最強の能力拳法【勝底密御(しょうていみつみ)】
【勝底密御】。
【マールド】の拳法家の間で、最強と噂されているのが、この能力拳法である。
この拳法の最大の特徴と言われているのが、間合いが無いことである。
目の見える範囲ならば、全てが攻撃可能範囲であり、好きなように攻撃できるのだ。
故に無限の攻撃範囲を持つこの拳法は、『最強』と呼ばれていた。
「油断した……わっ!」
青卵が急速に私に向かって近づいてくる。
それに対して、私は右手で受け止めるような仕草をする。
「ぎゃ!!」
その瞬間に、青卵は見えない壁にぶつかったかのように、空中で顔をぶつけた。
私は、そのまま右手を下へ振り下ろす。
「ぐえっ!!」
青卵は、地面に向かって思いっきり叩き付けられた。
「あたたたた……。一体何が起こっているの?」
砂埃の中で、青卵は立ち上がり、こちらを観察するように見ていた。
「何も考えなくていいわ……。そのまま、おやすみなさい!」
私は、【勝底密御】を使用する為に、拳を振るっていた。
【勝底密御】は、密度を操る能力拳法だ。
この世に存在するありとあらゆるものの密度を、自在に変えることが出来る。
但し、密度を変更する為には、対象物に触れなくてはならない。
これは、ある意味、全ての能力拳法全ての弱点とも言えることだが、能力拳法は、対象に触れなくては効果を発揮することが出来ないのだ。
では、先ほどから青卵を攻撃している物は、一体何なのだろうか?
「がはっ!」
吹き飛ばされた青卵の口から血しぶきが舞う。
意味の分からない攻撃に、なすすべもないといった感じだ。
一定の間合いを取ったまま、私は着実に青卵の体力を削いでいった。
例えば、何もない空間があるとする。
そこには、本当に何もないのだろうか?
……いや、そんなことは無い。
正しく言うならば、そこには確かにあるのだ。
人間の目では見えないもので満たされているのだ。
答えは、空気。
ウイルスや、塵なんかでもいい。
人間の目では、細かすぎて見えない物へ触れて、密度を操る。
一部の空気の密度を鉄と同じにして、壁を作った。
空気の密度を濃くして、ハンマーのように青卵へ叩き付けた。
それが、この能力拳法の無限の間合いの正体である。
パン!
私が、手を合わせるのと同時に、青卵の体が両側から壁に押しつぶされたかのようにひしゃげる。
「があっ……」
半分ミンチ状になった青卵の体が、高速で治療されていく。
「やれやれ……」
私は、改めて自分の【自己強化再生】の厄介なところに気づかされた。
まずいわねぇ、このままだと青卵を殺し切れない……。
しかも、殺すより先に相手のMPが尽きたら、青卵自体が消滅してしまう。
「まぁ、やるしかないけどね!」
私は、【勝底密御】の構えをして、青卵へ密度の濃い空気を叩き付けようとした。
その時……。
「苦戦しては困るのだよ、卵よ……」
私が最も聞きたくない声が横やりを入れてきた。
「お前は、私の最高傑作なのだ。この程度の相手に苦戦してもらっては困るのだよ……」
この程度とは、言ってくれる!
何度も言うが、この体は現時代最強の生物の肉体なのだ。
それをこの程度とは…………!?
ごくり
私の喉が鳴った。
ゆらりと立ち上がった青卵から立ち昇ったオーラの色が【木縁樹草風華】の色ではなかった。
見ているだけで、冷や汗が噴き出てくる。
直感で、あれはヤバイものだと認識できた。
「私自ら直々にオーラを注いでやろう。【木緑樹草種花】とでも名付けようか。さぁ、行くがよい!」
紫色のオーラに包まれた青卵の体がグラリと揺れた。
「マズイ!」
私は、急いで濃縮空気の壁を作り出す。
しかし……。
「え?」
そんな壁をものともせず、私の体を青卵の鉤爪が貫いていた。
「ぐっ!?」
刺されたと思う前に、刺されていた。
馬鹿な……、速い、速すぎる!!!
「単純に【木縁樹草風華】の2倍の効果よ……。さぁ、凛とやら。其方も、私の実験の材料になってもらおうか」
木草樹の声に、飛びそうになった意識を歯を噛みしめて持ちこたえる。
「さようなら!」
しかし、そんな私の気合をあざ笑うかのように、青卵は、そのまま鉤爪を左右へ引き裂いて、私の体を綺麗に上下へと分けたのだった。
この時代最強の男をこの程度と言い放つだけの力が、木草樹にはあるのだ……。
駄目だ、勝てそうもない……。
私の吹っ飛んだ下半身のポケットから、ちらりと封筒が覗いたのが見えた。
「あっ……」
瞬時に、庭鳥さんの顔が頭に浮かんだ。
私は、私を真っ二つにしたことで油断していた青卵を【勝底密御】で吹き飛ばすと、下半身に【魂糸】を突き刺し、【念力】で自分の手元へ引き寄せた。
急いでズボンのポケットから封筒を取り出すと、破いて中身を確認する。
真っ二つになり失った下半身の治療は、【自己強化再生】で既に終えていた。




