蹴したのです」


ヒーローが窮地にあったヒロインを救い出す。

形はどうあれ様々なフィクションの中で描かれてきた男女の出会いの形だ。


「その出会いを機に、わたくしはシルバ様をお慕いするようになりました」

「……こういっちゃアレっすけど、それは吊り橋効果とか極限状態で助けられてフィルターかかってるとかそういうのなんじゃ?」

「そう思われてしまっても仕方がない状況ではありました。実際のところ、わたくし自身そういった考えを否定できる根拠を持ち合わせてはいません」


劇的な状況において助け出されたことにより、シルバへの好意を抱いてしまった。


たった今その話を聞かされたナツミたちですらその可能性に気づいたのだ。

そういった経緯で強い好意を向けられるようになったシルバ本人が気づかないはずもない。


「お前は多分勘違いしているだけだ。ちゃんと落ち着いて考えてみろ。……シルバ様は今でもよくそのようにわたくしに言い聞かせます。けれどそうやってわたくしを気にかけてくれていると思うと嬉しくなってしまうのです」


言葉だけならマリエッタ本人も困っているように聞こえるのに、マリエッタの声の調子や表情が喜びで弾んでいて、ナツミたちの認識を狂わせる。


「この恋が本物なのか錯覚なのか、わたくしにもまだわかりません。けれど、シルバ様への強い感情が胸の内にあることだけは事実です。であれば、わたくしはこの想いを大切にしたい……その結果、傷つくことになろうとも」


そう語ったマリエッタはとてもではないがナツミよりも幼い少女には見えなかった。

かと言って年上に見えたというわけではなく、年齢など関係のないもっと別の存在のように思えたのだ。


ただ、その一方で共感できるものもあった。


「……そうだよね。自分の気持ちを、間違いとか勘違いとかそういう言葉で簡単には片付けられないよね」


想いの種類は異なっていても、マリエッタが選び取った道はいつかナツミが選び取ったものとも重なる。

シルバへの恋心を大事にするマリエッタも、シオンへの信頼を貫いたナツミもきっと違いはない。


「危ないかもしれなくても、間違いかもしれなくても、あたしたちはそういう気持ちを確かに持ってるんだもん。とやかく言われたって簡単に捨てたりできないし、気持ちを向けてる本人に否定されたら尚更悲しいよね」


不思議そうにこちらを見上げるマリエッタにナツミは微笑みかける。


「その気持ち、大事にしようね」

「……はい!」


ナツミとマリエッタが微笑み合う中、そっとナツミの肩に触れる手があった。


「なんか、ありがとうね。……私たちだけじゃマリーちゃんの気持ちわかってあげられなかっただろうから」

「いえ、そんな。……たまたまあたしにも似たようなことがあっただけですから」

「ほうほうなるほど似たようなことっすか」


リンリーの手が肩に置かれている状況で、すっと横に現れたカナエの目がキラリと光ったような気がした。それに本能的に危機感を覚えるがすでに遅い。


「ところで、“危ないかもしれなくても間違いかもしれなくても気持ちを向けてる本人”っていうのはどこの誰なんすかねぇ?」

「ひえ」


思わず出てしまった悲鳴と共にリーナに助けを求めるが、彼女はニコリと微笑むだけで助けてはくれない。


「私も、ナツミがそんな特別な気持ちを向ける人って気になるっていうか……もちろん本当に嫌なら言わなくていいんだけど……」


申し訳程度にナツミを気遣う言葉が付いているが、これは完全に聞きたがっている。

まさに四面楚歌。このシャワールームにナツミの味方など存在しないのだった。


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