師の教え
「ヌメっちのような両生類の最終進化先の種族が龍神と呼ばれていましゅ。龍族の特性を持った人型の生物でしゅ」
カリカリっと手に持った不思議なチョークで、庭鳥は空間に文字を書いていった。
「魚類、爬虫類、両生類に限り、龍種へと進化することが出来ましゅ。ただ、爬虫類は、龍種になる前に竜種に進化しなくてはいけなかったり、魚類は、滝を昇る龍種になるための試験があったりしましゅがね……。そういう意味では、両生類が一番龍種になるまでの手順が少ないと言えましゅ」
「龍ねぇ……。正直な話、ワシはそないに龍っぽいことを感じた事無いんやけどなぁ~……。普段も昔の【会話蛙】に【擬態】しとるしのぉ~」
庭鳥が書く龍種の説明の中には、ほぼ不老、息の攻撃が可能、空を飛べる等があったが、全てピンとこないものばかりだった。
「両生類の場合、完璧な龍種に一気に進化しゅるのではなく、じわじわと少しずつ進化するんでしゅよ。今のヌメっちは、半龍種と呼ばれる、半分だけ龍種で、もう半分は蛙の龍種としては半人前の状態でしゅ。でしゅから、能力も半分程度!」
空中に庭鳥がヌメールの能力を書き込んでいく。
「これは、私が【魂情報】と呼ばれる、相手のステータスを確認しゅる魔法を使用して、ヌメっちの得ている技術を調べたものでしゅ」
<特殊能力>
【完全会話】:声を出せる生物全てと会話できる
【老化減少(特大)】:老化が非常に遅くなる
【超跳躍】:非常に高く、長くジャンプすることが出来る
【声力(特大)】:大きく鳴くことが可能
【浮遊(微弱)】:地面から数センチ浮いて移動が出来る
<特殊技術>
【重罪心疲】の戦闘型:能力拳法の型のみ
【超擬態】:体の形態を変化し、どんな姿にでも擬態できる
【超猛毒】:触れただけで即死する強力な毒を分泌する
【超胃酸】:腹に収めたものを瞬時に溶かす強力な胃酸
【完全酸耐性】:酸による攻撃を完全無効化
【完全毒耐性】:毒による攻撃を完全無効化
【魂糸】:魂を糸状に変化させる技術
【触魂】:魂糸を操る技術
【生糸】:糸状にした魂を肉体の外へ出す技術
【粘度】:変形させた魂の状態を維持し続ける技術
<魔法>
【自己強化】:自分自身を強化。通常時の5倍
【自己治癒】:治癒能力を強化。通常時の100倍
「なんか、大した技術が無いのぉ……」
自分の特殊能力にため息が出た。
庭鳥の半龍種という言葉が良く分かる、中途半端な特殊能力の数々だった。
「こうやって箇条書きにすると、自ずと視えてくるものでしゅよ。自分のどこを伸ばしていけばいいかを……」
「ふ~ぅむ、普通なら得意の【毒】を伸ばしていきたいところやけど、もう打ち止めくさいしなぁ……。」
「まぁ、毒の最終系は【神殺しの毒】ってのがあるでしゅけど、ヌメっちには辿り着くの難しいと思いましゅよ。本当に神でしゅら殺せる毒でしゅからね……。まぁ、私の知る神二人には、効くか分かりましぇんが……」
「んん~??じゃあ、庭鳥的にはどこを伸ばせばええって思とるの?師匠言うんやから、それぐらいのこと分かるんやろ?」
「……はぁ、まぁいいでしゅよ。私的には、ここでしゅかね。後は、【重罪心疲】を完璧に覚えるくらいでしゅね~」
カリカリっと、庭鳥は先ほど書き上げた技術に丸を付けていく。
庭鳥が丸を付けた技術は、【声力(特大)】、【超跳躍】、【超胃酸】の3つだった。
「はぁ?またよく分からんの選びおったなぁ……。理由聞いてもええか?」
庭鳥は、何でも聞いてくるヌメールをじと目で睨んだが、大きくため息を吐いて諦めて説明を始めた。
本来の庭鳥は、放任主義なので、相手が気が付くまで待つのだが、今回は色々と時間が無かった。
