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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-来訪ニューフェイス④-


≪天の神子≫の従者という衝撃的な宣言をしておきながら、シルバはそれ以上を語ろうとしなかった。

ツンとアキトたちを拒絶してそっぽを向く彼に詳細を話す気がないのは明らかで、必然的に説明を求める視線はシオンのほうへと向かう。


「細かいことは置いといて、本人の言ってた通りシルバは俺の従者……まあ要するに魔術的な契約を結んだ間柄です」

「それは、ひーたちと同じように?」

「いえ、それとは別格の“従者契約”ですね」


シオンの説明に応じるようにおもむろに軍服とその下に着ていた黒のインナーをたくし上げた。

そうして晒されたシルバの脇腹にはアキトにも馴染みのあるあざのような紋様、契約紋が刻まれている。


「俺の“神権契約”と同等の契約ということか?」

「厳密には、“神権契約”が上位ですね。まあその辺は本筋に関係ないのでスルーで」


契約の形まで細かく説明していては話が前に進まない。アキトもその辺りに文句はないようで続きを促すように視線を送ってくる。


「シルバはいろいろとワケ有りでして、シルバが軍士官学校に入ってきたときに面倒みてやってくれって知り合いに頼まれたんです」

「……当然のように人外関係者が軍士官学校に入学していることを話さないでいただきたいんですが」

「それは俺じゃなくて入学手続きがザルな学校側に文句言ってください」


とにもかくにもシルバが軍士官学校に入学してきたのがシオンと彼の出会いだった。

もう二年以上前のことになる。


「出会って、まあいろいろあって懐かれて、諸々の事情で従者になってもらっておいて。……そんでもってなんでか知らないけどここに事前連絡なしに現れた今日この頃という感じです」

「……貴方が呼んだわけではないのですね」

「俺が呼んでたならあんな喧嘩売りまくりの挨拶なんてさせません」


隣にしれっと立つシルバへの嫌味も含めてミスティに答えてやる。

シオンの微笑みながら怒るという器用な真似に言葉の本気を感じたのか、ミスティは疑うことなくどこか哀れなものを見るような視線を向けてきた。


「で? 何がどうなってお前は対異能特務技術開発局の関係者になったわけ?」

「それは、わたくしが説明いたしましょう」


ひょっこりと会話に混ざってきたマリエッタはニコニコと楽しそうに話を始めた。


「一月ほど前、とある事情でわたくしは第七人工島にいたのですが、その折にアンノウンがらみの騒動があったのです」

「そのような情報は聞いていませんが……?」

「大事になる前に解決しましたので、第七人工島の人々の不安にさせぬようにと公にはされなかったのです。……そして、」


もったいぶるように言葉を切ったマリエッタはおもむろにシルバの腕に抱きつく。


「その騒動を解決し、命の危機に瀕したわたくしを救ってくださったのは、何を隠そうこのシルバ様なのです!」

「こらマリー! 抱きつくな!」

「恥ずかしがらないでくださいませ! 貴方はわたくしの王子様なのですから!」

「情報量多いな!」


第七人工島のアンノウン騒動というだけでも初耳だというのに、そこにシルバが解決しただのマリエッタの命の危機だのの挙句王子様と来た。

ちなみにこの時点で話は全く進んでいない。


「とにかく、アンノウン退治ついでにマリーのこと助けたらスカウトされて、ちょうどシオン先輩と合流予定だって聞いたから話に乗っただけっすよ」


マリーのことを多少強引に引き剥がしながらシルバは答えた。

かなりざっくりとした説明ではあるが、ひとまずシルバはシオンとの合流のために対異能特務技術開発局に所属することを選んだということらしい。


「そこまでしてイースタルと合流したかったのか?」

「もちろん。オレは先輩の従者なんで」

「それにしては動くのが遅い印象があるが?」


シオンが第七人工島を離れてすでに結構な月日が経過している。シルバの言うように従者として動いたとするなら合流を目指すには遅すぎる。

探るような視線を向けるアキトはそう言いたいのだろうが……


「シルバは言いつけをお利口に守ってたんですよ」


シオンはするりとアキトとシルバの間に体を滑り込ませた。


「万が一近しい人外の正体がバレた場合、知らぬ存ぜぬを通すこと。俺に限らず、人間社会に隠れ住む人外全般の共通ルールってやつです」


誰かの正体が露見してしまった場合にそこから芋づる式に正体がバレることがないよう、その誰かとの関係を隠す。

見捨てるも同然の判断は冷たい印象を与えるかもしれないが、並の人外であれば人間に正体がバレたくらいなら自力でどうにかできるだろうというところでもある。


「むしろ、ここに来てそれを無視して動いたってことのほうが俺としては大問題なんだけど」

「それは……人間のいるところで話すのはちょっと」


シオンの問いかけにシルバは少しためらいつつ言った。

シオンに向ける視線は申し訳なさそうだが、その内側に周囲に向ける鋭さがある。


「だ、そうなんですけど、どうします?」

「どうします、じゃない。お前の従者なんだから少しは説得を試みるくらいはしろ」

「そりゃそうなんですけど、シルバの話を人類軍に聞かれていいもんなのかわかんないなーとか思っちゃったりして」


冗談のような軽さで言っているがシオンは本気だ。


アキトたちに信頼を寄せているとはいえ、なんでもかんでも人類軍に話すわけではないというシオンのスタンスは変わらない。

今回の場合、シルバがどういう意図を持っているのかわからない以上はシオンも軽率にここで話せとは言えないというわけだ。


シオンの本気を察したであろうアキトが眉間にシワを寄せるが、シオンはあくまでにこやかにその顔を見つめ返すだけだ。


「俺とイースタル、それからハーシェル研究員は別室に移動だ」

「オレは人間に話す気はないんですが」

「なくとも話してもらう。それが嫌なら艦長権限で送り返すだけだが?」


あくまでアキトはシルバから直接話を聞く。そこは譲る気はないらしい。


「他のメンバーに聞かせないでくれるだけでも結構な譲歩ってわけですか」

「それがわかるなら、ちゃんと彼を説得してくれ」


シオンとシルバの内緒話、というわけにいかないのはシオンも最初からわかっていた。

ひとまず、ここまで譲歩を引き出せただけでも十分だろう。


「シルバ」

「……先輩がそう判断するなら」


名前を呼んだだけでシオンの意図を汲んだシルバは少しだけ不満そうにしつつもアキトからの提案を了承したのだった。


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