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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
1章 魔法使いと人類軍
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1章-“掃除”とシオンの腕前-


“掃除”の説明から数時間。〈ミストルテイン〉は一か所目のポイントに到達。


標的であるアンノウンの反応はやはりなく、ステルスしているであろうアンノウンを見つけ出すためにシオンの乗る〈アサルト〉は〈ミストルテイン〉から出撃した。


そして出撃から五分が経過した現在――


『多いんですけどぉ!?』


シオンの報告した反応の数、推定三〇(・・)

中型ではないが小型とも言い難い微妙なサイズ感の鳥型アンノウンがその数、シオンのことを出迎えたわけである。

機動鎧に乗っているとはいえあの数に纏わりつかれては危険なため、シオンは群れをなして追いかけてくるアンノウンたちから逃げ回っている。


そして戦術長であるアンナを筆頭にブリッジにいるメンバーはそれを遠目に眺めている状況だ


「こっちでも目視したわ! でも反応だけは相変わらずないわね」


あれだけの数がしっかり見えているにもかかわらず、〈ミストルテイン〉に搭載されているセンサーのほとんどは全く反応を示さない。

動体センサーだけが辛うじて反応を示しているが、残念なことにこのセンサーではアンノウンの鳥と普通の鳥を見分けることも難しいので、代わりにすることはできないだろう。


『こんだけ派手に動いてるくせに反応ないあたり、人工島に出たのよりもよっぽどたちが悪いですね!』


シオンのよくわからないテンションに気が抜けそうになるのだが、実際のところこれは由々しき問題でもある。


以前人工島に出現したアンノウンもステルスする能力を持ってはいたが、戦闘態勢に入れば自然とそのステルスは解けていた。

しかし今シオンを追いかけているアンノウンたちは未だにステルスを継続したまま。

思えば港町を襲っていた中型アンノウンたちも派手に暴れていたにもかかわらず反応ないままだった。


どうも、アンノウンたちに変化が起きているように思う。

しかも、人間にとって悪いほうにだ。


「どうする? 目視はできてるから援護はできるけど……」

『いえ、反応ないならホーミングじゃなくてマニュアル照準でしょ? うっかりフレンドリーファイアとかは勘弁なんで』

「オイ、俺の腕をなめてんのか?」

『一体一体相手にするとか面倒極まりないんで、ソッコー仕留めますよ!!』


砲手であるラムダのドスのきいた声はシオンにも聞こえていただろうが、あえてスルーしているようで、〈アサルト〉が急加速して一気に群れを引き離す。

さらに引っ掻き回すように激しく空を駆けることでアンノウンたちを撹乱し始めた。


「前から思ってたが……アイツ、技術科だよな? その割には随分腕がよさそうだがよ」


軍士官学校のカリキュラムとして、全生徒が機動鎧の操縦を学ぶことになっている。

しかし、基本的な運転技術を教わった後の訓練量は学科によって全く違う。


最も多いのは各部門のエースを育成する特別科、次に一般的な軍人を養成する普通科、以降細々とした専門科がそれに続いていく中で、技術科は訓練量が最も少ない。


そもそも技術科の生徒は技師になるので、人類軍の中では軍人として扱われない。

原則戦闘に参加することがないので、自然と戦闘するための訓練は後回しになる。

これは軍士官学校を卒業した人間なら誰でも知っていることだ。


そんな中、技術科出身にもかかわらず当たり前のように〈アサルト〉を乗りこなすシオンはかなり稀な存在と言えるだろう。

会話をしているのはアンナとラムダだけだが、ブリッジにいる全員がそのことについて興味を示しているのがなんとなく察せられる。


「あの子、技術科の中じゃ二番目の腕前でね。多分特別科に放り込んでもやってけたわよ」

「それが技術科か? 特別科に移籍させるべきとこだろうに」

「あたしだって何度か話はしたわよ。……でもフラれちゃってね」


人類軍内部での待遇を考えれば、技術科よりも特別科を卒業したほうが良いものになる。しかしシオンはあくまで技術科にこだわっていた。

「命の危険のある軍人なんて勘弁願いたい」というのが本人の言い分だ。


「……しかし、それなら尚更おかしいではありませんか」


後方からミスティが口を挟んできた。

その間も彼女は鋭い目つきで空中を飛び回る〈アサルト〉を睨みつけている。


「あれだけの操縦技術。技術科の訓練量で習得できるとは思えません。であれば自主的に訓練していたと考えるのが妥当ですが、純粋に技術科になりたいのであればそんなものは不要なはずです」


だから、何か企んでいたのではないか? と言いたそうな雰囲気がありありと感じ取れる言葉に、アンナは思わず乾いた笑い声をもらした。

ミスティがムッとした様子でこちらを見るが、学生時代からシオンを見てきたアンナからすれば見当違いも甚だしい考えだ。


「確かに自主的な訓練はしてたけど、それ自体本人の希望ってわけじゃないのよ」

「……意味がわかりません」

「あの子が十三技班(・・・・)配属予定だったって言えばわかる?」


アンナの言葉に、ミスティは言葉を失った。

一緒に話を聞いていたラムダは一瞬驚きに動きを止め、そして――


「あのガキ……はぐれ技班(・・・・・)の人間かよ!?」


作戦中とは思えないラムダの驚きの叫び。

あまりの大声に、ここまで話に参加していなかったブリッジのメンバーまでも何事かとこちらに視線を向けているほどだ。


「……あの~、はぐれ技班ってなんなんですか?」


控えめに質問を投げかけたのは索敵や分析を担当している若い東洋系の男性軍人、コウヨウ・イナガワだった。


「あー、まあ半分都市伝説みたいなところあるからな、あそこは」

「知らなくてもおかしくないわよね……」


人類軍には無数の技術班があり、原則支部名と通しの番号で管理される。

この北米を例にすれば、人類軍北米支部第一技術班などといったところだ。


問題の技術班は、人類軍本部第十三技術班。

人類軍発足直後に組織された古参中の古参の技術班のひとつである。

そして、人類軍の全技術班の中でも五本指に入るほどの腕を持つとも言われる技術班でもあるのだが、十三技班にはそれ以外にも名が知られている理由がある。


「あの技術班には、腕はいいが変わり者(・・・・)の技術者が揃うってな」

「変わり者って……」

「俺が聞いた噂じゃあ……隻眼の元スナイパーだとか火薬マニアだとか……他にも一癖も二癖もあるようなのが揃ってるらしい」


ラムダの説明に対して怯えるように微妙な悲鳴を漏らしたコウヨウだが、実際のところ彼もラムダもそんなことを言っている場合ではない。


「あのねふたりとも。言っておくけどこの艦の技術班、問題の十三技班よ?」


数秒の沈黙。

直後、ラムダとコウヨウの驚きの声をバックに〈アサルト〉の〈ドラゴンブレス〉がアンノウンたちを薙ぎ払い、戦闘は終わりを迎えたのだった。


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