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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
5章 古き都にて
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5章-玉藻前との語らい①-


三時間ほど続いた宴も終わりを迎え、シオンたちは宴を開いた大広間とはまた別の部屋へと移動していた。

ただし全員というわけではなく、盛大に酔っ払って使い物にならないメンバー(主に十三技班の男連中)とその介抱のための人手はまた別の部屋で休ませている。


こうして玉藻前と別室に移動したのは、シオン、アキト、アンナの真面目な話を彼女とするべき三人と、玉藻前から声をかけられたハルマとナツミ、当然のようについてきていた朱月の計六名だ。


「本当に、久しぶりにとても楽しい宴でした」

「あはは……うちの何人かが死ぬほど酔っぱらっちゃってすいません」


酒好きかつ宴会好きな十三技班の面々の醜態を思い出して苦笑しか出てこない。

実はまだ深夜とも言わない時間帯なのだが、ゲンゾウ、ロビン、リンリー辺りは確実に二日酔いで明日も使い物にならないだろう。


「いいのですよ。宴なんてあれくらい羽目を外すほうがいいのですから。……しかし、お酒を飲めない子供たちも多かったとはいえ今回は順番を間違えてしまいましたね。次の機会にはアキトさんやアンナさんも後を気にせず楽しめるように配慮しましょう」

「そうですね。次はぜひ気兼ねなく楽しませてもらいたいです!」


微笑み合う玉藻前とアンナは双方共に少し顔が赤いくらいで酔っている様子はない。

どちらも酒好きではあるのだが、こうして宴会をすれば終わりというわけではないとわかっていてしこたま飲み倒すほど考えなしというわけでもないのだ。


「……さて、では少し真面目なお話をしましょうか」


用意されていた座布団に腰を下ろした玉藻前に倣ってシオンたちも同じように腰を下ろす。


「とはいえ何から話したものでしょう? みなさまのほうから早く話したいことなどありますか?」

「じゃあ俺からいいですか?」


玉藻前の問いかけにシオンは一番に申し出た。こうしてシオンが動けばアキトたちも動きやすくなるだろう。


「改めて、ヤマタノオロチの再封印をしていただきありがとうございました」

「あら、それはいいのですよ。どちらにしろわたくしがやることにはなっていたでしょうから」

「だとしても、俺ではどうにもできませんでしたから……」

「そうですね。オボロの一件からなかなか無茶をしていたようですし」


当然のようにオボロの名前を口にした玉藻前に少し驚いたが、コウヨウという“目”を〈ミストルテイン〉に忍ばせていたのだからその辺りの経緯は把握していたとしてもおかしくはないだろう。


