5章-ふたつの戦場③-
〈ミストルテイン〉をはじめとしたAチームが戦闘を開始したのと同じ頃。
〈スナイプ〉と〈アサルト〉のBチームもまた戦闘に突入しようとしていた。
まだ戦闘にこそ突入していないが、あと少し距離を詰めればすぐにアンノウンたちは襲いかかってくるだろう。
基地に群がる無数のアンノウンを前に〈スナイプ〉を駆るレイスは冷や汗を垂らす。
〈スナイプ〉は名前の通り遠距離からの狙撃に特化した機体だ。
もちろん敵に接近された場合を想定してハンドガンタイプの光学兵装も二丁装備しているが、それでも多数の小型アンノウンを相手にするには向かない。
こういった大量の小型アンノウンを相手取るのに向いているのは高火力かつ広範囲を攻撃できる〈ブラスト〉くらいで、〈スナイプ〉に限らず他の二機の機動鎧も得意とは言い難いのだ。
「(シオンは魔法でどうにかできるんだろうけど、僕のほうは……)」
シオンならいつもの戦闘でやるように拡散した〈ドラゴンブレス〉で大量のアンノウンをまとめて薙ぎ払うことも可能だろうし、そもそもレイスが心配しなければならない人間ではない。
レイスが考えるべきなのは自分自身の身だ。
『レイス! この群れどうにかできるあてある?』
「……残念だけど〈スナイプ〉じゃ厳しい」
見栄を張ってどうこうできる問題ではないと素直にシオンの質問に答える。
シオンもその返答は予想していたのか「だよね! 完全にチーム分けミスってるよね⁉︎」と普段の調子で叫んだ。
確かにせめて〈ミストルテイン〉と〈ブラスト〉が別チームであれば相性のいい戦力が各チームに分散されたかもしれない。
ただ一方で高機動で飛び回る〈アサルト〉を活かすには一帯にミサイルをばら撒く〈ブラスト〉では相性が悪いし、かといってこちらに〈ミストルテイン〉を入れてしまうと戦力バランスが崩れるので仕方がない選択ではある。
「とにかく、僕たちは僕たちでどうにかしないと……」
『それなんだけど、例えば〈スナイプ〉ならここから戦場全域狙撃できる?』
「……できるよ」
基地の規模が広大というわけではないので、基地全体を問題なく見渡せるこの位置からなら〈スナイプ〉の性能の面でもレイスの実力の面でも狙撃は十分に可能だ。
『だったら、レイスにはここからお願いするよ』
「でも、一発撃てば気づかれちゃうよ」
現時点で距離を取れていても一発狙撃すればアンノウンたちだって気づく。
そのまま襲いかかられてしまえば〈スナイプ〉に敵を捌ききる能力はない。
「シオンに付きっきりで守ってもらうわけにもいかないし」
『いや、付きっきりで守れるよ』
シオンが当たり前のように口にした言葉に反応するより先に〈スナイプ〉の周囲に光の壁が形作られていく。
「これ、魔力防壁……?」
『そ、俺の魔力で展開してるやつだけどね。……位置固定式だけど小型程度なら防壁に触れた瞬間死ぬくらい強めのやつ』
ここから動かずに戦場全体を狙撃すれば、気づいて近寄ってきたアンノウンたちも魔力防壁によって始末できるし〈スナイプ〉も安全に狙撃に集中できる。
大量のアンノウンに飲み込まれる心配はなくなるというわけだ。
「でも、それだとシオンの負担になるんじゃ……」
『この程度の結界、俺の魔力量からすればほとんど負担にもならないよ』
レイスの心配を笑い飛ばしたシオンはそのままこちらの言葉を待つこともせずに〈アサルト〉で戦場へと飛び込んでいってしまった。
戦闘が始まってしまっては今更呼び止めるわけにもいかない。
「(結局好き勝手されちゃってるのかもだけど……!)」
完全にシオンの思うがままにされてしまっているようだが、ここまで来れば下手に止めるのはむしろリスクが高い。
ならば、レイスのすべきことは少しでもシオンの負担が減るように動くことだ。
「(そして、今の僕にできることは……)」
飛び回る〈アサルト〉の死角から接近するアンノウンを撃ち抜く。
続けて一体、二体と的確に撃ち抜くレイスの瞳に迷いはない。
『……ホント、敵に回したくないスナイパーだよね』
通信越しにわずかに届くシオンの呟きに応じることもなく、レイスは静かに、しかし確かな闘志を瞳の奥に滾らせながら引き金を引くのだった。




