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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-秘密の悪巧み-


境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫が〈ミストルテイン〉に乗艦して数日。


シオンが気づいてしまった通り“天使”はすっかり潜伏モードになってしまっているのか、シルバににおいを辿らせても結果は振るわない。

元々あっさり見つかるとは思っていなかったのもあって進展がない現状にまだ誰も焦りを見せてはいない。


「割と高めの確率で見つからないかも」という事実に気づいているシオンだけが内心冷や汗を垂らしている状況である。


「見つからないっすね……」


厳密には、焦ってはいないが落ち込んでいる男がひとりいる。

今回の“天使”捜索の秘密兵器たるシルバである。


「同じ戦艦の中にいるはずの“天使”ひとり見つけられねえとか、“狼男”的にも≪天の神子≫の従者的にもダメダメじゃねえか」

「そんなことないと思うけどなー」


シルバ・ハーシェルという少年は、人間嫌いで他人との関わりを重んじない一匹狼――という風に見えるのだが、実際は気を許した相手にはがっつり懐く忠犬タイプ。


そんなシルバが、気を許した主であるシオンから“秘密兵器”と太鼓判まで押された“天使”探しで成果をあげられない状況においてどうなるか?

その答えがこの落ち込みっぷりというわけである。


「まあまあ。そもそも俺には≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫にいるかもってことすらわからなかったんだ。それに気づいてくれただけでも十分役に立ってくれてるって」


すぐ隣に腰かけて俯いているシルバの頭をわしわしと撫でてやる。


現在ふたりはシオンの私室でふたりきり。元々別の用事できてもらったのだが、この調子なのだ。

他の人間の目に触れる可能性のある場所ではプライドもあるのか落ち込んでいる姿を見せられず、それがシオンとふたりきりということで爆発してるのかもしれない。


「ところで、どうせなら狼の耳も出してくれていいんだけど……」

「……っす」


ぴょこんと灰色の髪から飛び出した尖った耳。加えて少し毛量の増えた頭をしばし堪能する。


閑話休題


存分にシルバの頭とさらに尻尾をモフらせてもらってから、コホンと軽く咳払いをする。


「それじゃ、本題に入るんだけど」

「っす。ここで話すってことはオレと先輩だけの秘密ってことっすよね」

「察しがよくて何より。いわゆる悪巧みってことになるしね」


おおむねシオンの意図を察してくれているシルバに余計な前置きはあまり必要ない。

何がどうしてそうなったかはシオンにもわかっていないが、この従者はシオンの言葉であれば盲目的に従ってしまう。少々危ういほどに。


「ちょっと考えたんだけど、今回の“天使”探し、見つけた場合は他の誰にも言わずに俺にだけ教えてほしい」

「人類軍にはバレないようにってことっすよね」

「そういうこと」


当初はあまり深く考えずに、探し出した“天使”の扱いは人類軍任せでもいいだろうとシオンは考えていた。


“天使”の出自や事情がどうであれ、シオンと直接的な関わりはない。

ただでさえヤマタノオロチ案件で人類軍と少し揉めているシオンとしては、現状赤の他人(・・・・)に過ぎない“天使”に肩入れして人類軍に嫌な顔をされるのは困る。

少なくともシオン個人の損得勘定で言えば人類軍の味方をしたほうがいいというわけだ。


しかしその辺りの事情も少々複雑になってきた。


依然として、シオン個人のメリットで言えば人類軍側に味方するほうが大きい。

だが、例えばもっと大局的な見方をすればどうだろう?


現状、“天使”の行動は人間に対して好意的なものだ。

むしろアフターサービスに簡易結界まで残していくあたり、かなりのものにも思える。

境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫という人間の集団に姿を隠しつつも潜伏していることからもそれがわかる。人間嫌いであればそもそもそんな場所を潜伏先に選ぶまい。


人間に対してずいぶんと好意的な【異界】出身の人外。

単に人類軍に差し出すだけというのは少々もったいないのではないだろうか。


いつだったかアキトが話していた和平交渉のような大それたことを言うつもりはないが、“天使”と平和的に話せる場があれば【異界】の情報を得られるかもしれない。

特に、同じ人外の側に属する者であるシオンにならあまり警戒心無く教えてくれる可能性も高い。


【異界】の事情をシオンは何も把握できていないので、情報が得られる分には損はない。


そして平和的な対話の場を設けるのに一番いいのは、シオンとシルバだけが“天使”の正体を把握した上で、アキトたちすらも含めた人類軍の預かり知らないところで話をすること。


人類軍ではなく“天使”の味方なのだとアピールして、話を聞くのだ。


「じゃあ、本気で人類軍を裏切るつもりなんすね……もちろんオレはどんな選択にもついていきますけど」

「あ、いや。そんな面倒なことしないよ」


何やら若干決意を固めていたシルバが「あれ?」という顔になる。

しかしシオンは少なくともここで人類軍と袂を分かつつもりなどない。


「“天使”に接触して、話を聞くついでにこっちの話もする。で、一芝居打つための相談をする」


現状の人類軍の命令は「“天使”を探し出す」のみ。

それが「捕まえろ」になるか「殺せ」になるかは未知数だが、どちらに転ぼうと事前に秘密の連絡手段を設ける隙はある。


「捕まえる方向になったらほどほどに抵抗した後捕まってもらって、俺の手を離れたところで脱走してもらう。殺せって話になったらうまく死んだフリしてもらう」

「そんな都合よくいきます?」

「空間転移までできる“天使”と、この≪天の神子≫がその気になってその程度のことができないとでも?」

「いや、普通にできますねそれだと」


真顔になったシルバに「だろー」と微笑みかけたらちょっと怯えるような顔をされた。

悪どいことを言っている自覚はあるがそんな怖い顔をしていただろうか。


「何はともあれ“天使”を見つけてからのことにはなるけど……とりあえずそういうことでよろしく」


シオンが最後にバシバシとシルバの背中を叩けば、シルバは「うっす!」と元気よく返事をするのだった。



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