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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
5章 古き都にて
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5章-≪天の神子≫の企み-


アキトから“命令”を与えられた日から状況に進展はなく、〈ミストルテイン〉は基地から出発した。


そんな〈ミストルテイン〉の格納庫で、シオンは〈アサルト〉の整備をしながら現状と自分のするべきことへと考えを巡らせる。


アキトからの命令は、〈セイバー〉に搭載されている謎の神剣の正体を探ることと、パイロット三名に引き続きECドライブの制御を含めた魔法の指導を行うこと。

それに加えて〈アサルト〉の整備と、必要に応じてアンノウンとの戦闘もこなさなくてはならないというのはなかなかの激務だ。


ただ、シオンはその気になればそれをこなすことができるし、アキトもそれがわかっているからああして命令をしてきたのだろう。

忙しいは忙しい。ただそれが何か問題になるほどではないというのが現状だ。


その中で最優先となるのが謎の剣の正体の解明だ。


それがわからなければハルマにECドライブの制御を教えたところで意味がないし、得体の知れない神剣など放置しておくのは危険すぎる。


ただ、これがなかなかに難航している。


そもそも魔術的な探知でいろいろ判明するのであれば、アキトに相談に行く前にシオンはあの剣の正体を把握していただろう。

それができていない時点でお察しといったところだ。


「(“神子”なんて呼ばれてるくせに、どうにもその手のものには嫌われるんだよね……)」


現状のシオンと謎の剣の関係は、シオンと〈光翼の宝珠〉との関係に近い。

もちろん少し探ろうとしただけで警告として攻撃を仕掛けてくる宝珠よりは数倍マシだが、それでも関係が良好とはい言い難い。


問題の謎の剣だが、とにかくシオンからの接触を拒んでくる。


仲介してのハルマとの契約に対してはそんな素振りはなかったことと、わかりやすくシオンのみを拒絶しているあたりからして謎の剣にそういった区別ができる程度の人格があるとわかったのは怪我の功名だが、それ以上のことを調べるのは厳しい。


「(拒絶されてるのを強固突破って手もなくはないけど、その手のバトルを艦内でやるのはさすがに不味いし……)」


人間に知覚できず物理的な被害も出ないレベル、それこそ宝珠がシオンの肉体に直接攻撃を仕掛けてきたときのようなもので済むならまだいい。

しかし使い手のいないはずの剣そのものが宙を舞ってシオンと串刺しにしようとしたり、魔法による攻撃を放ってくる可能性も否定はできない。


強引にことを進めた結果、それなりの力を持つであろう神剣と“神子”であるシオンの直接的な潰し合い(バトル)がうっかり勃発しようものなら、格納庫全壊やその余波による〈ミストルテイン〉墜落などというオチにもなりかねない。


それにそのレベルの衝突をすることになってしまえば、シオンが死ぬか剣が壊れるかのどちらかの結末しか待ってはいまい。


「(……いや、いっそそれでいいんじゃないか?)」


そもそもシオンはハルマが問題の剣の力を振るうことに反対だ。


〈光翼の宝珠〉のときのような命に関わるリスクにハルマを晒したくないというのはもちろんだが、それに加えてミツルギ三兄妹を必要以上に人外(こちら)側に踏み込ませたくない。


あの月夜の展望室で、シオンは玉藻前からミツルギ家の事情を聞いた。秘密を守ることにも同意した。


そんなシオンが最も避けなければならないのは月守家にまつわる事情をハルマたちに知られてしまうことだが、その秘密を守ることを考えた場合、人外や魔法との関わりは少ないに越したことはない。


知識を得てしまうことで彼らの中にある母親との思い出や、月守神社などの月守家に関係する場所や物から何かに気づいてしまうかもしれない。

あるいは事情を知らないが月守家と関わりのあった人外などから真実を聞かされてしまうかもしれない。


そういった“もしも”を排除するには人外や魔法自体から遠ざけるのが一番だ。


これまでにできてしまった繋がりや与えてしまった知識は仕方がないにしろ、これ以上リスクを高めるべきではない。


そして、問題の剣そのものを破壊してしまうことができたなら、ハルマを危険に晒す心配はなくなり、人外や魔法との関わりもひとつなくすことができる。

つまりはシオンにとってメリットしかない。


もちろんシオンが意図してそんなことをしたとアキトに知られてしまっては困るが、それは正直どうとでもできる。


「調査のために強引に接触したところ強硬に抵抗されてしまい、自らの身や周囲を守るためには破壊するしかなかった」


そう主張をすれば十分に押し通せるだろう。


「(どうせ神剣とやり合えば俺も無傷とはいかないだろうし……)」


傷ついたシオンを実際に目にすれば、命を落とすリスクを承知でシオンが剣を破壊しようとした、とまではさすがのアキトであっても思い至らないはずだ。


「……これが一番手っ取り早いな」


〈アサルト〉の内部をいじりながらポツリと呟く。


アキトの意図には完全に反することになるが、シオンの中では最早決定事項だった。

あとはタイミングの問題だろう。


やろうと思えば実行に移すのは難しくない。

強引に剣に干渉すれば、恐らくそういった反撃に出てくれるだろう。


目に見える反撃に出てくれるのであれば真っ向から戦って剣を壊せばいい。


目に見えないような反撃をしてくるのであれば返り討ちにした上で剣の内にある人格を飲み込んで(・・・・・)しまおう。


ただ、前者の展開になってしまった場合確実に格納庫は被害を被るし、〈ミストルテイン〉自体のダメージも発生する。そうなると航行中は避けたい。


「(次にどこかの基地に停泊したとき、ってとこか)」


具体的な日程は聞いていないが、目的地である欧州に到着すれば機会はあるだろう。少なくとも一ヶ月先などの遠い話ではあるまい。


それまでは調査については上手く濁しつつ、ハルマたちに教える魔法も自衛用の基本的なものに絞りつつ、シオンに都合よく進めていけばいい。


「(あとは……〈セイバー〉の修理プランもこっそり考えとこ)」


剣を破壊する展開になれば〈セイバー〉のECドライブはまず使い物にならなくなる。

代わりのECドライブなんて代物がすぐに手配してもらえるとは思えないので、当面別の動力を使う必要は出てくるだろう。


剣を破壊するプランにおける唯一のデメリットであるが、少なくともシオンにとっては安いものだ。


「(いっそ修理にかこつけていろいろパワーアップさせれば、みんなECドライブの制御なんて言い出さなくなるかも)」


そうなればシオンにとっては好都合であるし、なかなかに楽しそうな展開だ。


そんな未来を想像しフフフと少々怪しい笑みを浮かべつつ、シオンは機嫌良く〈アサルト〉の整備を進めるのだった。


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