殺【死合い】制度
「では、どうあっても、【死合い】制度辞める気はないのですね?」
「くどいにゃあ!わっちは、どうあっても、辞める気はないにゃ!そう、師匠にも伝えるにゃ!!」
ここは、部族の国【ガラッパ】の魔女の間。
【ガラッパ】の魔女【猫又四檻】の元へ【マールド】の使者が訪れていた。
「くどくて申し訳ありません。ですが、【ZERO】様より申し付けられたこの任務、失敗するわけにはいかないのです。宜しいのですか?【ZERO】様の命令を聞き入れないという事は、【ZERO】様に逆らうという事なのですよ?」
「構わないにゃ!もう、この国は、わっちの国にゃ!!誰の指図も受けにゃい!!!」
第4の魔女【猫又四檻】。
通称【4番目の短気】と呼ばれるほど、気が短い魔女である。
彼女は、元々【サルト】で生まれた獣人で、猫族の血を引く猫型の獣人だ。
身体能力に優れる反面、魔力方面は弱い獣人の中で、彼女は珍しく魔力も優れていた。
そして、自由気ままな生活を送って【サルト】を飛び出し、近隣の村を襲っていたところを、【ZERO】に懲らしめられたのだ。
元々、獣人の寿命が長いことを知っていた【ZERO】は、この猫娘に【猫又四檻】の名前を与えて、教育を施したのだ。
そして、自らの弟子にして、一人前と判断した後に、国作りをさせたのだが……。
「まさか、【マールド】の【死合い】制度をパクるとは、【ZERO】様も思わなかったみたいですよ。女王の国【ズラーヌ】と同じミスをするとはねぇ……」
「にゃ!?まさか、お前!!!!」
「【ZERO】様からの伝言です。もし、【死合い】制度を辞めなかった場合、伝えるよう言われてました」
その言葉と同時に【マールド】の使者は、不自然に長い服の袖をまくって、両手を露出させた。
その両手の甲には、刺青が入っていた。
左手には、狼が大きく口を開けている姿。
右手には、龍が大きく口を開けている姿。
刺青は、ほのかに光を発しており、魔法的な何かを施されていることが分かる。
「それは、封印の刺青!?しかも、龍と狼!!??いいいいったい、どんな恐ろしい物を!!!!!」
慌てているせいなのか、語尾に『にゃ』を付ける事さえ忘れた四檻。
それもそのはずである。
魔女である四檻は、この刺青がどんなものであるか知っている。
刺青とは、肉体に直接書き込んだ魔法文字の一種である。
魔法陣などと同じく、強大な魔法を補助する目的で使用されることがほとんどである。
ただ今回は、【封印魔法】の刺青だ。
【封印魔法】とは、力が強大すぎるものを抑える魔法である。
【封印魔法】を強化補助する目的で刺青を入れるという事は、とんでもない力を抑え込んでいるという事だ。
少なくとも四檻は、【封印魔法】の刺青を入れている人物など、今までの人生の中で見たことが無かった。
しかも、その刺青の形は、龍と狼である。
両方とも、魔法補助の印として最上位の形。
一瞬にして、四檻は察した。
あの両手には、世界すら破壊できる力が封じ込まれていると……。
「アダムズ、ベインド、フェンリル……解っ!」
使者が、封印を解除する言葉を言い終えると、その両手から光が失われた。
ゴ……ゴゴゴ…………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
両手から黒と紫と赤が入り混じったオーラが溢れて、辺り全てを飲み込もうとする。
「あぁ……あんたは、何者なの?」
すっかり怯えた魔女は、そこで自らの死期を悟った。
「私の名前は、【芭蕉 紅那】。【マールド】の使者であり、執行者でもあります。……【ZERO】様からの伝言です。『もう少し、ききわけが良かったら長生きできたのに……。ごめんなさいね』」
ききわけとは、聞き分けでは無い。
ききわけとは、危機訳であり、長いこと【ZERO】が四檻に教えてきた言葉の一つだった。
「危機が訪れた場合、その理由を理解しなさい。そして、回避できるようならば、回避しなさい。それが、長生き出来るコツよ……。だったかにゃ?まったく、最後まで煩いおばさんだったにゃ……」
魔女は、自らの姿を獣へと変化させていった。
ここで死ぬと分かっていても、黙って死ぬのは我慢ならない。
死ぬならば、この国のために戦って死ぬ!!!
四檻は、自分で造ったこの国を愛していた。
国民の豊かな生活を望むが故に、取り入れた【死合い】制度が、よもや国を滅ぼす結果になるとは、皮肉なものだと感じて、四檻は自嘲気味に笑った。
「最後まで、抵抗させてもらうにゃ。いいかにゃ?」
「どうぞ、当然です……」
二人の間に緊張が訪れる。
先に動いたのは、四檻だった。
美しい毛並みの四足の獣へと姿を変化させた魔女は、電光石火の速さで紅那の喉元へ牙を立てる。
勝負は、一瞬で終わった。
……紅那は、両手を魔女ごと地面へ叩き付けると、奥義を使用した。
「【人世終界】!奥義【永遠終末】!!!」
両手のオーラが地面に染み込み、そしてそこから広がっていった。
土は黒くなり、植物は全て枯れ落ち、生き物は死んでいく……。
魔女は、既に息絶えていた。
芭蕉家に伝わる一子相伝の能力拳法【人世終界】は、全てを強制的に終わりにさせる力を持っている。
全ての事柄には、必ず始まりがある。
そして、始まりがあれば、当然いつか終わりがやってくる。
その終わりを強制的に呼び寄せるのが、この能力拳法である。
そして、この能力拳法の奥義である【永遠終末】とは、能力拳法を修めた者でさえ防御不可能の反則級の必殺技なのだ。
この奥義は、使用者以外を『まとめて全てを終わらす』技である。
家に使用した場合、家にいる人や家具、食べ物や服なども一緒に強制終了となる。
海に使用した場合、海に住んでいる生き物全てが終わってしまう。
範囲は、使用者が固定できる。
あくまで対象は、その空間に存在するものとなる。
それ故、能力拳法の防御の型では防ぎようがないのだ。
今回は、【ズラーヌ】の時と同じく、国に向けて【永遠終末】を使用した。
じきに、【ガラッパ】も終わりを迎えるであろう……。
「ふぅ……、今回も無事に終わっちゃったかぁ……」
額から玉のような汗が吹き出し、膝から崩れ落ちた。
【永遠終末】は、その特性上、一年に一度しか使用できない。
また、【永遠終末】を使用した後は、一年間【人世終界】も使えなくなる。
強力すぎる故に、力の全てを持っていかれてしまい、充電期間に一年を要するのが理由だ。
「しばらくは、普通の女の子かぁ……良かったぁ……」
本当は、誰も殺したくない紅那の本心から出た言葉だった。
「さて、じゃあ、迎えのヘリを呼ぼうかな……ん?」
一瞬、魔女の遺体が動いたような感じがした。
瞬時に臨戦態勢に入る紅那。
しかし、いつか見た爆音と稲光が魔女の体を包むと、大きく息を吐いて臨戦態勢を解いたのだった。
「……またですか、ギフトさん」
それは、【ズラーヌ】の上空で見た光景と同じだった。
そう、またしても卵が魔女へ転生してきたのだ。




