3章-深夜の密談③-
「だとすれば、テロリストたちが活発になってるせいで出現が増えてるってことなのかしら?」
穢れによってアンノウンが集まるというのなら、テロリストの活性化に伴う人々の不安が影響していると考えられなくもない。
中東最大の大都市であるこの都市であれば人口も多いので、発生する穢れも多いと推測できる。
そう考えれば、出現数の増加も集中も説明できそうに思える。
しかし、アキトはアンナの考えに対して小さく首を振った。
「俺から昨晩イースタルに尋ねたんだが、そういうわけでもないらしい」
「どうして?」
「この程度の不安でアンノウンは寄ってこないそうだ」
中東地域全体的に情勢は不安定だが、この大都市は人類軍基地のおかげでアンノウン被害もなく、経済的にも中東内では最も栄えている。
平和な国家と比べればもちろん人々の不安は強いだろうが、中東という土地で見れば最も健やかな生活を営めていると言っていい。
「人口の多さはあるが、個々の抱えている負の感情は大して大きくない。言い方は悪いが、この都市よりももっと負の感情まみれの人里はいくらでもある、とイースタルは言っていたよ」
「確かに、小さくて貧しい町や集落なんて探せばいくらでもあるか……」
その土地に暮らす人々からすれば失礼極まりないだろうが、事実としてそういう場所はある。
シオンの言葉を信じるなら、そういった土地のほうがアンノウンにとって魅力的な餌場ということらしい。
「でもそうだったら、どうしてこの辺に出現が集まってるのよ?」
「わからん。イースタルも首を傾げていたが……」
言葉を濁すアキトはこの先を言うべきか言わないべきか悩んでいるようだった。
過去の付き合いから予測するに、この先言おうとしていることについてアキトの中で確信が全くないのだろう。
「確信がないのはわかったけど、勿体ぶらないで教えてよ」
先手を打てばやはり予想通りだったようで、アキトはためらいつつも口を開いた。
「先に断っておくが、出現が集中していることについては何もわかっていない。それとは別に気になることがあるという話だ」
「別の気になることって……?」
「テロリストたちの動きに、無駄がなさすぎるように思う」
テロリストたちの動き、となればアンノウン出現に合わせて出撃した人類軍への奇襲作戦のことだろうが、それに無駄がないという言葉の意図がピンと来ない。
「アンナは、奇襲作戦を実行するにあたって彼らがどう動いていると思う?」
「そりゃあ……アンノウンの反応を検知しては、索敵に引っかからないように注意しつつ人類軍が戦闘してるポイントまで移動して来るんでしょ」
シンプル過ぎるように思えなくもないが、そもそも奇襲作戦自体がシンプルなものなのだ。奇をてらう必要もないはずなので、この予測でおそらく間違えていない。
「俺も最初はそう考えていたんだが、最近少し自信がなくなってきた」
「どうして?」と視線だけで示して続きを促せば、アキトは手近にあったタブレット端末にいくつかのデータを表示した。
軽く目を通せばそれがこれまでの奇襲作戦でのテロリスト側の戦力についてのデータだとわかった。
最初に遭遇したときもそうだったが、数機の旧式機動鎧とそれより少し多い数の小型戦車で部隊が構成されており、単なる烏合の衆ではなくそれなりに統制されているのだとわかる。
「こうして見ると、結構豊富に武器を持ってるみたいね……」
「中東のテロリストは旧暦の軍部がそのまま離反したケースも多いからな。だが、俺が気にしているのはそこじゃない。一度に出撃してきている数だ」
アンナの話していたのとは少しばかりニュアンスの異なる言い回しに、黙って続きを促す。
「初回の奇襲の際は警戒していなかったから仕方がないとしても、二回目以降にこの数の接近に事前に気づけないというのはおかしいと思わないか?」
「それだけあっちがジャミングに力を入れてるって話じゃないの?」
「そうは言っても、あちらが使っているのは旧暦の機体だ。数段上の性能を持つこちらのセンサーを簡単には掻い潜れないはずだ。特に、あの数が移動してくるとなれば尚更な」
そう言われてみれば、確かにアキトの言う通りだ。
アンノウンにばかり目を奪われてしまってテロリストたちのことをあまり意識できていなかった自分の視野の狭さに反省する。
「だとすると……テロリストたちがどこからか最新のジャミング装置を手に入れたってこと?」
「断定はできないが、一番現実的な可能性ではあるな」
仮にそうだとすれば、テロリストたちだけで研究開発ができるとは考えにくい。
外部の人間や機関――最悪の場合、人類軍内部にテロリストたちに技術を横流ししている者たちがいるということになる。
「ただでさえアンノウンの相手で忙しいっていうのに、まだ人間同士のいざこざがあるってわけね……」
「ああ。……人類軍は人外たちを野蛮だと言うが、彼らのほうが余程穏やかなのではないかと思えてくる」
これまでアンナたちが接してきた人外たちは、シオンも含めて人間という他種族に対しても穏やかだった。
魔女たちは知恵と物資を提供してくれた。高圧的な態度を取っていたハチドリですらも人間を攻撃しようという意思はなく、戦いの中で力を貸してくれたほどだ。
全ての人外がそうであると思っているわけではない。
しかしそうだとしても、同じ種族で争いを続ける人間よりは余程平和的な生き物なのではないかと思えてしまう。
そんなアキトの考えに、アンナも頷くことしかできなかった。




