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傷跡  作者: 真琴
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第1話 わたしは捨てられた

わたしは捨てられた。


生まれてすぐに。そして二回目は六歳のときに。


過去の出来事は、痛々しい傷跡として今につながっている。


たとえそれが他人には分からなくても、自分には分かる。


自分にしか分からないから、自分ひとりで向き合うしかないのだ。




八年前、わたしは夢を見た。それは決してひどくリアリティなものでも感覚的なものでもなくて。ただ、最後の日に何かを初めて見た、という感じだった。そしてその後の未来を予想させる、意味深く、そして心痛いものだった。


十字型の大きい横断歩道。その中心部分に、もうじき小学生になるわたしは立っていた。特に見向きすることもなく、たくさんの人がわたしのそばを通り過ぎていく。気づいていないのか、気になっていないだけなのか。


わたしは、独りだ。そのとき思った。誰の視界にも入らずに、誰にも見向きされずに生きている。価値を見出せない人生を歩んでいるわたしは、独りだ。そう思った。


その時、肩が触れ合ったわけでもないのに、妙な感触を肩に覚えた。振り向いた。誰かがそばを通った気がしていた。


「誰?」


その人は立ち止まり、わたしの声に振り向いた。


相変わらず、何百もの人が、横断歩道を渡り歩いている。そんな中、その人はとてもしっかりした輪郭を持っていた。周りの大勢の人を背景にしてしまうくらいの存在感が、その人にはあった。


その人は、女の人だった。髪は長くて、鮮やかな茶色で光っている。鼻筋が通っていて、二重の力強い目がとても印象的だ。見た目若く、二十前半というところだろう。


ただ気になるのが、この人の目つきだ。ただ力強い、というだけではない気がする。なんで、あんたがいるの。まるでそう言うような目で、にらんでくるのだ。それは憎しみや悲しみ、哀れみにさえ思えるくらい強いものだった。


わたしはこの人を知っている。でも、無理に思い出したくはなかった。この人とは深いつながりがある。それが何かはわからないけれど、切ろうとしても切れない、ほどこうとしてもほどけない糸でつながっていると思った。


「話しかけないでくれる?」


わたしの問いに答えるはずもなく、きちんとした、声でその人は言った。聞き間違いでもなんでもなくて、ただ、その人が冷たい声でしっかりと「話しかけないで暮れる?」と言ったのを、わたしはこの耳で聞いた。


その瞬間、すさまじい痛みを感じた。それでもわたしは深く傷ついた。どうしてか、この人にそういうことを言われると心の奥のほうが悲鳴をあげた。


「わたし、あんたなんて知らないから」


わたしもこの人のことは知らなかった。でも、不思議とどうしてか、自分を知らない、と言われたときに寂しさを感じた。


「わたしの人生に、関わらないでほしいの。もう、わたしの目の前に現れないでちょうだい」


女の人の言葉に、鋭くとがった痛みを覚えた。ずっと昔の記憶が奥のほうからよみがえってきて、何か、まるでひどい例えだけど、ゴミを捨てられるみたいに見捨てられたみたいに感じた。


そんなわたしの心も知らず、女の人はそそくさと立ち去ろうとする。このまま女の人を行かせてしまったらもう二度と会えないような気がして、「待って」と呼び止めようとした。


口を大きく開く。お腹の底から声を出す。出そうとはするのだけど、どうしてだか出なかった。喉が、緊張してうまく動いてくれない。何度やっても、弱くかすれた息しか出てくれなかった。


その間も、女の人はどんどんわたしから離れていく。走って追いかけることもできずに、ただ、必死に出ない声で呼び止めていた。


その時、女の人が立ち止まった。わたしは正直ものすごく嬉しかった。両手を広げて、温かく迎えてくれるのかと期待していた。


「あんたなんて、生まれてこなきゃよかったのに」


存在を否定された。


生まれてこなきゃよかったのに、なんて言われたら、わたしはなんていい返したらいいのか分からない。ただ、そこにある胸の痛みを感じずにすむ方法があるのなら、教えてほしいと思った。


わたしは、この女の人からすれば無価値の人間らしい。


頭が真っ白になりながらも、女の人がどんどん先に進んでいくのだけがわかる。少しずつ点のように小さくなっていくその姿が、見ていると心苦しかった。仕舞いには点ですら見えなくなってしまったけど、それでもずっと、わたしは女の人が去っていった方向をながめていた、全身の力が抜けたまま。


全部抜けてからっぽになってしまったような頭と心で考えていたら、何か大切なものを今さっき失ったような気がしてきて、同時にもうそれはわたしにとって、二度と手に入れることのできない、そして手に入れても辛いだけのものに変わりつつあった。


たとえそういう複雑なものだとしても、今までで一番苦しいことは確か。見知らぬ女の人にちょっと言われただけなのに、その一言一言が、普通では考えられないほどの鋭い刃となって、胸に突き刺さった。もう忘れたらいいのに、忘れられない。それが余計に痛みを募らせる。


気がついたら、一筋の涙が溢れて、頬をつたっていた。


しょっぱい味のする涙だった。


あごから滴となって、地面に落ちる。


落ちた瞬間、それは黒い染みとなって小さく広がった。




夢で見た女の人は、お母さんだろうか。わたしが産まれてきたことを言っていたから、そうかもしれない。でも、もしそうだとしたらあの人の年齢とわたしの年齢差があまりにも狭すぎて、おかしなことになってしまう。


考えられたのは、わたしの頭の中では産まれてすぐに見たお母さんのまま、それ以上何も変わってない、ということ。あれから時が流れ、お母さんがどんな顔になっているかなんて、あの頃はもちろんのこと、今でも想像がつかない。


初めまして、センといいます。


もし僕のほかの小説をすでに読んでくれていた方、お久しぶりです。


読んでよかった、と思える小説にしたいので、

楽しみにしていてください。


もしかしたら、完結できないかもしれませんが・・・。


でも、限界まで挑戦するつもりです。


それまで、応援よろしくおねがいします。

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