「とにかく、再封印については気に病むことも心配することもありません。少なくともわたくしの目が黒いうちは二度と封印が解けることはないでしょうから」

「それであれば安心ですね」


玉藻前はすでに一〇〇〇年以上を生きているが、まだまだ寿命を迎える心配はない。彼女の言う通りであれば最低でももう一〇〇〇年は安心していいだろう。

一〇〇〇年以上先に復活したとして、それはその時代の者たちに任せればいい。


ひとまずシオンの唯一の心配事はこれで解決した。

となれば、以降はアキトたちのターンということになる。


「では次は、私たちからいくつか質問をさせていただければと思います」


アキトの言葉に玉藻前はあっさりと頷いた。「なんでも遠慮せず聞いてくださいな」と微笑む姿は堂々としている。


「ではまず、何故イースタルだけではなく俺たちまでお招きいただいたのでしょう?」


面識のあるシオンを招くのはともかく、アキトたちを招く理由が見当たらないというのは手紙を受け取ったときからの疑問だ。


「一番の理由は、シオンの周囲にいる人々をこの目で見定めたかったからです。やはり心配でしたから」


「心配する必要などないくらい、みなさま良い人ばかりでしたけれどね」と微笑む玉藻前の態度にシオンとしては少しむず痒い。

加えて「これからもシオンと仲良くしてあげてくださいね」とまで言われてしまうとなんとも気恥ずかしい。


「一番の理由、ということは二番目以降の理由もあるのですか?」

「ええ。みなさまにはいろいろとお話をしておきたかったのです。ただ、わたくしからのお話はそちらからの質問の後にしましょう」

「……わかりました。後ほど詳しく伺います」


玉藻前の雰囲気は穏やかだが、今話す気はないというのがはっきりと伝わってくる。

本人が意図しているかはともかく、反論を許さない雰囲気は彼女が決して見た目通りの可憐な少女などではないのだとこちらに知らしめるようだ。


並の人間であれば萎縮してしまいそうな空気だが、それで怯むアキトではない。


「次に、単刀直入にお尋ねします。……あなたには、イナガワ船員以外にも人類軍内部の人間との繋がりがありますね?」


この空気の中聞きにくいであろう質問を投げかけたアキトにシオンは若干ヒヤリとした。ただ、彼の立場として絶対に聞かなければならないことだったのも確かだ。


「質問というよりは確認ですわね」

「状況的に、ほぼ確信していますので」

「なるほど。その確認には「はい」とお答えしましょう」


アキトの確認に近い問いにあっさりと玉藻前は頷いた。


「具体的にどこの誰と繋がりを持つのかまでは教えるわけにはいきませんわ。ただ――、」

「ただ?」

「わたくしも、その人物も、決して人類軍や人の世に害をなすつもりなどありません。これが、この世界を守るためのものであることだけは断言しましょう」


「信じるか否かはあなたたちにお任せします」と玉藻前は考えの読めない微笑みを浮かべる。

彼女の言葉の真偽はシオンにすらもわからないが、それ以上彼女が話すつもりがないというのは確かだった。


「(まあ艦長も想定ないだろうけど……)」


ここで具体的な内通者の名前が出てくるとはアキトたちも考えてはいなかったはず。“内通者がいる”と確認できただけでも及第点といったところだ。


「イナガワ船員はその内通者の力を借りて〈ミストルテイン〉に搭乗させたということでよろしいですか?」

「ええ。……わたくしはちょっと術を使えば簡単だと言ったのですが、どこかで綻びが生じるかもしれないからといろいろ裏で手を回してくださったそうです」

「一応聞きますけど、具体的に術でどうするつもりだったんです?」

「適当な男性をひとり妖術で傀儡にするだけです。簡単でしょう?」


ニコリと笑いながらかなり物騒なことを言っている玉藻前。

軽いノリでこういう悪い解答が出てくるあたりが厄介なところである。


ひとまず制止をかけて裏工作で対応した内通者には拍手を送っておきたい。


「それで? なんでまた〈ミストルテイン〉にコウヨウさんを置いとく必要があったんですか?」

「もちろん〈光翼の宝珠〉を見守るためですよ」


隠すことなく返された答えはシオンたちも予想していたものだった。


「性質上悪用できる代物ではありませんが、秘めた力の大きさを思えば無視もできませんからね。異変があれば察知できるようにしておく必要はありました」

「つまり、宝珠が人類軍の手にあることも戦艦に使われることも把握していて許容していたと?」

「ええ。わたくしに限らず有力な人外……≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫ミランダさんなんかもそれには同意されていますよ」

「やっぱあの人も知ってましたか……」


正直に言えば予想はしていたのだ。


ミランダほどの魔女が〈光翼の宝珠〉の存在を把握していないとは考えにくい。

情報網が主に日本国内に限定される玉藻前が把握している情報を、各国に従業員を派遣している≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫が把握していないというのはむしろ不自然なくらいだ。


ただそうなると、ミランダはあのアマゾンでの一件以前から〈ミストルテイン〉のことを確実に認知していたはずなわけで。


「(絶対全部わかってて協力申し出たやつじゃんあの人……)」


当時はミランダが妙に積極的に協力を申し出てくることに疑問しかなかったが、元々〈ミストルテイン〉を知っていたとなれば話は変わる。

玉藻前のように配下を潜り込ませるようなことはしていなかったようだが、せっかく縁ができたのだからしっかり関係を持っておこうとでも思ったのかもしれない。


「っていうかそれ、〈月薙〉が人類軍にあるのも最初から知ってたのでは?」

「まあそうですね。朱月を従わせられる人間がいるとは思っていなかったから、誰も使えないと思っていたのだけれど」


「まさかシオンと契約するとは……びっくりしました」と話す様子に違和感はないので、そのあたりは間違いなく偶然だったらしい。

ただ、玉藻前やミランダが裏で関わっているとなるとどこかに彼女らの仕込みが紛れているのではないかと疑いたくなってくる。


「心配しなくとも、わたくしたちは人類軍にそこまで干渉していませんよ?」

「俺、口に出してないんですけど?」

「アキトさん共々顔に出てますもの」


指摘されて思わずアキトを見れば、彼もまた勢いよくシオンの顔を見るところだった。

「仲良しですねえ」と微笑む玉藻前は、それから気を取り直すようにひとつ咳払いをする。


「とにかく、〈光翼の宝珠〉が〈ミストルテイン〉にあることは有力な人外であればみな把握していたことです。アキトさんが契約に至ったこともわたくしからみなさんにお伝えしておきましたから、心配せずに力を活用していただいて大丈夫ですよ」

「大丈夫って……」

「完全な形で宝珠の力が振るわれるとはいえ、それを脅威と危惧して〈ミストルテイン〉を敵と見なすことはありませんよ、ということです」

「それは、本当によいのですか? 俺があなたたち人外に向けて宝珠の力を振るう可能性もあるのですよ?」

「問題ありませんよ」


玉藻前はアキトの言葉に対してなんの躊躇いもなく答えた。


「もしも宝珠の力がわたくしたちに向かうとしたなら、相応の悪事をわたくしたちが成したということなのでしょう」

「俺は軍人です。上から命令次第ではそうとも限りません」

「いいえ、限るのですよ(・・・・・・)


自信を持って言い切る玉藻前の姿はアキトたちから見れば不可解かもしれない。

しかしシオンには彼女の言わんとしていることがわかる。


「宝珠が認めたあなたに、なんの罪もない者を討つことはきっとできないでしょう。加えて、仮にあなた自身がその気になろうとも宝珠自身がそれを許容しないはずです」


実際に接触して報復を受けたシオンにもわかる。

〈光翼の宝珠〉は少々行き過ぎているレベルで清廉潔白であることを追求する代物だ。


宝珠が認める()が相手でなければ、例え契約者であるアキトの意向であっても容赦なく反発するだろう。

“神権契約”という強力な契約を交わしている以上即座に天罰ということはないだろうが、アキトに力を貸さない可能性は十分にある。


「それに、わたくしたちだって決して弱くなどありません。心配せずとも神宝のひとつやふたつ、打ち破ってあげますよ」


冗談のようにそう口にしながらクスクスと笑う玉藻前の姿からは確かな自信があるのが伝わってくる。

アキトやアンナたちはその反応に呆気に取られているようだった。


「さて、他には何かありますか?」

「……いえ、私からこれ以上はありません」


予想しなかった展開と情報量のせいで玉藻前のペースにのまれてしまったのか、それ以上アキトやアンナたちから質問が出ることはなかった。


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