孵化
「妹……?ふむ、なんのことだろうか?」
「とぼけないでよぉ~?木草樹様ぁ~。貴方が卵を閉じ込めているのは、調べがついているのよ!」
敢えて、挑発するように言葉を投げかける。
この世界は、基本的に木草樹様一番な輩が多い。
しかも、【サルト】には、木草樹様の熱心な信者しかいないのだ。
恐らく、こんな風に生意気な口を利くやつなんて初めて会うだろう。
「フム……。そうか、貴様は卵の姉だというのか?」
明らかに木草樹の声色が変わる。
木草樹の周りにいる蟲達も怒りをあらわにして、私を睨んできていた。
「今から、およそ100年ほど前から妹の反応が消えたわ。木草樹様、貴方の付近でねぇ~。……妹を返してくださらないかしら?」
「いやはや、これは困った。返してやりたいのは、やまやまだが卵が帰りたがらないのでな……」
「茶番はいいです。帰りたがらないのならば、直接卵と話して説得します。早く、卵を出してちょーだい!」
「いい気になるなよ、痴れ者が……」
木草樹の声と共に、【木縁樹草風華】を纏った蟲が7匹ほど、私に向かって襲い掛かってきた。
私は、無言で【自己強化再生】を展開すると、能力拳法を使用した。
7匹の蟲が同時に吹っ飛び、ボロボロと体を崩しながら風化していく。
「雑魚は、すっこんでいなさい……」
本当に舐めるなって感じだわ。
現時代での木草界最強の人物に転生しているのである。
素の状態ですら【木縁樹草風華】を纏った【エンシェントドラゴン】とやりあえる強さなのだ。
これに【自己強化再生】をすれば、たとえ【サルト】でも敵なんていない。
ただ一人……いや、一本を除いて……。
「くっくっくっく、面白い……」
7匹が土に還ったところで、木草樹は非常に楽しそうな声を上げて笑い始めた。
自分の直属の配下でさえ相手になりそうもないこの状況を、心底楽しんでいるかのような笑い方だった。
「どういった原理か分からんが、【進化】が発動しない完璧な殺し方をしているな?いやはや、恐れ入る……」
【巣作蜘蛛】が、極めている能力拳法は、全部で5つ。
最強の能力拳法と言われている【勝底密御】。
生き物ならば、必ず殺すことの出来る【鬼心爪殺】。
死んだものを生き返らせる奇跡の術【蘇命神奇】。
どんな物でも武器に出来る【器転自武】。
そして、全てを腐らせ土へ還す【放腐土帰】である。
この中で、【放腐土帰】は、【巣作蜘蛛】の一族が代々受け継いできた能力拳法である。
蜘蛛は、その正当後継者だ。
それ以外の能力拳法は、秘伝書を奪って独学で覚えたもの。
それ故に、少々技に粗削りな部分がある。
しかし、【放腐土帰】は、生まれついてから教え込まれており、それこそ目を瞑りながらでも使用できる能力拳法である。
この能力拳法は、ありとあらゆるものを腐らせることが出来る。
しかも、腐敗させるだけに留まらず、土へ還すところまで、一気に状態を進めるのだ。
たとえそれが、今まさに生きている新鮮でピチピチの状態でもだ。
腐敗し、土へと還ったものが【進化】なんて出来ようか?
そもそも、土の【進化】とは何だ?
……これが、【放腐土帰】である。
この世の全ての物質を土へ還す、反則級の能力拳法なのだ。
「しかし、それは能力拳法であろう?」
「……」
私の前に木草樹の枝が一本伸びてくる。
その枝の先には、大きくて真っ黒い実が生っていた。
「偶然にも、私の知り合いに能力拳法が使える者がいるのだよ。……お前たちのよく知る人物でもあるがね」
黒い実がまるで卵のように割れて、中から真っ青な髪の毛をした女の子が生まれた。
体中にヌメヌメした液体がこびり付き、それはまさに生まれたての雛だった。
「さぁ、ご希望の妹だぞ……。存分に説得するがいい!」
半裸の状態で、頭と背中に翼が生え、両手足には鉤爪。
全身は、青色の羽毛で覆われていた。
「木草樹様に害を為す者には死を!我らが木草樹様に勝利を!」
青い卵の体から【木縁樹草風華】が立ち昇る。
卵は、完全に意識を木草樹に操られていた。
「久しぶりねぇ~、卵!お姉ちゃんよ!!!」
私は、【自己強化再生】を使用したまま、【放腐土帰】の構えを取った。
それに対して、青卵は【重罪心疲】の構えを取る。
能力拳法は、能力拳法でしか防げない。
逆を言えば、能力拳法さえ覚えていれば防ぐことが出来るってことだ。
「さて、姉妹喧嘩の始まりよ!」
私は、木草樹によりあちこち改造された卵に向かって走っていった。




