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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
5章 古き都にて
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5章-影に潜むもの-


〈光翼の宝珠〉についてある程度話し終えた後、ブリーフィングルームでの情報交換はお開きとなった。


シオンとしてはもう少し話を続けても特に問題なかったのだが吐血したという絵面のインパクトを周囲が無視できなかったようで、お前は医務室行きだとアキトやアンナに強制連行された。


医務室にてシオンの体になんの異常もなしと診断された時のふたりの意味がわからないという顔は容赦なくシオンの腹筋を刺激し、笑いの止まらないシオンをアンナが殴り、最終的に医務室のドクターにアンナが叱られるという珍事に発展したがそれはそれである。


「で、どうして艦長の私室に連れてこられたんでしょう?」


車椅子をアンナに押されるままにたどり着いた部屋でシオンは首を傾げる。


一応しばらくの絶対安静を言いつけられているシオンは医務室かシオン自身の船室のどちらかで休養を取らされるのが自然だろう。

医務室から連れ出された時点で前者ではなさそうだったので後者かと思っていたのにまさかの第三のパターンだったわけだ。


「そりゃあ、五日間絶対安静だからでしょ」

「んー? ……まさかとは思いますけどまたまた艦長の部屋で寝泊りしろと?」

「そうだが?」


当たり前だろうとでも言いたげな顔で見られたが、全然そんなことはあるまい。


「説明を要求します!」

「お前が大人しく休んでいるかどうか監視役が必要。十三技班は多忙。アンナも暇ではない。昨日のことを踏まえてしばらく仕事量を抑える俺が監視するのが妥当。以上だ」


シオンの文句は想定済みだったようで、アキトの返答はとても早かった。

こうもテキパキと対応されては文句をつけにくいし、シオンの意思など関係なくこれはもう決定事項であるらしい。


「正直脱走騒ぎもあったし、絶対安静の期間終わってもこのままアキトの部屋に置きっぱなしにしてやろうかと思ってるんだけど……」

「なんですと⁉︎」

「気持ちはわからんでもない。シオ坊、アキトの坊主には結構弱いからな」


予想外にも未だシオンの膝の上に陣取る朱月がアキトとアンナの側に回った。


「弱いって何さ⁉︎」

「いやシオ坊、前にこの部屋に入れられたときだって文句言いながらも最後まで大人しくしてたじゃねえか」

「アンタの性格なら嫌と思えばバレないように外出歩くくらいはやると思って警戒してたのに大人しかったし。アキト相手だと結構素直に言うこと聞くんだなーって」


「アタシの部屋でも大人しくするのかもだけど、性別違うと面倒なこともあるし……」とアンナは頬を掻く。


「ていうか脱出未遂が問題になるならそれこそ懲罰房とかに入れるとこなんじゃないですか?」

「そんなことしたら一分と待たずに逃げるでしょアンタ」

「あ、うん。逃げますね」


自分で指摘しておいてなんだが、確かに懲罰房に入れられるとなれば一瞬で逃げる。なんなら入れられる前に逃げる。

そもそも、シオンが本気で逃げようとして逃げられない部屋など人類軍には作れない。


「要するに、お前が比較的大人しくしてくれて監視もできる環境なんてこの部屋ぐらいしかないってわけだ」

「え〜…………」


シオンをどこかに留めておきたいのなら、そこがシオンが逃げたくならない(・・・・・・・・)部屋でなければならない。

アキトはそう言っているのだ。


「意味のない問答はさておき、お前に少し聞いておきたいことがある」


流れるようにシオンを車椅子からベッドの上に移動させつつアキトが言う。

ここまで来ると本気でシオンには選択肢がないとわかってしまったので、もう抵抗すらせずにアキトの質問を待つ。


「単刀直入に聞くが、対異能特務技術開発局についてどう考えてる?」

