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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
1章 魔法使いと人類軍
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1章-信頼のない関係-


シオンの立ち去ったブリッジ。

その中心とも言える艦長席に座るアキトは大きく息を吐いた。


「お疲れだな。あのガキの相手はそんなに気を張るもんなのか?」


ブリッジ前方からの軽口。視線をやれば黒の短髪で頬に傷跡を持つ体格のよい青年が不敵な笑いを浮かべながらこちらを見ている。


「ラムダ、あれを単なる子供だとは思わないほうがいい」


彼の名はラムダ・バーデル。この戦艦の砲手を務める青年だ。

そしてアキトやアンナの同期で長い付き合いの男でもある。


「そういう割に甘いっつーか、気安く付き合ってるみたいじゃねえか」


確かにアキトはシオンに対してはあまり堅苦しい話し方をしない。

それはシオンに提案されたということもあるが、それ以上にすぐにふざける彼に対してそのような対応をするのが馬鹿らしくなったという部分も大きい。


そう思われていること自体はある意味狙い通りだが、アキトとしては異論がある。


「俺たちは決して気安く付き合ってないさ。俺にしろ、あちらにしろな」

「は? お前はともかく、あっちはだいぶ懐いてるように見えたぞ?」


シオンは基本的にアキトの言葉には素直に従う。

そこにご褒美という名の見返りを求めるが、所詮それはスイーツなどの嗜好品レベルで大したものではない。

シオンもまた気安く、特に懐いているアンナに対するような態度でアキトに接してきているので、アキトに対して好意的であるように見えるのもわからないでもない。


だが、アキトからすればそれは甘い。

シオンのまだ幼さを残している外見に騙されているのかもしれないが、彼はそこまでシンプルな相手ではないとこの数週間で理解した。


「イースタルは、ああ見えて人類軍に対してかなり警戒心を持っている」

「あんな軽い調子のガキがか?」

「アイツのあれは、半分演技だ」


シオンは基本的に真面目な場であってもすぐにふざけるし茶化す。

最低限のラインは守っているようだが、それでもふざけている姿のほうが圧倒的に印象に残るだろう。

実際のシオンの性格でもあるのだろうが、少なくともアキトや人類軍関係者の前で見せるアレはわざとだ。

ああしてふざけて見せることで油断させ、相手のペースを崩し、自分に有利な流れに持ち込もうとしている。


それを説明してやればラムダはもちろん、そばで黙って聞いていたミスティや他のメンバーも驚いた表情を浮かべている。


「マジか……。信じられねえな」

「実際、かなり気を張っているんだろうな。そうでもなければブリッジに呼び出されたというだけであそこまで考えを巡らせたりはしない」


シオンはブリッジに呼びされたことに対して、その裏を言い当てた。

本来の鋭い気質とアンナによる教育があったから、と言えばそれまでだが、そもそも「ブリッジに呼び出された」だけでそこまで深く考えるというのがおかしいのだ。


普通であればブリッジに呼び出されたところで深く考えずブリッジに来て話を聞くだけだろう。

それなのにわざわざその裏まで考えていたということはつまり、「何か裏がある」と最初から疑っていたという証拠でもある。


おそらく、シオン・イースタルという男は人類軍の自身に対するアプローチの全てに裏がある(・・・・)ことを前提としている。

それは彼が人類軍を警戒している証拠に他ならない。


人類軍にミスティのようなシオンを強く警戒する人間がいる一方で、シオンも決して人類軍に心を開いているというわけではないのだ。


「アレは、あの年齢にしてはかなり厄介な男だ。なのに年相応に子供らしい部分もある。……完璧じゃないからこそ余計に厄介なやつなんだよ」


そのせいで、アキトはシオンと対峙する時に異常に気を張る羽目になっているのだ。


「面倒なのを押し付けられちまったもんだな……。アーノルドはアイツとの相性最悪みたいだし」

「それは……否定はできませんが……」


アキトの苦言もあり、ミスティ自身シオンと対峙する態度に難があることは理解しているのだろう。それがわからないほど彼女は能力が低いわけではない。

だが、それを自覚しているとしても生真面目なミスティとふざけた振る舞いをするシオンでは相性が悪い。

現状、ミスティはシオンにすぐに振り回されてしまうだろう。


「アンナがいるのが幸いだった。イースタルは彼女に弱いし、彼女はアイツについて詳しい。俺が気づかない部分も彼女なら見抜くだろう」

「……そうですね」

「アイツは昔から問題児の扱いが上手いからな」


少し不満気なミスティと納得顔のラムダ。

そこの認識はふたりもアキトと同じなようだ。


「アイツのことだ。今だってなんかフォローするために出て行ったんじゃねえか?」

「だろうな。だがまあ、彼女だけというのも不安ではあるんだが……」


欲を言えば、彼女以外にもシオンについて詳しい人間がほしい。

ただ詳しいだけではなく、彼に肩入れせずに人類軍側の立場を維持したままであってもらわなければならないのは難しいところだが、現状のままではアンナが何かの事情で動けない場合が心配ではある。


「せめて、彼の振る舞いに違和感や前兆を感じられる人間がほしい」


アキトの言葉にミスティやラムダも考え込む。


そんな中、ふと視線を感じた。

ブリッジ前方を見れば、操縦桿の前に座る少女、アキトの妹であるナツミ・ミツルギがこちらを見ている。


「……ナツミ。何かあるのか?」

「あ、ううん。なんでもない」


すぐに操縦桿へと視線を戻してしまったナツミの真意はわからない。

ただ彼女はクラスメートとしてシオンと親しい間柄にあったと聞いている。今の会話に思うところもあったのだろう。


ナツミや、弟であるハルマであればあるいは今話していたような役割を果たせるのではないかと思わないでもないが、少なくともアキトからそれを持ち掛けるつもりはない。


ハルマは人外への敵意が強すぎるのであまり適していないし、ナツミは基本的に素直な性格だ。

友人を疑うという行為自体得意とは思えないし、適性もあるかと言えば答えはNOである。


本人が名乗り出れば話は別だが、現状はその様子もなさそうだ。


「まあいい。とにかくイースタルには気をつけてくれ。積極的に人類軍に敵対するとは俺も考えてはいないが、味方というわけでもないだろうからな」


シオンに関する会話を切り上げて、話題はこれから向かうべきアンノウンの出現地域に移っていくのだった。


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