「まず、【声力(特大)】。これは、蛙特有のゲコゲコ鳴く能力の強化版でしゅ。これは、騒音どころの騒ぎじゃしゅまない音波を発生できましゅ。鍛えていけば、龍種の息系の技術も覚えられましゅ」
説明の途中だが、何故かヌメールは、顔を真っ赤にして落ち着きなく辺りを見回していた。
その様子に庭鳥が気が付く。
「ん?どうかしましゅたか?そんなに顔を赤くしゅて……」
「いや、だって……、さっきのゲコゲコって、蛙語で『SEXしてぇー』っていう求愛っ!?あだっ!いだっ!」
若干涙目になりながら、ポカポカとヌメールを殴り続ける庭鳥。
顔は、ヌメールに負けないくらい真っ赤になっていた。
「もうもう!そんなツッコミいらないでしゅ!まったく、ヌメっちは、昔っからデリカシーが無いでしゅ!もうちょっと、空気を読む努力をしろでしゅ!」
「あて!分かった、分かったって!!すまんすまん!!!」
庭鳥の軽い説教の後に、説明が再開される。
「こほん……。次は【超跳躍】でしゅが、これは単純にスピードと脚力を強化できましゅ。あまり小回りは利かないかもしれましぇんが、初撃ならばこの速さは武器になりましゅ。【速度強化】の魔法を重複すれば、更に速くなれましゅし、速度特化の戦い方が出来るようになりましゅね。あと、【超跳躍】を使った体当たりや、足技なんかも結構な威力が出ると思いましゅよ」
「ふむぅ、なるほどなぁ……」
「さて、最後は、【超胃酸】でしゅが、ヌメっちは気が付いていましゅか?自分の本当の武器に?」
「自分の本当の武器ぃ~?」
……ヌメールは、庭鳥との修行風景の回想を終え、そこで教わった自分の武器を口を開けて披露する。
ゲコォ!
ヌメールの口から飛び出したソレは、凄まじい速さで熊の化け物に巻き付いて、がんじがらめにする。
そして、飛び出したのと同じ勢いで戻り、熊の化け物は、ヌメールのお腹の中へ消えていった。
「へぇ~、蛙っぽいわねぇ」
卵がその様子を見て、にこりと笑った。
ヌメールが使用した武器とは、自身の【舌】だった。
蛙は、粘着性のある舌を高速で動かして獲物を捕らえる。
その速度は、通常の蛙でさえスロー再生しなければ目に見えないほどの速さである。
本当に、このヌメールと熊の化け物の戦闘は一瞬で終わってしまった。
時間にして3分もかかっていない。
カップラーメンも出来ない圧倒的な速さで、ヌメールは勝利を手に入れたのだった。
「うぐぅっ!?消化が終わるまで苦しいのぉ……」
大きくお腹を膨らませたヌメールが、寝転がったときに、卵は嫌な予感がして木草樹を見た。
なんだか分からないが、私たちを小馬鹿にして笑ったように感じたのだった。
「ぐおぉ!!」
ヌメールの口の奥から黒い炎のようなオーラが立ち昇る!
グギャガアアアアアアアアアア!!!!!!!!
熊の化け物が溶けかけの体で、ヌメールの口を開き、外へ出ようとしていたのだ。
ボコボコと体が崩れていき、新たな生物へと【進化】しているようだった。
「フフフ、こんなに早く終わってしまってはつまらないではないか?もう少し……ムッ!?」
木草樹の言葉が終わらないうちに、卵はヌメールの口から上半身を出していた熊の化け物を蹴り飛ばす。
「勝負はついていたってのに、無駄に戦闘を伸ばそうとするのは感心しないわねぇ……」
卵に蹴り飛ばされた熊の化け物は、進化する前にボロボロに崩れて消えてしまった。
「……貴様は、何者だ?」
「私の名前は、凛!妹を返してもらうわよ、木草樹!」
ビシッと人差し指を木草樹に突き付けて、卵は、木草樹の前に立ったのだった。




