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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-神子と狼の秘め事?②-


「なんでお前のにおいを嗅ぐんだ……?」

「そこはシルバに聞いてほしいんだけど……」


当のシルバはと言えば、気づけば倉庫の壁に腕をついて影を背負っていた。

相当精神的に落ちこんでいるのは誰が見ても明らかである。


「ハーシェルはなんであんな感じに?」

「そこはまあ、ね?」

「ね? とか言われてもわかんねえよ」


空気を読もうともせずに尋ねてくるギルにシオンは曖昧な笑みを浮かべる。


「俺のにおい嗅いでたのが知られて恥ずかしいんじゃないかな」

「でもさ、なんか理由があってやってるんだろ? じゃあいいじゃん」

「よくねえっすよ」


シオンとギルの会話に割り込むようにシルバがゆらりとこちらに向いた。ただし背負っている影は相変わらずである。


「なんでダメなんだよ。別にシオンに変なことするつもりだったわけでもないんだし」

「じゃあ聞くけど、ギル先輩は「いろいろ訳があるからちょっとにおいを嗅がせてくれ」って真正面からシオン先輩に言えるんすか?」

「(それは……)」


相手が誰であっても「においを嗅がせろ」などというのはどうも変態くさくて抵抗があるだろうに、その相手が彼にとって尊敬しているシオンであるとなると余計にやりにくいだろう。

ハルマからすれば、アキトにそれを言うのと同じようなもの。はっきり言って、どれほど必要なことなのだとしても絶対に嫌である。


「え、別に?」

「なんでだよ⁉︎ 普通無理だろ⁉︎」

「聞く相手が悪いね。ギルはちょっとおかしいから」


うがあああと頭を抱えて天を仰ぐシルバに対してシオンはあくまで冷静だった。

そのまま「まあそれはそれとしてもう嗅がなくていいの?」と平然と問いかけるシオンも大概ギルと同じようなものだと思うのはハルマだけではないだろう。


「……もう大丈夫っす。一応気になってたことはわかったんで」

「そもそも何が気になってにおいを嗅ぐだのなんだのって話になったんだ?」

「俺みたいな人外は、魔力の気配をにおいとしても捉えられるんすよ。で、さっき通路で会ったときにちょっと気になるにおいがしたんで」


気になるにおいの正体を確認しようと声をかけてよりしっかりとにおいを嗅ごうとしたというわけらしい。


「でも、あたしたちコンサートホールに演奏聞きに行っただけだよ? 別に人外に会いに行ったわけでもないのに……」

「そう聞いてたのに妙なにおいさせてるから余計驚いたんすよ」


ナツミの質問に律儀に答えながら乱暴に頭を掻くシルバは言葉通り相当驚いたのだろう。


問題はそんな彼が捉えた妙なにおいの正体である。


「で、シルバはいったい何を見つけたわけ?」

「……正直、俺も信じられないんすけど」

「そんなに変なにおいでもしたのか?」

「変かどうかって話ならむしろかなりいいにおい……いや、そういう話じゃねえから!」


ギルの質問に少々話題はそれたが、わざとらしく一度咳払いをしたシルバは真剣な表情で告げる。


「先輩からほんの微かにっすけど、“天使”のにおいがします」




「――それで、今の話は間違いないんだな?」


倉庫にてシルバから告げられた事実に、ハルマたちはすぐさまアキトのいる艦長室へと移動した。

内容がハルマたちだけで話をするには大きくなりすぎたのだ。


そうして事情を説明し終えてすぐにアキトから投げかけられ問いに対して、シルバははっきりと頷いて見せた。


「この間先輩に言われて覚えた簡易結界の魔力と同じでした。そこは間違いありません」

「そのにおいがしたのは、今日が初めてで間違いないんだな?」

「少なくとも今朝食堂でシオン先輩と話したときには感じませんでした」

「となれば、やはり……」


今朝の段階でなんの異常もなく、基地の外への外出から戻ってすぐに異常に気づいた。

シオンが外出先で“天使”に接触したのは間違いないだろう。


「となると、“天使”は≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫に潜んでるってわけ?」

「状況から考えるとそれしかないでしょうね」


それ以外にシオンが接触した相手などいないのだから、当然そのような結論になる。


「確認ですが、直接接触していながらわからなかったのですか?」

「そこを突っ込まれると痛いんですけどね。ホントに全然そんな気配なかったんですよ。……コウヨウさんのときもそうですけど、しっかり気配を隠してたんだと思います」

「高度な術で気配を隠されると、お前であっても探りきれないか」

「むしろそれを探り当てられたシルバ君がすごいって話になるのかしらね」

「俺の言った通りだったでしょ?」


シオンはシルバならばシオンよりもずっと正確に魔力を感知できると前々から話していた。今回の一件で、それが証明された形になる。


「とにかく、私たちの捜索対象である“天使”が≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫にいるのはほぼ間違いないのでしょう? でしたらすぐにでも動くべきでは」

「動くって、具体的にどうするつもりですか?」

「それは……まずは彼らの身柄の拘束が妥当かと思いますが」

「……いや、現時点でそれはやめておいたほうがいい」

「そうですね。俺もやめといたほうがいいと思います」


ハルマにはミスティの提案はもっともなものだと思えたが、アキトはそれには否定的だった。そしてシオンもまたアキトと同じく拘束に後ろ向きであるらしい。


「何故ですか?」

「≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫は現在欧州ツアーの最中だ。ここで彼らを拘束してしまえばツアーは中止となるだろう」

「それはそうですが……」


単純なツアーというだけならアキトもミスティの提案に乗っただろうが、このツアーは人類軍が主導で行なっているもの。

途中で中止などのトラブルが起これば社会に対して余計な不安を与える可能性がある。


「俺としては社会不安云々より、逃げられる心配をしてます」

「それは全員を拘束してしまえばいいだけでしょう」

「空間転移ひとつ防げないのにどうやって完璧に拘束するおつもりで?」


シオンの言い分にハルマもミスティも反論はできない。

人類軍の拘束手段ではいかに厳重に拘束したとしても人外の逃亡を防ぐのは難しい。それは第七人工島で他でもないシオンが証明して見せたことだ。


「それは貴方が防ぐべきことなのでは?」

「もちろん俺なら防げるでしょうけど、それをするなら“天使”をばっちり捕捉できてないと」


シオンでも近くにいても気づけないほどの術で気配を隠している相手。

空間転移などでの逃亡を防ぐにしても、正確に対象を捕捉した上で相応に強力な術をかけなければ確実に捕らえられない可能性がある。というのがシオンの考えらしい。


「現時点で“天使”がいることに気づいてるってバレると俺がどうこうする前に逃げられるかもしれません」

「アキトの考えにしろシオンの考えにしろ、今すぐ拘束ってのは避けたほうがよさそうね」

「では、具体的にはこの後どうすればいいのでしょう?」

「そこは俺に名案があります」


挙手したシオンに部屋にいる面々からの視線が集まる。


「要するに、問題の“天使”にバレないように≪境界なき音楽団ボーダレス・シンフォニー≫を監視下に置けちゃえばいいわけですよ」


ニヤリと性格の悪い笑みを浮かべたシオンはアキトのほうへを視線を向ける。

その視線はどうにも嫌な予感をさせるもので、ハルマの頬が引きつる。


「とりあえず、艦長は根回しとかいろいろよろしくお願いしますね」

「……要求はお手柔らかに頼む」


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