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根付の話

作者: 波狐雪
掲載日:2017/09/27

根付の話


               (1)


私は古い根付の収集家です。

「根付」をご存知ない方もいらしゃるかもしれませんから、ご説明しますね。

江戸時代、人々は着物を着ておりました。

ポケットはありませんから、印籠やらたばこ入れやら、巾着袋をぶら下げていました。

帯に紐を通すだけですと落としてしまいますので、ストッパーとして小さな細密な

彫り物を紐の先につけました。これが根付です。

根付の素材は木材、象牙、鹿角、焼き物、動物の骨などでした。

根付の題材は物語の主人公、十二支の動物たち、七福神や獅子、妖怪等々です。

そのような題材が好まれたのは、根付が{お守り的な働き}をしていた事にもよります。

江戸時代のほとんどの男性はみんな、持っていた物ですが、明治、大正と時代は洋装に

なり、いつしか「根付」は忘れさられ、一部、収集家にしか興味を持たれない物となったのです。


古根付は、今ではヤフオクとかで、割と簡単に手に入れることができますが、

15年位前は地道に骨董店を廻るしか収集方法はございませんでした。

そんな時代、中央線沿線の小さな骨董店が私の行きつけの店になりました。

店の主人は、60代半ばの声の大きな恰幅のいい、おじさんで、

私のために「根付」を捜しだしてきて、良心的な価格で売ってくれました。


               (2)


その日、店に入ると、私はいつものように「おじさん、いい根付、入りました?」

と尋ねました。「うん、まあね。あるけどさ、」とおじさんは小声で答えます。

私は「うん、何か引っかかってるな。見せたくないのかな」と思いました。

骨董屋は元々、収集家がなっている人が多いですから、気に入った品を

売りたがらない人が多いんです。

「あるなら?見せてよ、見せて、お願いしますよ」

「あんたじゃ、しょうがないか」

そう言うと、おじさんは絹の布に包まれた{もの}をだしました。

「売りたくないの?手元に置いときたいんでしょ?」

「そんな事はないよ、まあ、見てみ」

私が絹の布を開くと、そこには「人魚の根付」がありました。

8センチぐらいの大きさで、母親らしい人魚が赤ん坊の人魚を抱いてるものです。

母親の表情は悲しく、赤ん坊の顔は怪物でした。見たことのない怪物でした。

「これ、珍しいね。見たことないや」

「だろ、40年骨董屋やってるけど、こりゃ、超珍品だ」

「これ、時代あるよね?」

「あるある。幕末はあるよ」

おじさんは根付の古さを聞くと、いつも幕末と答えます。

「この根付、象牙じゃないよね。鹿の角でもないし、」

「まあー、なんかの動物の角か骨だな」

「どこで仕入れたんですか?」

「福井、買ったタンスの引き出しの奥に入ってた」

「へえーそうなんだ」

そう言いつつも、私の頭の中では根付の価格が計算され始めてました。

『珍しい人魚、幕末、象牙でなく動物の骨、大きな傷はない、タンスのおまけ』

これらの要素から私が出した金額は5万から6万でした。

「これ、いくらで売ってくれるの?」と私は尋ねました。

「そうねえ、10万だな」私の想定金額の倍の金額をおじさんは答えました。

「10万かあ、10万はちょっと高いな。タンスのおまけでしょ」

「あんただから、10万。ほかの客だったら、15万もらうよ」

「今、金ないから、一週間待ってください。10万用意して、絶対、来ますから」

「取っておくけど、15万の客が来たら分かんねえな」

「そんな意地悪言わないで、お願いしますよ」

「分かった、分かった。あんたお得意様だからな」

「ありがとうございます」と私は心からおじさんにお礼を言いました。


              (3)


一週間後、私は10万円を用意して、骨董店を訪れました。

「こんにちは、おじさん、来ました」

奥から、おじさんが出てきました。

「10万、用意してきましたよ、さあ、人魚の根付、ください」

「あれなあ、あんたには悪かったが、手放した」

「えーそんな、15万の客が来たんですか?」

「業者の市で売った」

「約束したじゃないですか、取っといてくれるって」

「まあ、聞けや。あの根付はヤバイんだ」

おじさんは、人魚の根付のヤバさを語り始めました。

「40年、骨董屋やってて、一家心中した家の物とかヤクザの品とか

いろんな訳ありな骨董、商ってきたよ。でも、あんなのなかったなあ」

「何があったんですか?」

「あの、根付、手に入れてから、カミさんが病気で倒れて入院して、

娘が看病に行く途中で車にはねられて、ダブル入院した」

「それは、大変でしたね」

「それから、夜、寝ていると、店から{水の音}が聞こえてくる。

水道、閉め忘れたと思ったら、あの根付をしまった引き出しから、聞こえて

くるんだ」

「人魚だから、水が大切です」

茶化す私を無視して、おじさんは語り続けます。

「引き出しを開くと音は止まる。寝床につくと、また、聞こえだす。それが

毎晩で、おかしくなりそうだったんだ。それで根付を売ったら、音は消えた」

「へえーそんなことがあるんですね」

「あんたに俺、山梨の山奥の出身って前、言ったよな」

「ええ、聞きました」

「俺の子供の頃は、墓は土葬でな。爺さんが死んですぐに、墓が土砂崩れ

で流されて、遺体というか骨がむき出しになった。別の所に埋葬したんだけど

その前に泥だらけの爺さんの骨を見たばあさんが、忍びないって、

じいさんの骨を洗ったんだ。洗われた骨の事を思い出して、気づいた」

「何を気づいたんですか?」

「あの根付、人の骨だな。加工はしてあるが、手か足の骨だ」

「人の骨で根付なんて、なんでつくるんだろ?」

「さあな、そういう訳だ。お得意さんのあんたをこんな目に合わせたくなかった。

だから、売った」

「そうですか。ありがとうございます」

私は納得しませんでしたが、おじさんに一応、お礼を言いました。


              (4)


お客を第一に考えてくれる、おじさんですが、高齢のため、

店じまいしました。店じまいしてからは、おじさんには会ってません。

人魚の根付はどうしたって?さあ、今、どこにあるんでしょう。

他の骨董店、骨董市、ヤフオクでも見たことはありません。

え、見つけたら、買うかって?もちろん、買いますよ。

100万でも200万でも。だって、人骨で、できていて、夜中に水の音を

出すんですよ。こんな珍しい根付はありません。

え、祟りが怖くないかって?

怖くないです。だってお守りになる根付、100個以上持ってますから、

あ、でも、全部、祟りの根付だったりして、ヒヒヒヒヒッヒ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 骨董屋さんの雰囲気が良かったです。主人公も、十万円をぽんと出そうとするところが格好良い。楽しく読ませていただきました。(^^)
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