3章-戦いは謎を残して②-
都市の北方から〈ミストルテイン〉へと帰艦したシオンはブリッジへと直行し、外出時の私服姿のままで艦長席に座るアキトに戦闘中のことを直接報告した。
「……つまり、テロリストたちはお前よりも早くアンノウンたちの近くへ移動し、潜伏していたと?」
「そういうことになります」
アキトの問いにシオンは淡々と返事をしたが、それを聞いたアキトの表情は信じられないという心情を如実に表していた。
そばに控えるアンナやミスティも似たり寄ったりの表情でシオンのことを見つめている。
「そうは言うけど、今回の出現からアンタが現場に行くまでってあっという間だったじゃないの」
「はい。十分かかったかかかってないかってとこだと思います」
「……これまで、テロリスト側の機動鎧に飛行ユニット搭載機は確認できてないわ。飛行もできない機動鎧が〈アサルト〉より先にアンノウンのところまで駆けつけられると思う?」
「思わないからこうして頭抱えてるんですよ」
普通に考えて、アンナが言ったような芸当が旧式の装備しか持たないテロリストたちにできるはずがない。
だが、事実としてできてしまっていた。
アキトたちはもちろん、それを説明したシオン自身もまたその事実を信じきれないでいる。
「……実際にそうだったのだから、信じる信じないの話でもないだろう。重要なのはどうやってそれができたのか、だ」
アキトの一声で四人がそれぞれ考えを巡らせる。
「その一。普段から砂漠地帯にテロリストたちがある程度散開して潜伏してて、アンノウン反応があれば即座に急行するパターン」
「確かに彼らの装備でも可能な方法ではありますが、テロリストたちに広大な砂漠を広く網羅できるだけの人員と機体があるとは考えにくいでしょう」
「人類軍がやるならともかく、テロ組織がやるのは厳しいわね」
ミスティとアンナが迷う素振りもなくシオンの考えを否定した。そう言われればその通りなのでシオンもすぐに納得するしかない。
「その二。先回りを狙ったとかではなく、近くに潜伏しつつこの都市を監視してた部隊が偶然現場に居合わせたのをチャンスと見て奇襲を試みた、とか?」
「……なんの解決にもなりませんが、それが一番現実的な気もしますね」
「いや、都市の偵察なら機動鎧を持ち出す理由がない。機動鎧の数も少なくはなかったのだから、偵察部隊ではないだろう」
少し納得しかけたミスティに対してアキトは冷静にそう指摘した。
確かにアンノウンたちにあっさりとやられてしまったとはいえ、それなりに戦う準備を整えた部隊だったような気はする。
「……こうやって考えてはみるものの、そもそも今回の先回りがこれまでも行われてたって証拠はないのよね」
「そうですね……偵察部隊じゃなかったにしろ、別の目的で近くに潜伏してた部隊がたまたま俺の索敵に引っかかっただけ、なんてこともあり得なくはないですし……」
これまでの奇襲の数々と今回の先回りが同じであると結論付ける情報はない。
例えば明日のセレモニーに合わせて何かを仕掛けるために今の内から都市の周辺に隠れていただけという線もあり得る。
「……こんなことならアンノウンけしかけるんじゃなかった」
「いや、テロリストを拘束したところでおそらく無駄だろう。これまでの捉えた構成員たちも何ひとつ情報を漏らしてはいないらしいからな」
ひとりふたり生かしておけば情報を吐かせることができたのでは、と思ったがアキト曰くそう簡単にもいかないらしい。
「人間の手では吐かせられなくても自分であれば……」という考えが一瞬頭をよぎったが、そもそも記憶や心を読む魔法は専門外であるし、あまり物騒なことをして人類軍に警戒されては困るのでやめておいたほうがいいだろう。
「残念だが、結論を出すには情報が少なすぎるか」
アキトの言葉に三人は頷くことしかできなかった。
実際これ以上どれだけ話をしたとしても、それはあくまで憶測の域を出ない。むしろ下手な先入観を持ってしまえば真実から遠のいてしまう危険もある。
少なくとも今は、あまり考えすぎないほうがいいのかもしれない。
「イースタル、最後にひとつだけ可能性の話をしておきたい」
「なんでしょう?」
自ら言い出したというのに何故かアキトはわずかにためらうような素振りを見せる。
ちらりと一度ミスティのことを確認してから、ゆっくりと口を開く。
「テロリストに、人外が協力している可能性はあるか?」
予想外の質問に、アキト以外の全員が驚きで言葉を失う。
「今回のことが偶然だったならまだ納得はいく。しかしもしもテロリストたちが意図してやったことだとしたなら、普通の方法でできるとは思えない」
「……だから、人外や魔法が関係しているかもしれないってわけですか」
「我ながら安直な考えだとは思うがな」
あくまで直感であり、そう考えるに至った根拠があるわけではないらしいアキトは自信なさげだが、シオンは目から鱗という心地だった。
「いえ、十分にあり得ると思います」
「あり得るの!?」
「そりゃあ、人間にもいろんなのがいるように人外にだって色々いますから」
アンナは随分と驚いているが、〈ミストルテイン〉が出会ってきた人外たちがたまたま人間に対して好意的であったというだけで、そうではない人外だってもちろん存在はする。
そういった輩が人類軍に反抗するテロリストたちに力を貸している可能性は十分にある。
「そうだと仮定して、今回のカラクリに心当たりはあるか?」
「……残念ですけど、そこまではわかりません。基本的になんでもありですからね……」
少なくとも奇襲の直前などに人外の気配を感じたことはない。
今回については妙な穢れの気配はあったが、アンノウン以外に穢れを扱うことはできないので別の問題と見ていい。
「ぱっと思いつくものなら……未来視や占いの類でアンノウンの出現位置を事前に予測して先回りしてるとか?」
「軽いノリでかなりとんでもない方法出してくるわね……」
「実際そういう真似ができる人外だっているってことです」
もちろん百発百中で未来を言い当てるなんて真似ができる人外は限られるが、中東という地域のみを対象に出現する時間帯と場所を数パターンまで絞り込むくらいなら、決して無茶な話ではない。
ただ、これはあくまで可能性の話だ。実際にどういった方法を用いているかは定かではない。
それこそ、シオンですら予測不可能な前代未聞の方法でそれが実現されていたとしてもおかしくはない。
「……わかった。基地の責任者や上層部にもその可能性については伝えておこう。……明日のセレモニーのこともある。もう戻ってくれて構わない」
結局のところなんの結論も出ることはないままブリッジでの話し合いは終わってしまった。
仕方がないとは思いつつもすっきりとしない気持ちのまま、シオンはブリッジを離れるのだった。




