画面越しの世界は
今年、大学を卒業し元々内定をもらっていた地元のそこそこの企業に就職を決めた。
慣れない環境のせいか心身共に疲れ切っていた。
いつものように家に帰り、いつものように買ってきたコンビニ弁当をレンジで温め、テレビをつけた。映し出された画面の中には今人気のアイドル『Flower Sketch』が歌い、踊っていた。
パフォーマンスが終わり司会者がセンターの子にインタビューをしている。
「いや〜、素晴らしかったです。今回の新曲は過去最高難易度のダンスと言われていますが、特に難しい振り付けはどこですか?」
「そうですね、本当に全体的に難しいんですけど特に難しいところと言ったらサビに入る直前でメンバーみんなの動きが揃うところですかね。練習のとき何度練習しても揃わなくてみんなで諦めかけてました。そんな時、プロデューサーの…」
何気なく見ていたインタビューの途中で電話が鳴った。あぁ、またこいつか。
「おい!テレビ見たかよ!ほんとフミちゃんかわいいよなー。」
こっちは仕事で疲れているのにそんなことなど気にもしないようなテンションで話しているこいつは大学で知り合った木嶋だ。木嶋は能天気なやつでそのせいだからか一緒にいても居心地が全く悪くなく、大学の4年間をほぼ毎日共にした。言ってしまえば親友だ。
「いきなり電話かけてきてフミちゃんかわいいよなーってなんのことだよ。こっちは慣れない仕事で疲れてんだよ。用がないなら切るぞ。」
「はぁ?お前、フミちゃん知らないのかよ?今人気のFlower Sketchのセンターを務めてる吉田 浜風ちゃんだぞ。」
「あー、吉田 浜風か。今ちょうど観てたところだわ。で、特に用はないわけだな。切るぞ。」
「おい、待てって〜。そんな冷たっ――――」
ブチッ――――
強制的に電話を切り、それと同時に百点満点と言わんばかりの笑顔で答えていたインタビューも終わったところだった。よくもまぁこんな風に全力で笑えるものだなと感心したところで、木嶋のせいですっかり忘れていたレンジの中のコンビニ弁当の存在に気づいた。
冷蔵庫にあったお茶をコップに注ぎ、コンビニ弁当を開けて食べ始めていると、
チロンっ――――
携帯に一通のメールが届いた。
画面に表示されていたのは見知らぬメールアドレスだった。
不審に思いながらもメールを開いてみるとそこには目を疑うような内容が書かれていた。