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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
1章 魔法使いと人類軍
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1章-〈セイバー〉〈ブラスト〉〈スナイプ〉-


『――作戦目標、正面のアンノウン群。小型中型合わせ反応数、十四』


〈アサルト〉のコクピットにブリッジの男性クルー、コウヨウ・イナガワの声が届く。

それを聞き流しつつシオンはのんびりと発進のための準備を進めていく。


次のポイントへの移動中に偶然感知されたアンノウンの出現反応。

すぐさまシオン含め機動鎧のパイロットに緊急出撃の指令が出たわけだが、どうやら今回の標的たちはステルスをしていないらしい。

反応を追うことのできるアンノウンとの遭遇は人工島での戦闘以来で少し懐かしいような気にすらなってくる。


『作戦目標は、全アンノウンの速やかな殲滅よ。ただしシオン、アンタは出撃したらミストルテイン周辺で待機しなさい』

「え? 突撃しなくていいんですか?」


いつものごとく〈アサルト〉の機動力で突撃するつもりだったので、アンナからの指示は完全に予想外だった。


『今回、ステルスされてるわけじゃないでしょ? だったら無理にアンタを出す必要もないのよ』


シオンがここまで出ずっぱりだったのはステルスしているアンノウンを正確に捕捉できるのがシオンだけだったから。

つまりアンノウンがステルスしないのであればシオンを使う必要はない。


『不満?』

「いえいえ、俺の仕事が無いなら願ったり叶ったり。できればさっさと常態化してほしいくらいです」

『そう言うと思ったわ。でも、念のため警戒だけはしておいて』


現時点では目視できている数とセンサーが捉えている反応の数は一致しているが、あとからステルスしている個体が出てくる可能性もある。

端的に言えば、今回のシオンの仕事は不意打ち対策のセンサーだ。


『それじゃあ、機動鎧部隊は最初に説明した通りアンノウンを殲滅して。……ようやく万全のコンディションで戦闘できるチャンスよ。性能テストのためにも存分にやりなさい』

『『『はい!』』』


ハルマ、リーナ、レイスのはっきりとした返答の直後、〈アサルト〉を含めた四機の機動鎧は出撃する。




「(ちゃんと見るのは初めてか……)」


アンナの指示通り〈ミストルテイン〉周辺で待機を始めたシオンはアンノウンたちに向かって飛ぶ三機の機動鎧を後ろから眺めている。


赤のカラーリングの〈セイバー〉がハルマ、深い緑のカラーリングの〈ブラスト〉がリーナ、青のカラーリングの〈スナイプ〉がレイスの乗機だ。

そのすべてがシオンの駆る〈アサルト〉と同じくECドライブ搭載機である。


技師であり魔法使いでもあるシオンからすれば〈アサルト〉を含め人類の科学と人外の異能のハイブリットとも言えるECドライブ搭載型の機動鎧というのは非常に興味深いのだが、これまであまりじっくり観察する機会に恵まれていない。

