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連鎖その4

 優しさの連鎖最後の章は、ちょっぴり不思議なお話をお届けしましょう。

 「♪サンタさんのお手伝い トナカイさんと一緒に」

 唄いながらレアは、調理室に降りてきました。特に理由はありません。なんとなく。足が向くままに、です。

 大きな食糧庫の前を、何の気なしに通り過ぎた、ときです。

 「♪そりに乗って 靴下下げて さぁ出発」

 「しくしくしく……」

 なんと、その前に、“スピルト”の少年シェフティトがいて、

 「げげげっ。ティト!」

 食糧にたかっていたのです。しかも、生のにんじんに、かぶりついていたのです。

 レアはドン引きです。

 「う~ぬ、日頃から、品がないないとは思ってきましたが……ましゃか、これほどとは……」

 「ごめんなさーい!!」

 ティトが、絶叫しました。

 「食糧庫に入ってたにんじん勝手に食べちゃって。とってもお腹が空いていて、つい……」

 「しょのことなら、パパに謝るでしゅ。怒られましゅよ~。しょれにしてもよく、生のにんじんしゃんが齧れましたわねー。うーん、まるで野獣。さっすがは野蛮人、ティトでしゅわね」

 しかし、レアのお説教(?)を聞いているのかいないのか、ティトは瞳に涙を浮かべながら、

 「それに、僕が、僕が……」

 「ど、どうしたんでしゅかティト、なにも泣くことないでしゅ」

 「僕が、赤鼻のトナカイだってこと。……ごめんなさい!」

 「……え?」

 レアは思わず、ティトの鼻を見ました。なるほど。真っ赤に染まっていました。

 そこへ。

 「なんだよチビ。うるせーな」

 調理室へ、入ってくる足音とともに姿を現したのは……。

 「あーっ!」

 驚くなかれ、です。

 「ティト! ティトが、ふたり……?」


 「僕は、ルドルフっていうんだ。ほかのトナカイたちに、サンタさんのそりを引く資格がないから、地上に降りて人間の馬車でも動かしてこいって……」

 鼻の赤いティト、いえ、ルドルフが言いました。

 「しょうでしゅかー、まったく、酷い話でしゅ。ぷんぷん!」

 レアはまるで我が事のように怒り顔です。

 「だから僕、頑張ってみようと思うんです。サンタさんに認めてもらうために、この地上で修行して」

 「しゅれで人間の御者しゃんになったってわけでしゅかー」

 レアが納得していると、横から本物のティトがぼやきます。

 「でも、なんでよりによってオレにそっくりな格好してんだ? ちょっとした迷惑なんだけど。少なくともオレ、にんじんを丸かじりするキャラで通してないから」

 「あーら。ティトのキャラクターって、しょんなもんだと思いましゅけど」

 「う、うん……。ラロシェルの上空を通った時、思ったんだ。自信をつけるにはまず形から……つまり、自信家の男の子の格好をするのがいいんじゃないかって」

 「なーんか、納得できねーけど……。でも、それならさ」

 ニィ、とティトが笑いました。

 「もってこいの修行場があるぜ。ここからヴァンセンヌなんて、どうだよ?」


 「よいさっと」

 雪の塊が、ドサリと地面に落ちます。

 「こらせっと」

 雪の塊が、バサリと地面に落ちます。

 「ジョエル兄しゃん」

 「おっ」

 ジョエルは、シャベルを止めました。

 「雪かき、レアも手伝いましゅ」

 「やぁ、本当かい? 珍しいこともあるもんだなぁ~」

 「悪かったでしゅね」

 照れ隠しに、小さな赤いシャベル片手に、レアはコホンと咳払い。

 「優しさの連鎖、でしゅのよ」

 「ん?」

 「パパがロマンヌに渡したことからスタートした優しさのバトンは、今、レアの手にあるのでしゅ」

 「うーん?」

 「だから、ちゅまり、こういうことでしゅ」

 レアは殊の経緯を説明しました。クロンヌやエルネストに渡って、巡り巡って、今、アルベールツリーならぬ、サンタさんから優しさをレアが受けたのだと。

 「そうかー。いや、するってと、もしかしたら今このジョエル兄さんが作ってるのは、『優しさのラストスパート』かもしれねぇな」

 「どういうことでしゅ?」

 「レア。今雪かきしてるこの道、どこにつながってるかわかるかい?」