「ずいぶんざっくりとした聞き方しますね」

「そういうの今はいいからさっさと答えてちょうだい。どうせひとつやふたつ考えてることあるんでしょ?」


根拠なんてないはずなのにはっきりと言うアンナもアンナだが、それにまったく動じないアキトもアキトである。

まあシオンだって彼らの立場であれば似たようなことを言っているとは思うのだが。


「まあ、ごく普通の人類軍の一部署、なんてことはないでしょうね」


人間が見ればただの刀でしかない〈月薙〉をECドライブに組み込むなんて普通は思いつかないであろうことをやっていた時点でかなり怪しかったのだが、それだけなら「漏れ出ているエネルギーに気づきエナジークォーツの代わりに使える可能性を見出した」という可能性もゼロではない。


しかし〈光翼の宝珠〉は違う。

百歩譲ってエネルギー反応に気づいてエナジークォーツの代わりに使えると思った可能性はあるが、そもそもシオンですら手を焼くような神宝が人類軍に手にできるような形で放置されているというのがおかしい。


これだけのものが人外に管理されていないというのがシオンから見ればあり得ない。

〈月薙〉程度であればともかく、〈光翼の宝珠〉は使う者が使えば冗談ではなく国ひとつくらいなら余裕で喧嘩売れるレベルの代物なのだ。

それが放置されているなんて大量破壊兵器をうっかり置きっぱなしにしているも同然。誰がどう見ても大問題である。


つまり人類軍が普通に入手できるようなものではないし、仮に人類軍がなんの偶然か手にしてしまったとしても人外側で回収に動く勢力がいそうなものだ。


そんなものが人類軍に普通にあり、ECドライブに組み込まれている。

そのような状況が成立するとすれば――


「多分、大なり小なり人外の関与(・・・・・)はあります」


人類軍が入手してから人外が接触して宝珠を預けるに値すると見たか、あるいはなんらかの目的で人外から人類軍に託したか。

どちらにしろ何かはあったはずだ。


シオンの言葉自体はアキトたちも想定していたのだろう。ふたりに驚きや動揺はない。


「むしろ艦長たちは何か掴めてないんですか?」

「ダメだ。〈月薙〉のことも出して情報の開示を要請してるんだが、機密の一点張りでな」

「あからさまですね」


ある意味何かあると宣言しているようなものだが、軍という組織ではしばしばそういった方法で隠し通せてしまうのだから困ったものだ。


「そうなってくると馬鹿正直に探りを入れるのは無理そうですね」

「かと言ってお前を動かす気はないぞ?」


アキトの言葉が意外でシオンは目を白黒させる。


「いいのかよ? シオ坊がその気になりゃできないことなんてそうそうねえんだぜ?」

「だとしても今はやめとけ。ただでさえ脱走未遂で人類軍内の警戒が高まってるんだ……味方になってくれるかもしれない相手まで敵に回す余裕なんてねえだろ」

「ああ……確かに今突っつき回すのは危ないか」


今のところ厳罰が下るようなことはないようだが、一応シオンは人類軍との約束を思い切り無視したばかりなのだ。

今後はともかく現時点ではしばらく大人しくしておいたほうがいい。


「(人類軍に味方してる人外がいるなら、尚更か)」


人類軍が≪天の神子≫であるシオンをどうこうしようというのは、現実的に難しい。

だからこそこれまでのシオンは人類軍をほぼ脅威として見ていなかった。“敵に回すのは面倒”程度の認識でしかなかった。


しかし人外の関与はほとんど確実なものとなった。

しかも〈光翼の宝珠〉のような強力な代物を預けるほどの関係が結ばれているとなると話は変わる。

例えば神殺しに特化した魔法具のひとつでも人類軍の手に渡ると、神子であるシオンにとってはとてつもない脅威になってしまう。


ここまでは可能性のレベルの話だったこともあり深く考えてこなかったが、確信を得てしまった以上は今後あまり人類軍を軽く見ないほうがいいのかもしれない。


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