3章-セレモニーへのお誘い-
〈ミストルテイン〉の現在位置は北米大陸。
アマゾンでの一件の後始末を終えたあと、特に火急の任務がなかった〈ミストルテイン〉は北米大陸に呼び戻され、北米に出現するアンノウンに対する遊撃任務を遂行していた。
「式典への参加……ですか?」
そんな〈ミストルテイン〉のブリッジに突然呼び出され、アキトの口から今後の予定を説明されたシオンは盛大に首を傾げた。
そんなシオンの反応は予想されていたのか、アキトからの目配せひとつでミスティがタブレット片手に説明を始める。
「二週間後、中東地域に新たに建造された大型ビルディングのオープニングセレモニーが予定されています。そして艦長と貴方にセレモニーへの参加が要請されているのです」
「……艦長が当主やってるミツルギ家は日本の名家だって話ですからわかりますけど、なんで戦災孤児かつ色々と怪しい感じの俺にまでお声がかかるんですかね?」
「要請の理由を説明されたわけではありませんが、おそらくはデモンストレーションが目的なのでしょう」
シオンという存在について、人類軍内部では情報の共有が行われている。
手出し無用の件を周知してもらうという約束もあるのでそうでなくては困るわけだが、一方で軍の外部――要するに世間に対しては、全く公表していないわけではないがまだ詳細までは出していない。
シオンも軽くニュースや電子の新聞などに目を通したが、せいぜい"人類軍は異能の力を扱う協力者を迎え入れた"くらいの情報までしか出回っていないようだった。
流石に各国家の政府は人類軍と同程度の情報を持っているだろうが、民間人は存在くらいしか把握していないと見てよさそうだ。
そんなシオンの情報を注目の集まるセレモニーの場で民間レベルまで発信、周知する。
少なくともアキトたちは今回の話をそのように見なしているようだ。
「そんな面倒なことしなくても、記者会見のひとつでもすればいいでしょうに」
「ターゲットが民間人のみであればそれもよかっただろうが、セレモニーの場を選んだのは各国の高官への配慮だろう。」
どういったものについて説明するにしろ、実物を見せるのが最も話が早い。
全ての人間に直接見せるなんてことは流石に無理があるが、各国の政府関係者にはちゃんと実物を見せておこうということなのだろう。
「わかりました。ついでに言えば拒否権なんてものないんですよね?」
「ああ。何せこのセレモニーにはゴルド最高司令官も参加されるらしいからな」
「……もしかしなくても、最高司令官直々に俺を紹介するつもりでは?」
「あの人ならそのつもりだろうな」
「絶対にボイコットできないやつじゃないですか……」
こうなったらシオンは大人しくセレモニーとやらに参加する以外にない。
見世物のような扱いを受けるのは正直癪だが、大きな施設のオープニングセレモニーともなれば豪華な食事なども並ぶだろう。
それらを楽しませてもらえるというのなら、そう悪い話でもない。
「では、本艦はこれより進路を中東地域へと向ける。全船員にも共有してくれ」
シオンの了承の返事を聞いてすぐにアキトが通信担当の女性軍人に指示を出す。
艦内放送という形で末端の兵士までまとめて今後の方針が伝えられることだろう。
「にしても、中東でそんな立派な建物作って大丈夫なんですか? 確かあの辺って結構物騒ですよね?」
十年前、各国はアンノウンという共通の脅威に対抗すべく人類軍を発足し、長く続いた人間同士の戦争は終結した。
――という風に一般的には言われるが、人間同士の争いがこの世から完全になくなったわけではない。
国家というレベルで言えば確かに和平を結び戦争を放棄しているのだが、それぞれの国の全ての人間がその選択を指示しているわけではない。
特に旧暦時代から内戦などが見られたような国家では、テロリストと呼ばれるような勢力と現地駐在の人類軍との小競り合いは続いている。
そういった危険な地域の例として一番に話題に挙がるのが、これからシオンたちが向かう中東地域というわけだ。
「セレモニーに最高司令官まで出るくらいですし、人類軍もがっつり建設に関わってるんじゃないですか?」
「ええ、防衛システムなどに人類軍の技術が提供されているそうです」
「じゃあ、テロリストから見たら面白くないんじゃないですか?」
テロリストたちにもそれぞれ色々と思想はあるようだが、基本的には現在の世界に対する不満を抱えている。さらに、国家が軍事力を捨てた社会で彼らを鎮圧するのも人類軍だ。
つまり現在の世界の象徴とも言える人類軍というのは、彼らにとって物理的にも精神的にも最大の敵というわけだ。
「実際面白くはないでしょう。しかし、それもひとつの狙いではあります」
情勢が不安定な地域だからこそ、率先して人類軍が進出していくことでテロリストたちを牽制するというのが人類軍側の思惑らしい。
逆に刺激してしまう危険はもちろんあるが、それでも制圧する自信があるということなのだろう。
「セレモニーなんてものすごーく狙われそうですけど?」
「そのための防衛システムです。テロへの対策はもちろんですが、地下には対アンノウン用のシェルターも用意されています」
自信ありげに話すミスティにむしろフラグが立ったような気がしないでもない。
しかしアキトやアンナも特に心配をしていないようなので、信用しても大丈夫そうだとシオンは判断することにした。