 「……さぁ……」

 レアは既に大分きれいになったレンガの小道の先を見渡しました。

 ジョエルは訳知り顔で、

 「実は、今オレがこうして働いてるのは、ある人々からの依頼なんだ。……それって誰だろうね」

 「ますますわからないでしゅ」

 「ははは、いずれわかるさ。♪情けは人のためならず~、情けの道は クリスマス・リース まあるくまるく わっかになっていると 誰かに教えてもらった気がして~」

 ジョエルは、ネージュの歌を口ずさみながら、雪かきの総仕上げにかかりました。


 「よいしょっと」

 ジョエルはどこからか、馬車を出してきました。

 雪かきを終えた”スピルト”前の道のことです。

 それにしても立派な馬車です。

 そこを、ティトと事情を聞いたロマンヌとレア、それにルドルフが通りかかりました。

 「あれを、お前が引くんだよ」

 なんだか全てわかっているような顔で、ティトがルドルフに言いました。

 「えっ? 僕が、あの馬車を?」

 「できるだろ。恰好はこのオレなんだから、それぐらいの力はあるはずだぜ。じゃ、オレもう行く。オレがふたりいるの他のやつに見られたらまずいだろ」

 ティトはルドルフの背中を押すと、去って行きました。

 「どういうことでしょう。ティトったらわけのわからないことを……」

 「わたしには、わかる気がする」

 レアの疑問に、ロマンヌは答えました。

 「ルドルフ君は、サンタさんのそりを引く資格ないからじゃなくて、それと同じくらい大切なお仕事がここにあるから舞い降りてきたんじゃないかな」

 ロマンヌはゆっくりと言いました。

 「おっ。ちょうどよかった。ロマンヌちゃんにレア」

 ジョエルが手招きしています。


 「ふたりには幸せになってもらいたくて」

 ロマンヌとレアは目を丸くしました。

 いつの間にか。

 寒空の下には、優しさリレーに関わった、全ての大人たちが勢揃いしていました。元気になったクロンヌに始まり、パエリエやエルネスト、それにアルベール、フルール。ジョエルまで。

 「優しさのもとを辿っていったら、ここに着いたというわけさ」

 ジョエルは優しげに言います。

 「最後に、ロマンヌとレアとみんなの大好きな、パパとママに、優しさを届けにね」

 もうここまでくれば、謎は解き明かされたようなものです。

 姉妹は大急ぎでパパを呼びに”スピルト”に急ぎました。


 「サンタさんからだよ、パパ」

 ロジェは戸惑ったように、ロマンヌとレアを見渡しました。

 「パパが一年中いいパパだったから、サンタしゃんからプレゼントが届いたでしゅ」

 レアも腰に両手を当てて、得意そうです。

 「それとね、パパ」

 ロマンヌは少し恥ずかしそうに、付け足しました。

 「わたしは、やっぱりパパの子だよ。だって。毎日レストランで働いて、私たちのご飯や洗濯だって、やってくれて、それで困ったときは、話聞いてくれる。それって、パパ、優しくないとできないことだよ」

 そして、

 「はい」

 ロマンヌは右手を差し伸べて、ロジェの手を取りました。


 「ううむ。あなたの正体は、イベントの妖精かなにかですか、プレヌリュヌさん」

 リカルド先生は複雑そうな顔でそうつぶやきました。先生の胸元のポケットには、可愛らしい男性をかたどった人形が。ついさっき、妻から届いたものです。

 「毎回、なにかお楽しみが近づくと、こうも調子が良くなるとは。僕に外出許可をくださいと言わんばかりにね」

 「まぁ、先生。いくら私でも、そんな贅沢なことは申しませんわ」

 プレヌはおかしそうに笑いました。

 「この間娘たちに会えたばかりなんですもの。私には、それだけでもう十分」

 「本当にそうですか」

 「え?」

 リカルド先生は冬の寒さも和らぐ、温かなまなざしを窓の向こうに向けました。

 「何でも今巷では、プレゼント交換ならぬ、プレゼントリレーなるものが、流行っているそうで」

 「リレー? それは一体、どんなものですの?」

 「ラロシェルの街の人々が交代でサンタの役を務めるんです。ちょうど、バトンをつないでいくように、その人なりの優しさを、誰かほかの人に与えるんですよ。与えられた人は、またほかの人に何かを与えるんです」

