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連鎖その1

 メリークリスマス! わくわくするこの時期になるとほのぼのした物語が読みたくなります。今までのこのシーズンに癒しをくれた数々の物語のひとつになることを祈って書きました。

楽しんでくれたら嬉しいです。

 優しさの連鎖。それは、学校の校舎と門との隙間から始まりました。


 ロマンヌを見つけた時、ロジェは白い息を切らせていました。

 「ロマンヌ」

 でも、少しも、怒ってはいませんでした。

 「なにが、あったんだ」

 第一声が、これでした。心配したんだでも、もう夕暮れ時なのに、どうしてこんなところにいるんだでもなく。

 ロマンヌは泣いていました。雪が何粒も肩の上で溶けて、水になっていくのにも気が付かないように。ぐちゃぐちゃになった顔で、言いました。

 「ごめんなさい、パパ」

 ロジェは、着ていたコートを脱ぐと、ロマンヌに着せてやりました。

 「わたしが病気になったから、パパも大変なんだよね。それで……、クリスマスなのに、ママとも、会えなくなっちゃったんだよね」

 「……そうか」

 ロジェはその一言大方察しがつきました。

 「それでロマンヌは、この寒空の下で、雪みたいに、消えてなくなっちゃいたい気持ちになってたわけか」

 ロマンヌはこみ上げるしゃくりに忙しく、それでも一生懸命うなずきました。

 「帰ろう」

 ロジェはしゃがみ込むと、ロマンヌに手を差し伸べました。

 「家で、あったかいスープでも飲もう」


 「ロマンヌって、ずいぶん人の言葉を高値で買うんだな」

 話し終えると、パパは少し驚いたように言いました。

 「高値で……買う……?」

 「あ、えぇっと」

 ロマンヌが首をかしげると、ロジェは少し考えてから、

 「すごく素直に言葉を受け取るってこと」

 「……うん」

 ロマンヌは少しだけ照れたように、

 「わたしも、言葉を大事に受け取ってもらえないと悲しくなるから。っていうことは、みんなも同じかなって思って」

 「そうか」

 ロジェはロマンヌの腕を軽くたたきました。

 「ロマンヌって、ほんと優しくて、びっくりするよ。ほんとにパパの子なのかって思うくらい」

 ちょっと考えるとパパは続けました。

 「ロマンヌのクラスの子は、今回、ロマンヌ達がママに会えないのは、ロマンヌの病気のせいって言ったみたいだけど」

 「それだけじゃないの。ママもパパも、わたしにがっかりしたんじゃないかって。わたしが、ダメになっちゃったから」

 「誰も、ロマンヌがだめだなんて思ってないよ。そんなこという奴は、パパがやっつけてやる」

 「本当?」

 「ロマンヌは、いつでも真剣に人の話聞いてくれる。だからパパもレアもママも、助かってるんだぜ。でも真剣に聞きすぎると、今夜みたいに自分の中に悲しいことがたまってくから、そういうのに飲み込まれそうになったときは、誰かに聞いてもらうんだ」

 「誰かに……」

 パパの言葉は雪のようにロマンヌの心の中にふわりと舞い降りて、溶けて染み渡っていきました。

 誰かに、聞いてもらってもいいんだ。そのことはここしばらく、忘れていたような気がします。

 「ありがとう、パパ」

 ロマンヌはまだかすかに涙の残る頬で笑いました。そして、控え目に言いました。

 「パパはいつも、わたしが苦しんでると、私の心を楽にしてくれる」

 恥ずかしそうに、スカートを弄びながら。

 「それでね、わたしはやっぱり、パパの子だよ。だって、パパも、すごく優しいんだよ」

 「ありがと」

 パパが恥ずかしさがうつったかのような顔をして、笑いました。

 「今の世の中、悲しいことをほかの人に投げつけてくって人もいるんだ。でも、そういうんじゃなくて、できれば、話を聞いて、人から人へ、だんだんやわらげあっていくのがいいんじゃないかな」

 そして、ロマンヌの方を見て、言いました。

 「ロマンヌにはそれどころか、人に幸せな気持ちをあげることだってできる」

 「そう、かな?」

 「うん。パパはそう思う」

 ロマンヌは考えました。わたしが、人に幸せを……。

 初めはとても難しいことのように感じましたが、

 「だからロマンヌ。お礼言ってくれるなら、誰かに、幸せを分けてあげてくれないかな。そしたら、巡り巡って、その幸せが、ヴァンセンヌにいるママのとこにも届くかもしれないだろ?」

 パパにそう言われると、案外それは自分にもできることのような気がして、

 「うん!」

 元気いっぱい頷いたのです。


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