助けて、木草樹様!
「……で、我にどうしろというのだ。貴様ら」
「だから、この【ファン】ちゃんを強制進化させて、龍種まで階層をあげてほしいのよ」
未だボロボロ状態の大木の前で、私は会話蛙を掲げて、木草樹様へお願いに来ていた。
「ひぃぃいいいい……」
すっかり、怯えと恐れ多いので、縮こまってしまっているファンちゃん。
そんなに、緊張しなくてもいいのになぁ……。
ちなみに今回、ヌメっちは置いてきた。
これには理由があって、私一人でやったほうが色々と都合がいいからなのだ。
だって、この時代の木草樹様は、アダモゼウスに釘を刺されたばかりの頃なので、私に一切の手出しが出来ない。
加えて、今回は脅し材料の【魂刀:ブルーウイング】もあるしね。
もし、このお願いを断ろうものなら、あの時の恐怖をもう一度思い出させてやってもいいかもしれない。
「ふっふっふっふ……」
「……その薄気味悪い笑顔を止めい!……はぁ、仕方ない。今回だけ特別に我が折れよう。但し、我にも威厳というものがある……。今回の事は、誰にも言うでないぞ?」
「へっへっへー、分かっとりますぜ、木草樹の旦那ぁ!私への100年の拷問、これで手打ちにいたしやしょう!」
「卵よ、お前は本当に調子の良いやつだな……。まぁ、その性格は嫌いではないがな」
今回は、突然の訪問という事もあり、木草樹の周りには誰もいなかった。
まぁ、四方をそれぞれの番人が守っているし、この世界に木草樹を滅ぼせるものもいないだろうし、これが本来の警備体制なのかもしれない。
ちなみに、現在の時間軸はというと、蜘蛛への転生から3か月後、ボンキュボンのおねーさんから一か月後となっている。
「さぁ、その蛙を大地へ置け。進化を始める……」
私は、木草樹の言葉に、ファンちゃんをそっと大地へ下ろした。
次の瞬間には、ファンちゃんの体から赤いオーラが立ち昇り、赤から青へ、青から黒へと色が変化していった。
……私は馬鹿だった。
改めて、木草樹の【進化】を目の当たりにした感想がそれだ。
何が【変身】の方が、優れているかもしれないだ……。
完全に自分が調子に乗っていたことを思い知らされた。
私の【変身】の欠点である、寿命制限。
それが、木草樹の【進化】には無かった。
木草樹は、一度生物の時間を胎児まで戻してから、細胞を変質させて強制成長させたのだ。
生物の時間操作……。
私もまだ使用できない【空間魔法】【時間魔法】系統の力……。
この世界最強で最高権力を持つ植物は、やはり私なぞ足元にも及ばないところにいる。
そして、その化け物をここまでボロボロにした、この世界【外】最強で最高の権力を持つ神様に抗おうとする私。
……泣けてきた。
私が涙目になっていると、目の前の黒い繭が割れて、可愛らしい女の子が姿を現した。
「え?え?私は、どうなったでありますか??」
「おー、可愛い!木草樹様、やるじゃない!!」
「当然であろう。さて、無駄な力を使ってしまった……。今宵は、もう休みたい。早々に立ち去れい!」
「ほいほい、ありがとうね、木草樹様!」
「別によい……」
なんか、最後は照れくさそうな感じがしたなぁ……。
まぁ、いっか!