 「まぁっ」

 プレヌはすっかり笑顔になりました。

 「素敵だわ。それじゃわたしも、さっそく誰かになにかしてあげなくては」

 「残念ながら、それはできないかもしれませんね」

 「まぁ、どうして?」

 「いつもみんなに愛情を与えてくれているあなたは今年、走るサンタではなくて、ゴールの役だそうですよ」

 「え?」

 プレヌはなにがなにやらわからず、瞳をまあるくしました。

 「プレヌさん、外出許可を出しましょう。そろそろ、アンカーが到着するころですから」


 「優しさのラスト・スパートかぁ。結構いいこと言うな、オレ」

 その頃。

 ”スピルト”前の道では、ジョエルが腰を上げて呟きました。

 先程、優しさのリレーのアンカーを送り出したばかり。

 「おっと、でもやっぱ違うな。ネージュの歌の歌詞の最後によりゃ、こう続くんだった。『優しさは続いてく わっかのレーンの上ずっと走る ラストスパートなしの クリスマス リース』


 セーヌ川に架かる橋に行ってみてください。

 リカルド先生にそう言われるがままに、プレヌは、雪空の下、マフラーを巻いて待っていました。

 サンタクロースが恋人を連れてやってくるとは、ネージュとは対照的な、明るい恋愛歌の歌い手が唄っていた歌詞だったでしょうか。

 リンリンリン

 鈴の音がどこからか聞こえてきました。

 その音に合わせて馬車をひいて走って来るのは、赤鼻のトナカイ……ではなく、彼女が よく見知った少年でした。 

 「ティト……!?」

 しかし、同じラロシェルのレストランで働くその少年の面影は、みるみるうちに彼女が最初に思い浮かべた姿、トナカイに変わり、馬車から誰かを降ろすと、自分は天高く上って行きました。その姿は実に嬉しそうで誇らしげ。

 「なんだったのかしら、あれ……?」

 そしてトナカイのひいていた馬車に乗って赤い服の男性よろしく彼女の前にやって来たのは。

 「まぁ……」

 彼女の夫でした。

 「サンタさんにしては随分地味でスマートみたい」

 「なに言ってんの?」

 「ううん」

 プレヌは、彼、ロジェの腕の中に飛び込んでいきました。

 「会えてうれしいわ。ロジェ。どうしてここに?」

 「ロマンヌが始めたことなんだ」

 妻を抱きながら、ロジェは言いました。

 「優しさを誰かに引き渡すっていうリレー。さっきのトナカイ少年がオレに君というプレゼントをくれたってわけ」

 「わたし、世界はもっと怖いものだと思ってた時もあったけど」

 プレヌは静かな瞳で言いました。

 「優しさでいつも回ってるのね。こんなふうに。ねぇ」

 プレヌは言葉を吐きました。白い息と一緒に。

 「退院してラロシェルに帰れたら、また続けましょうよ。このリレー」

 「うん」

 「この素敵なことを始めたのはロマンヌって言ってたけど、でも、誰か、ロマンヌに優しさをあげた人がいたんじゃないの?」

 「そうなのかな?」

 「わたしは、そう思うわよ」

 プレヌは意味深にアンカー兼、スターターに微笑みました。綿雪が、弧を描いた彼女の口元に舞い降りました。


~Fin~


 最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 『ラストスパートなしのクリスマスリース』の歌い手、ネージュは私が大好きな実在する歌い手さんをイメージしてみました(#^.^#)

 今年の聖夜、大切な人というクリスマス・ゴールがみなさんの元に届きますように!

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