4章-水を得た魚のごとく①-
一息に村の上空に舞い上がった〈アサルト〉からアキトは周囲に目を光らせる。
村の周囲を覆っていた光の柱はそのほとんどが光の粒子に変わって消え失せているが、今のところはまだアンノウンの現れる気配はない。
とはいえ、本当に現れないのであればそもそもオボロもアキトたちに村の防衛を頼んだりはしないだろう。
そんなアキトの考えに答えるかのように、〈アサルト〉のセンサーが無数の反応と警報を響かせる。
「来ますよ艦長!」
「わかってる!」
センサーの反応だけではなく目視でも空間に生じた亀裂が確認できている。
出現反応の総数は十前後といったところだろうか。
「昨日よりは少ないか……」
「だとしても単独で相手するには多すぎるのは間違いないですけどね!」
続々と亀裂から姿を表す小型と中型のアンノウンたち。数は瞬く間に増えていき、あっという間に五〇を超えた。
シオンの言う通り〈アサルト〉だけで相手にするのは危険な数だが、アキトは最初からそんな不利な戦いをするつもりなどない。
素早く通信機器を操作してとある場所へと通信をつなげる。
「こちらアキト・ミツルギ! 〈ミストルテイン〉、聞こえているか⁉︎」
「ちょっ⁉︎ 艦長!」
アキトの行動に慌てるシオンを無視して待てば、すぐに聞き慣れたアンナの声が通信越しに届く。
『聞こえてるわよアキト! っていうか急に〈アサルト〉がどっか行ったってことでこっちは大騒ぎだったんだけど⁉︎ それになんでアンタが運転してるの⁉︎』
「説明は後だ。とりあえず救援を頼む! 現在こちらは五〇以上のアンノウンに囲まれてる状況だ!」
『一晩音信不通の挙句なんで急にそんなことになってんのよアンタたちは⁉︎ とりあえず機動鎧部隊、緊急発進よ!』
「すまん、頼む!」
昨日〈ミストルテイン〉を飛び出して行ってそのまま今の今まで一度も連絡なし。
挙句連絡してきたかと思えば盛大にトラブルに巻き込まれているアキトたちに対してアンナが怒るのも無理はない。
しかし怒鳴る一方で迅速に救援を寄越す手筈を整えてくれているあた、やはりアンナ相手だと話が早くて助かるものだ。
「……普通に〈ミストルテイン〉巻き込んでますけど、いいんですか? これオボロ様のための戦いですよ?」
「なんの話だ?」
〈ミストルテイン〉との回線を切った直後シオンが問いかけてくるが、アキトはそれに対してわざとらしく肩をすくめる。
「なんの話って……」
「俺は自分たちの身を守るために救援を呼んだだけだぞ?」
「あーなるほど。そういう……」
アキトは別に村を守るために〈ミストルテイン〉を呼んだのではない。
〈アサルト〉一機のみという戦力で無数のアンノウンに囲まれるという絶望的な戦力差を前に救援を求めただけだ。
〈ミストルテイン〉がアキトとシオンを助けるためにアンノウンと戦ったことで村に被害が出るのを防いだとして、それはただのついででしかいない。
「悪くない言い訳ですけど、細かい説明求められたらどうするんですか?」
「……俺たちはグレイ1との交渉を無事に終えて基地に戻るところだったが、そこでアンノウンの群れに遭遇してしまった。村に被害が出ないように配慮して戦うのは人類軍として当然の判断だから説明する必要もない」
「で、なんかよくわかんないけどその間にオボロ様は村人たちを連れてこっちの世界からいなくなってました。と」
「この説明に疑問を持たれる心配はまずないだろう」
軍人として褒められたことではないのは百も承知だが、今回についてはこうしておくのが一番だとアキトは判断した。
「普段もこれくらいズルくやれませんかね?」などと呆れ顔のシオンもこの考えに反対することはないだろう。
あとは、村を守り抜くことだけ考えればいい。
「……極光の加護よ」
ボソリと呟かれた言葉の直後、村を覆うようにうっすらと光のドームが形成された。
「今の俺じゃ大したもんは張れませんけど、簡単な防壁です。小型までなら防げると思います」
「助かる。……だが、」
言葉の途中で〈アサルト〉を左側から村へ接近していた群れへと向けて急加速させる。
鳥のような姿の中型アンノウンの数は五体。
その隙間を一瞬で駆け抜ける刹那に右腕で抜き放った〈ライトシュナイダー〉で五体すべてのアンノウンの首を斬り落とす。
続けて速度を殺さずUターンした〈アサルト〉は反対側から村へと迫っていた三体の四足歩行の中型アンノウンの頭部を左腕に構えた〈ドラゴンブレス〉で撃ち抜いて殲滅する。
そんな〈アサルト〉を狙ってやや離れた位置にいるアンノウンたちから無数の魔力による攻撃が放たれるが、それをあっさりと躱すとそのまま高出力モードの〈ドラゴンブレス〉で薙ぎ払ってしまう。
無駄のない動きで瞬く間に十体ほどの中型アンノウンを討ち取った〈アサルト〉は、剣と銃をその腕に堂々とアンノウンたちの前に立つ。
「俺は、アンノウンたちを村に到達させる気なんて毛頭ないぞ」
〈アサルト〉を駆るアキトの目は、強い戦意を宿すと共に爛々と輝いていた。




