5章-ふたつの戦場②-
数分ほど飛べば問題の基地が目視でも確認できる位置まで来た。
そうして実際に状況を目にすると、センサー類に頼らずとも状況が芳しくないのがわかる。
『反応数、不明。確認できる個体は全て小型アンノウンですが、数がとんでもないです』
怯えを滲ませたコウヨウの報告通り、基地の周囲には数えきれないほどの小型アンノウンが飛び回っている。
遠くから見る限り個々の小型アンノウンもただの黒い点にしか見えないが、まるで黒い嵐のようだ。
『基地からのデータによると、昆虫のハチに近い姿のアンノウンのようです』
『まさに虫みたいに集ってるってわけね……正直見てて気持ち悪いわ』
アンナが不愉快そうに口にしたのにハルマも思わず頷いた。
ハルマは特別虫が苦手というわけではないのだが、それでもあの黒点全てが虫の姿をしていて基地に群がっているのだと思うと気分はよくない。
『もしもーし、Bチームもだいたい同じ光景を見てるとこです。マジでキモいのでちょっと帰りたい』
『全部駆除したら帰っていいぞ』
『……アイサー』
シオンとアキトのやり取りもそこそこにハルマたちはまもなく基地に到着する。
もう一方の基地へと向かったシオンたちも同じようにすぐに戦闘に突入するだろう。
「シオン、冗談はさておきあのアンノウンたちを相手にするのに気をつけることとかないのか?」
『見ての通り数がおかしい。個々はそれこそ生身の人間でも倒せる程度なんだろうけど、群がられたら機動鎧とはいえただじゃ済まない』
「それから、」とシオンは声の調子を硬くして続ける。
『とてもじゃないけどこの数が普通に現れるとは思えない。……多分コイツらを産んだメスのアンノウンが近くにいる』
「ハチのアンノウンらしく女王バチがいるってことか」
『まさにそんな感じ。まだご本人の気配はないけど……』
どこかのタイミングで戦場に姿を現す可能性は十分にある、ということなのだろう。
『こっちに来てくれれば俺が倒すだけなんだけどね』
『お前らしい心配だが、俺たちをあまり侮るなよ? ……ヤマタノオロチ並みの相手ならともかく、ただのアンノウンをお前無しで倒せないなんて情けないにもほどがある』
アキトの言う通り、シオンがいなければ強敵に対抗できないままではいられない。
今後のためにもAチームはこの戦闘をシオンに頼らず乗り越えられなくてはならない。少なくともアキトはそう考えているのではないだろうか。
『……無茶だけはしないでくださいよ。俺はその気になれば空間転移で助けにいけますから』
『ああ。意地を張って死ぬつもりはないから安心しろ』
真剣にこちらを心配するシオンにアキトが安心させるように言葉を返し、Bチーム
との通信は一旦切られた。
こちらにしろあちらにしろ、すぐに別チームとの通信をしている場合ではなくなるからだ。
『一対多数に向かない〈アサルト〉は〈ブラスト〉に接近するアンノウンに対処。〈ブラスト〉は出し惜しみせずどんどん攻撃しなさい。これだけ数がいるんだから狙い甘くても当てられるわ!』
『〈ミストルテイン〉はとにかく攻撃を優先しろ!』
アンナとアキトがそれぞれ指示を出し終えると同時に警報が鳴った。
『基地を襲うアンノウンの一部がこちらに向かってきます!』
『全砲門開け! まずは正面から迫ってくる群れに主砲以外を叩き込め!』
『〈セイバー〉、〈ブラスト〉は〈ミストルテイン〉の砲撃が落ち着いたら行動開始よ!』
〈ミストルテイン〉の射線を逃れて〈ブラスト〉と共に〈ミストルテイン〉の左側に移動する。
改めてアンノウンの動きを確認すると、接近してくるの群れは散開するでもなくひとつの流れのように一塊になってこちらへと向かってきているようだ。
〈ミストルテイン〉からすれば恰好の的にしかならない動きをしているあたり、知性らしい知性は持たない一般的なアンノウンと見ていいだろう。
「(それでもこの数は油断できないけどな)」
迎撃しやすい一方、あちらの勢いがこちらの砲撃を上回れば真正面からおびただしい数のアンノウンに群がられることになる。
目の前にある基地が救難信号を出すほどの事態になったのも、数の勢いに押されているからなのだろう。
『アンノウンの群れ、射程に入った! ぶちかますぞ!』
ラムダの言葉と同時に〈ミストルテイン〉からミサイルと砲撃の嵐が放たれる。
アンノウンの群れは多少それを避けようとする動きを見せたが、ラムダはそれも計算に入れて狙っていたのか見事に全ての攻撃が群れへと命中していく。
『全弾命中! しかし、二割ほど生き残っています!』
群れの後方にいたアンノウンには攻撃が届かなかったようで健在のまま〈ミストルテイン〉へと向かっていく。
まさにハルマも危惧していたように砲撃の勢いを上回られてしまったのだ。
このままでは〈ミストルテイン〉に真正面から襲いかかってくるだろう。
『回避間に合いません!』
『構わない! このまま正面からぶつかれ!』
ナツミの悲鳴に近い報告に対するアキトの返しに、ハルマは息をのんだ。
それはブリッジにいるメンバーも同じだったようで、通信越しに誰かの息遣いが聞こえたくらいだった。
『艦長! いくら相手が小型とはいえそれは!』
『問題ない! 俺が防御する!』
その言葉の直後〈ミストルテイン〉を覆うかのように光の壁が姿を現した。
それはまさに、シオンの使う魔力防壁と同じものだった。
『魔力防壁、前面に集中! ナツミ!』
『っ! 了解! 〈ミストルテイン〉正面突破します!』
アキトの呼びかけにその意図を読み取ったナツミは一切回避行動をせず、それどことか〈ミストルテイン〉を加速させた。
そして〈ミストルテイン〉を覆う魔力防壁にぶつかった小型アンノウンたちはその衝撃で弾き飛ばされていく。
いつかシオンが〈アサルト〉でやってのけた、魔力防壁を応用した体当たりだ。
シオンがやったときは相手が頑丈な機動鎧だったのもあって破壊するには至らなかったようだが、今回の相手は小型アンノウンだ。
機動鎧よりははるかに脆い体は弾き飛ばされるだけにはとどまらず、アンノウンたちの体をバラバラにしてしまっている。
そうして〈ミストルテイン〉の正面突破によって残る二割の小型アンノウンもそのほとんどが消滅した。
『か、艦長⁉︎ いつの間に魔力防壁なんてものを……⁉︎』
『ミスティ、説明はあとだ。……これなら〈ミストルテイン〉がやられる心配はなさそうだ。ナツミ、回避は考えなくていいからとにかく前に出てくれ!』
『了解!』
なんの事前説明もなく魔力防壁を扱って見せたアキトだが、あくまで冷静に目の前の戦場に集中している。
ハルマに限らずいつの間にそんなことができるようになったのかと問い詰めたいところではあるが、実際今はそんな話をしている場合ではない。
「(兄さんは、やっぱりすごいな。……でも、俺だって)」
いつの間にかまたさらに進歩している兄。
それに必ず追いついてみせると改めて決意しつつ、ハルマは目の前の戦場へと意識を戻した。