あまりジロジロ見ているのがミスティにでも知られようものならスパイだなんだとギャーギャー騒がれるだろうし、十三技班を避ける都合あまり格納庫に居られなかったのだ。


「(基本の形状は〈アサルト〉とほぼ同じ。武装と一部の装備で差別化されてる感じか)」


例えば〈アサルト〉は他の三機に比べてブースターが大きく、武装は貧弱だ。

開発コンセプトが高機動での撹乱にあるのでそういう設計になっているわけだが、それと同じように他の三機にもそれぞれ個性がある。


真っ直ぐにアンノウンたちの元へ向かっていた三機のうち〈ブラスト〉と〈スナイプ〉が途中で減速する一方で〈セイバー〉だけが逆に速度を上げた。

その〈セイバー〉の右腕には一振りの剣が握られている。


〈アサルト〉に装備されている〈ライトシュナイダー〉のような光学兵装ではない、特殊な合金で作られた実体を持つ大剣。

それを迷いなく振るう〈セイバー〉は正面のアンノウンを見事に両断する。


さらにそのまま左腕を少し距離のあるアンノウンに向けたかと思えば、その腕から鋭利な刃を持つアンカーが放たれてアンノウンの頭部を穿つ。


そして背後から迫ってきたアンノウンの攻撃を最小限の動きで回避すると振り向きざまにその首を刎ね飛ばした。


「……侍かな?」


アンナから軽く聞いている〈セイバー〉の開発コンセプトは、近接戦闘特化。

〈アサルト〉に次ぐ機動力と現在振り回している大型の物理剣〈アスカロン〉をメインに両腕の鋭利なアンカーなど近距離での戦闘に特化した武装を装備している。

ただ、今見せたような華麗な動きは機体性能というよりハルマ個人の操縦技術によるものだと思われる。

センサー類で警報などは出るだろうが、だとしても背後からの攻撃をあんなに容易く躱せるものではない。


そんな見事な暴れっぷりにアンノウンたちも警戒を強めたのか、距離を保ちつつ〈セイバー〉の周囲に散開する。


その内の一体の頭部に、突如風穴が開いた。

おそらく認識するまもなく絶命したであろうアンノウンが地面に落ちていく間にも、さらにもう一体のアンノウンが同じ末路を辿る。


その元凶は〈セイバー〉のやや後方に控える〈スナイプ〉だ。


磁力をもって弾丸を放つレールガンタイプのスナイパーライフル〈フェイルノート〉をメインに射撃に特化した機体である〈スナイプ〉は、精密な射撃でさらにアンノウンたちを撃ち落としていく。


まるで機械のようにぶれることなく頭部を撃ち抜くあの機体に普段穏やかなレイスが乗っている。

軍士官学校時代から天性のスナイパーと言われていた彼を知っているシオンでも、普段とのギャップが普通に怖い。


そんな〈スナイプ〉による無情な射撃と〈セイバー〉の刃に着々と数を減らされていくアンノウンたち。

まだ生き延びている個体は逃げに転じようとするが、多分もう遅い。


『ハルマ、少し下がって』


冷静に通信で指示を出したリーナ。それにすぐさま応じた〈セイバー〉が若干後方に下がった直後、〈スナイプ〉の隣に控えていた〈ブラスト〉の両肩に取り付けられたミサイルポッドから無数のミサイルが発射された。


すでにロックオンしていたであろうミサイルは真っ直ぐに逃げに転じていたアンノウンたちを追尾し、着弾と同時に真っ赤な爆炎でその体を飲み込んだ。

辛うじてミサイルを逃れた一体も、次の瞬間には〈ブラスト〉の持つ大型の火器から放たれた閃光に飲まれ、炭のようなものになって地面に落ちていく。


「……えげつねえ~」


今まであまり見る機会がなかった分、想像以上の火力に思わず言葉が漏れる。


〈ブラスト〉はズバリ、高火力を重視した機体だ。

基本的な形状は同じでありながら、腰やら肩やらにゴツイ兵装が装備されているためパッと見のシルエットは他三機よりもだいぶ大きい。

特筆すべきは両肩のミサイルポッドと両腕でなければ持てないほどの大型火器〈プロメテウス〉。

さらに腰部に二門のガトリング砲、両足にサブのミサイルポッドが付いているなどまるで火薬庫のような機体である。


今までは索敵に問題があったこともあってあまり活躍してこなかった三機だが、最新型というだけあって性能は間違いなく高い。

加えて今年入隊した新兵の中でもトップクラスのパイロットを乗せたことで、そこらのアンノウンなら易々と殲滅できるだけの戦力となっていると言ってもいいだろう。


――ただ、


「(ECドライブ搭載機の割に、光学兵装少ないな)」


理論上は永久機関なのでエネルギーが無制限である。というのがECドライブの強みのはず。

それを活かすなら光学兵装に重きを置いた方がよさそうなものなのだが、〈ブラスト〉の〈プロメテウス〉はともかく〈セイバー〉と〈スナイプ〉のメインとなる兵装は光学兵装ではない。

〈アサルト〉だけがまったく実体のある兵装を持たないことも含め、少し引っかかる。


『アンノウンの殲滅を確認しました』


考え事にふけっていたシオンの意識はコウヨウの報告によって引き戻された。


『三人ともおつかれさま。シオン、隠れてるアンノウンは?』

「……あ、いえ。とくに気配はないので近くに隠れてるってことはないです」

『よろしい、これで作戦は終了よ、全員速やかに帰艦しなさい』


指示が出てしまったのでモタモタしているわけにはいかない。

先程の考え事についてはひとまず置いておき、シオンは〈ミストルテイン〉への帰艦を急いだ。


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