お兄さん、ありがとう!
「なぁ~う……」
ポカポカ陽気の屋根の上。
私は、年老いた猫へ転生していた。
さぁて、今回は【変身】も出来ないし、前回バタバタしてたし、のんびり【歩み】の整理をさせてもらおう。
私が、前回転生した方は……あれ?誰だっけ??
「にゃにぃ!?」
思わず、変な声が出てしまった……。
今まで転生生活をしてきて、初めての経験だった。
一度視たら、絶対に忘れない特殊能力【歩み】を忘れてしまっている……。
いや、何やら頭にもやがかかり、思い出せないと言ったほうが正しいのかもしれない……。
転生して【歩み】を視た瞬間は、完全に把握出来ていたのだ。
だから、恐らくは……庭鳥さんの仕業かな?
「にゃ~……」
私は、あの時の庭鳥さんの顔を思い出して、深い溜息を吐いた。
……あんなに怒っていた庭鳥さんを見たのは初めてだった。
そりゃ、肉親が死んだ瞬間に、遺体に他人の魂が入り込んだら怒るよね。
今更ながら、自分の存在を認識させられた。
言い方悪いけど、まるで遺産泥棒みたいだわ……。
他人が一生かけて蓄えた知識を、死後にこっそり頂いて消えていくっていう……。
「…………にゃ~」
思いっきり力を抜いて、寝転んだ。
正直、かなり憂鬱だ。
私って、何のために生まれてきたんだろう……。
ゴロゴロと屋根の上で寝転んで、天気のいい空を見上げた。
今日は、とてもいい天気で、空一面が綺麗な青一色で染まっていた。
私の頬を、気持ちの良い風が撫でていく。
……いや、私の頬じゃない。
この転生体の猫の頬だ。
……憂鬱度が増す。
あのような看取る状況を体験するたびに、羨ましく感じていることがあった。
それは、普通に生きているということ……。
赤ちゃんとして生まれて、幼稚園へ行って、小学校へ行って、中学校に行って、高校に行って、大学へ行って、就職をして、結婚して、子供を産んで、年を取って、死んでいく……。
その生涯の間に、何百人、何千人との人と出会い、そして別れていく。
そして、仲良くなった人が、その人の死を悲しんで涙を流す。
それは、なんて素敵な事なんだろうと思う。
……少なくとも、魂である私には、一生無縁の経験だ。
私は、常に1日しか生きられないようなものだ。
友達もいるし、親友もいるけど、それぞれがたった一人だけだ。
友達には、もう会えそうもないし、唯一の親友も、会う時代で好感度が変わる……。
よくよく考えてしまうと、どんどんどんどん考えが暗くなってしまう。
私は、普通に生まれたかった。
魂とか、転生とかじゃなくて、ただ赤ちゃんとして……。
生物として、一生を迎えたかった。
……まぁ、どうせ叶わない夢ですけどね!
「にゃあああああああ!!!!!!」
大きく声を上げて、頭の嫌な考えを吹き飛ばす!
よし、気持ちを切り替えていこう!!
……とはいえ、前回の転生者の【歩み】が思い出せないんじゃどうしようもないかな?
ん~……。
でも、庭鳥さんは、『その【歩み】、大切にするでしゅよ』って言ってたよなぁ~……。
「にゃ~ん……?」
恐らく庭鳥さんは、私を強制転生させる時に、兄の【歩み】を封印したのだろう。
それはきっと、自分の詳しい概要だとか、大切な思い出を、他人に見られたくないって考えからだと思う。
ってことは…………ああ!そういうことか!!!
私は、ある考えに至り、もう一度【歩み】を確認した。
私には、前回の転生者が、庭鳥さんの兄だったという記憶があった。
ということは、【歩み】は完全に封印されておらず、一部のみ封印されているってことだと考えたのだ。
ふむふむふむふむ……、こりゃ、ビンゴだわ……。
庭鳥さんが、大切にしろって言ったわけが分かった。
このお兄さん、【分切一付】の能力拳法の使い手だ……。
しかも、奥義も極めている。
ありがとうございます、庭鳥さんのお兄さん!
私は、【十大拳法】の一つ。
能力拳法【分切一付】を覚えたのだった!
アダモゼウスが回収に来るまで、残り92年。
<今回の転生で得たもの>
・改めて認識した自分の存在と夢。
・能力拳法【分切一付(極)】:どんなものでも部品や部位に綺麗に分けることが出来て、それを元へ戻すことも出来る能力拳法。生物に使用した場合、血も出なく、痛みもないが、生きるのに重要な器官が取り除かれた場合、静かに死に至ってしまう。また、不純物などを取り除くように、分けることも出来る。
例:ゼリーに入った果肉を、ゼリーと果肉に分けることが出来る。




