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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
3章 "悪"とは何ぞと問われれば
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3章-大西洋の旅路②-


だらだらとしたおしゃべりが繰り広げられている中、ぱんっ、とひとつ手を叩く音に全員の視線が音の発生源へと集まる。

音を出したのは今までこの場にいなかったゲンゾウだ。


「お前ら……時間が空いたってことは、わかってるな?」


格納庫でうだうだしていることを叱られるのかと思いきや、ゲンゾウは面々を見渡してニヤリと笑った。

それに応えるようにシオンとアンジェラ、エリックを除くメンバーが似たような笑顔を返した。


「よし野郎共! これより異能技術応用兵器案のコンペを始めるぞ!」

「「「「おー!」」」」

「待ってそれ俺聞いてない!」


元気に拳を突き上げた面々にシオンは置いてきぼりである。


「あら? そういえばあの時シオンくんお昼に行ってたわね」


「あらあら」と口にしてはいるが全く困っている様子のないアカネがかいつまんで説明してくれた話によると、シオンに魔法を教わり始めたことと≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫産の魔法が施された現代兵器の数々というサンプルを手に入れたことで、十三技班メンバーの技術者魂に本格的に火がついてしまったらしい。


まあいつかはこうなるだろうと予想していたのでシオンも別に驚かないが、確実に巻き込まれるシオンにはちゃんと事前に教えておいてくれまいだろうか。


「というわけでだ、実際作れるかはともかくとしてそれぞれ魔法を活用して作ってみてえものの案を出してこいって話にしてたわけだ」

「ひどい! そんな面白そうなこと俺の知らないところで!」


すまんすまんとゲンゾウが謝る中、他の面々の手でホワイトボードだのデータを写すためのモニターだのがどやどやと周囲に運ばれてくる。


「面白そうなことだとか言ってるけどな。どうせテメエのことだ。魔法使った武器の案なんて十や二十くらい、もう用意してあんだろ?」

「……そりゃあ、この十三技班で三年やってきた俺がそんな面白そうなネタに手ぇ出さないわけないじゃないですか」


人類軍の技術班の中でもトップクラスの技能を持つと共に、ナンバーワンの問題児集団と呼ばれる十三技班だが、それらの評判を得るに至ったのにはもちろん相応の理由がある。


人類軍の技術班は主に新型兵装を開発する開発部門と、実戦で使用されている各種機械の整備・修繕を行う整備部門の二種類に分けられる。

そんな中、十三技班は後者に分類されるわけだが……実のところ開発側としてのほうが名が売れている。

というのも、人類軍では年に数回、全技術班による新規開発コンペティションが行われているのだ。


人類軍の技術班、あるいは人類軍所属の技術者であれば誰でも参加可能なコンペティション。

このコンペで採用されればそれなりの金額の賞金があることはもちろん、技術者としての地位の向上、班に回される年間予算の増額などいろいろなメリットがあるということで毎回多くの人間が参加する。


十三技班はそのコンペにて常連と呼ばれるほどの採用歴を持つがゆえに、高い技術力を認められている。

一方で、定期的に色々な意味で(・・・・・・)すごすぎるものを発表してしまうがゆえに、問題児扱いを受けていたりもする。


「素晴らしい技術力は認めるが、法制度の穴を突いて非合法スレスレの火力の兵器を作るのはやめなさい」というのが、昨年リンリー主導で開発した新型爆薬のコンペの後に言われた言葉だった。

もちろん、狙ってそういった危険物を作ったわけではない。

単に「これこれこうやったら今までの三倍のパワーの爆薬が作れるんじゃない?」というリンリーの閃きと好奇心から生まれた物である。


よくも悪くも尖った(・・・)人材が集まってしまう十三技班には探求心や好奇心の塊のような人間が多く、そして最初そうでもなかった人間も影響されてそうなってしまうのだ。


結論、十三技班の人間に魔法なんていう未知かつ面白そうなものを与えてこうならないわけがないのである。


「さて、誰からやる?」


ゲンゾウの言葉に一斉に手があがると共にアピールの声の大合唱が始まる。

人間、こういうシチュエーションではどちらかと言えば手を挙げない者のほうが多いだろうに、この十三技班ではそういうことは全くない。

ちなみに、普段あまり主張するタイプではないアンジェラもしれっと混じっていたりもする。


「じゃあ……カナエ。お前からいけ」

「はいっす! アタシから提案するのは、SFでもよくある思念制御型の無人ドローンについて……」


普段のやる気の無さをどこに置いてきたのかと思うテンションで手馴れたプレゼンを繰り広げるカナエ。

先程までの騒がしさとは真逆に全員が黙ってカナエの話を聞いている。


「――以上。意見感想その他色々聞きたいっすけど……まずはシオンくん! これって魔法的にあり?」

「ありです!」


即答と共にサムズアップして見せればカナエがその場で見事なガッツポーズを見せる。


シオンから魔法の基礎について教わってきている十三技班の面々だが、まだまだ十分に魔法について理解できているわけではない。

ある程度できそうだという予測を立てた上で案を出してきているようだが、結局シオンから「できそう」という言葉をもらうまでは確信できないわけだ。


ちなみにこのカナエの案は十分に実現可能なレベルのものだ。

無機物を頭で考えるだけで遠隔操作することはもちろん、軽めの知能を与えて自律挙動させる魔法もある……主にものぐさな魔女が家事をサボるために掃除道具などに使うものだが、応用はできるだろう。


その後も"シオンがいつも使っている飛行魔法を活用した新しい飛行ユニット"や"魔法によるブーストを前提とした小型、高火力の光学兵装"、"誰でも使える魔力防壁ジェネレーター"などなどの案で盛り上がりつつ時間は過ぎていくのだった。


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