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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
4章 神の名を冠するものたち
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4章-お節介な親友-


「野郎共! 新しいオモチャが来るぞ!」


アジアにおける目的地への到着まであとざっと丸一日というタイミングで、ゲンゾウが高らかに宣言した。

そして一瞬の沈黙の後に十三技班の面々がざわざわと騒ぎ出す。


「この艦に来るってことは新型機専用ってことっすかね?」

「そもそも兵装なんですか? ……もしかしてさらなる新型機とかだったりして!」

「喧しい! 最後まで聞きやがれ!


各所から飛び出してくる質問やら感想やらの嵐をゲンゾウが一喝して黙らせる。

そうして場が落ち着いたのを確認してから、アカネがタブレット片手にゲンゾウの隣に立った。


「今回納品されるのは、新型四機に使うための追加兵装。単純な武器じゃなくて、機能拡張用の後付けパーツになってるわ」

「実戦テスト開始から数か月でそんながっつりしたもんが来るんすか?」


ギルが驚いているのと同じように、少々珍しいパターンに技班メンバーがざわつく。


基本的に機能拡張を目的としたパーツというのは、対象の機体がそれなりに運用されてから不足部分や問題点を改善するために用意される。

もちろん最終的にはそれらを改善した新型機を開発するわけだが、そうホイホイ新型を作れるわけではないのでひとまずはパーツで対応するわけだ。


しかし、通常は最低でも半年以上はデータを集める期間を設けるはずで、数か月でパーツを用意するというのはあまり聞かない。

加えてこの数か月の間に四機が大きな不具合や弱点を露呈させたというわけでもない。


まだ不足点も改善点も大して見つかっていないであろう機体用の拡張パーツとはどういうことなのだろうか?


「そこら辺の事情は俺たちのところまで降りてきちゃいねえが、上の連中の考えなんて気にするだけ無駄って話だ。俺らの仕事は手元にあるもんがいつでも最高のコンディションで動くようにするだけだからな」


上の人間に聞かれると機嫌を損ねそうなことをゲンゾウは平然と口にするが、実際その通りなのだ。

こういった技術部門にも当然派閥だの利権だのなんだのといった面倒極まりない事情は存在している。それがパーツの開発などに影響することも十分あり得るので、現場で仕事をするシオンたちが騒いだところでどうにもならない。

渡されたものを最大限使えるようにすることだけ考えておけば、とりあえずは問題ない。


「(まあ、俺までそういう感じでいいのかってところはあるんだけども)」


単純に十三技班に属する技師というだけであればシオンもゲンゾウの言う通り細かいことはスルーしてもよかったのだが、〈アサルト〉のパイロットも兼ねているシオンはそこまでシンプルなスタンスではいられない。


「親方ー! 〈アサルト〉にはどういうのが来るんですか?」

「あ゛? ああ、〈アサルト〉には……喜べ、お前お待ちかねの実体兵装だ」

「え? ……それはそれでどうなんです?」


以前、〈アサルト〉に実体兵装を載せたいと言ったのは確かにシオンだが、上の判断でそれが届くとは正直思っていなかった。

何せ〈アサルト〉のコンセプトは高機動を活かした強襲と撹乱だ。実体のある兵装を抱えて重量を増せば機動力を落とすことになる。

コンセプトを決めたであろう上の人間たちがそのコンセプトに反するものを出してくるというのは、シオン自身が望んでいたこととはいえ少し気にかかる。


「心配しなくても機動力も捨てられたわけじゃねえから安心しろ……まあお前は多少苦労するかもしれねえが」

「なんかボソッと不穏なこと言った!」

「とにかくだ。明日到着する基地で現物を受け取ることになってる。全員そのつもりで準備しとけ! 以上!」


ゲンゾウの号令でわらわらと散っていくメンバーだが、シオンの心配は完全に置いてきぼりをくらった。

しかもゲンゾウとアンナも他にやることがあるのかそそくさと去って行ってしまったので先程の不穏な発言について聞くことができない。


「まああれだ。上が送ってきた以上黙って使うしかねえだろうし、お前が心配しようがしまいが関係ねえよな」


フォローにすらなっていない、暗に諦めろというニュアンスの言葉を残してロビンや他の面々もその場を去って行く。

ギルとふたりでその場に残されたシオンは大きくため息をついた。


「……親方がNG出してないなら危ない代物ではないんだろうけどさ」


実際それの運用についてシオンが意見するのが厳しいとはいえ、質問くらいは答えてほしかった。

まあシオン自身がゲンゾウの立場だったなら、面倒がって説明を省いた自信はあるのだが。


そんなシオンの様子をじっと見つめてくるギル。その態度にシオンは首を傾げる。


「ギル、なんかやけに静かだけどどうかした? 悪いもんでも食べた?」


普段騒々しいと言っても差し支えないギルが黙っているという状況は、彼の喧しさに慣れているシオンからすれば違和感しかない。

冗談交じりに指摘してみるも、それでもなおギルから返事はない。


「ホントになんか変なもんとか食べた? それとも実は高熱があるとかそういう……?」

「それはシオンのほうじゃねえの?」


焦り始めたシオンに対して、ようやく口を開いたギルがずいと顔を寄せてきた。

互いの鼻がぶつかりそうな距離でギルの瞳がそらすこともなくシオンの顔を凝視して来る。


「普段のお前だったら、とりあえず実体兵装が来たこと喜ぶだろ? んで、一拍遅れてさっきみたいな細かいこと気にする。違うか?」


違うかと聞いてきてこそいるが、ギルの中ではおそらく結論が出ている。

そしてこの三年間シオンのこと一番近くで見てきたのは間違いなく彼だ。


そんなギルがそう(・・)思ったということは、勘違いという言葉で簡単に片づけることは難しい。


「なんか悩んでるんだろ? 聞くぞ?」


完全に"シオンが何か悩んでいる"と結論づけている、かなり強引な申し出。


しかしそんな乱暴な親友の気遣いは、シオンにとって決して不愉快ではなかった。


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