私は、【進化】を完成させて可愛い女の子になったファンちゃんを連れて、ヌメっちのところまで戻ったのだった。
名前:ファン
種族:龍人
性別:♀
HP:326/326
MP:198/198
力:791
防:791
速:791
「なんや、この超バランス型は……。しかも、ちゃっかり龍人ってお前!?」
ファンちゃんを視たヌメっちの第一感想がそれだった。
「いや、普通はさ……可愛い見た目とか、そっちを褒めるのが先じゃないのかな?」
ヌメっちの前で、照れて顔を真っ赤にしているファンちゃんが可哀そうで、ついそんなフォローを入れてしまった。
「まぁ……確かに可愛いとは思うけど……可愛いんのは、見慣れとるしなぁ~……。それよりも、生意気なステータスの方が腹立つわ!ワシでさえ、まだ龍蝦蟇人だっちゅーのに!」
ちなみに、龍蝦蟇人の上の進化が、龍人である。
ファンちゃんは、既に蝦蟇種族を超えて、龍種へグレードアップしていたわけだ。
「あ、あの……私は、どうしたらいいでありますか?」
「とりあえずは、ワシが鍛えたるけど……、龍種族やったら、一番近い竜種族に色々教わったほうが良いんちゃうかな?種族的には、ワシの半龍種も、竜種も、龍種の下なんやけどな……」
劣等感溢れる顔で遠くを眺めるヌメっち。
まぁ、この子、550年近くず~っと半龍種だからね。
そりゃ、劣等感も感じるか……。
「う、うす!では、よろしくお願いするであります、先輩!!」
「せやな……とりあえず、腹が減ったんで、蛇飛蝗5匹捕まえてきぃや。これを、最初の修行としよか……」
「はっ、はい!でも、自分に蛇飛蝗なんて捕まえられるでしょうか?母も兄弟も食べられてしまっているやつでして……」
「ああ、ワシも姉が逝かれてたな……。ま、大丈夫や!自分の新しい肉体と、力の技試しみたいな感じで行ってきぃや。絶対に負けん!」
「う、うす!行ってくるであります!!」
そう言って、ファンちゃんは、私たちの目の前から消えていった。
「どうするの?」
「さっきも言った通りや……。とりあえず、基本的な事だけ仕込んで、北を守護してる竜のおっさんにでも引き渡すわ。あのおっさん、情報担当で人手不足を嘆いてたしな……。竜だし、蛙のワシより教わることも多いやろ」
うっかり助けてしまった蛙の子だったけど、なんとかこれからも【サルト】で生きていけそうだ。
うん、無理して木草樹様へお願いした甲斐があったわ~。
「あ~、良かったぁ……」
ん?なんか私の顔をヌメっちが見つめていた。
「どうしたの、ヌメっち?」
私が声を掛けると、ヌメっちは慌てて視線を逸らして、前を向いた。
そして、急に真面目な顔になると、静かに口を開いた。
「なぁ……、卵。お前は、ホンマに優しいなぁ……」
「ん?」
「せやから、たまに不安になるときがあるんや……。ワシに言えば負担になりそうなことを、隠してしまうんやないかって……」
「……」
「ワシは、卵の親友や!それは、何時でも変わらん!せやから、もしどないしても困ったことがあったら、頼ってほしい。それだけは、ワシと約束してほしいんや……」
「……分かった」
「ホンマ、頼むで……」
「私、多分あと90年くらいしか、この世界に留まれないと思う。木草樹よりも遙かに強い神様と追いかけっこが始まるから……」
「……そうか」
「それでね、ヌメっちにお願いがあるんだけど……」
「なんや?」
「追いかけっこが始まる10年前に、私と手合わせしてくれない?色々と技とか調整したいんだ~」
「ええよ。……その代わり、ひとつだけ条件があるで!」
「何?」
「負けたほうは、何でも勝者の言う事を聞くってのは、どないや?勝負事ってのは、何か賭けんと盛り上がらんやろ?」
「いいねぇ~……乗った!」
真面目な雰囲気から一変して、私とヌメっちは、お互いに顔を見合わせて汚らしく笑った。
私は、ヌメっちに勝ったら、どんなことをお願いしようかな?と想像を膨らませて、楽しんだのだった。
アダモゼウスが回収に来るまで、残り90年。
<今回の転生先で得たもの>
・【変身】の固定姿
・親友との約束
・親友とのお願い事
・友人【ファン】ちゃん
ヌメールは、可愛い子を見慣れているようですね。




