モヤモヤ卵ちゃん
ヌメっちと熊の単純なステータス数値だけなら、ほぼ互角である。
ということは、後は技術力の差が勝敗を決めるカギとなる。
私は、今までの事を思い出した。
未だに、何故木草樹と戦う経緯となったかは体験していない。
しかし、理由は分からないけど、何かの勝負をするということで、私はヌメっちを鍛えた。
ヌメっちが【龍蝦蟇人】へ進化してから、ほんの十数年前までずっとだ。
それこそ、庭鳥さんよりもずっと私のほうが、ヌメっちに武術を教えていた。
でも、私は敢えて【重罪心疲】を教えていなかった。
もちろん、私は戦闘のプロではないので、攻撃の型や防御の型などの基本的な型は、【重罪心疲】の物を流用して教えてはいた。
しかし、肝心の『攻撃に相手を疲労させる効果を付加させる』部分を教える事だけは、一切控えたのだ。
それには、2つ理由があった。
まず、一つは、ヌメっちに型に嵌まった戦闘スタイルをしてほしくなかったからだ。
戦闘スタイルには、それぞれやりやすさがある。
私は、格闘技として【重罪心疲】を使用しながら、魔法を放つ【魔法拳法家】の戦闘スタイルを試行錯誤の末に完成させた。
ヌメっちにも、同じように試行錯誤しながら、自分の戦闘スタイルを掴んでほしかったのだ。
そして、2つ目。
それは、単純に上手く教えられなかったからだ。
私は、【重罪心疲】を1から丁寧に教えてもらったわけではない。
私の能力【歩み】で、強制的に技術として植え込まれたものだ。
単純な型や動きなどならば、自分の動きを見せて教えるだけなので、そんなに大変ではないけど、能力を付加させる方法となると話が変わってくる。
どうも【重罪心疲】に限らず、能力拳法全部に【秘伝書】と呼ばれる、その能力拳法の全てを記してある巻物のようなものが存在するらしい。
能力拳法を教わって、全ての技を極めたとしても、それを読んで仕組みを理解しないことには、相手に上手く教えることが出来ないらしい。
能力拳法を教えるに足る人物と師匠に認められたものだけが、その秘伝書を見ることを許され、教わる側から教える側になることが出来るという。
まぁ、能力拳法が勝手に広まることを避けるための処置なのだろう。
一部の能力拳法は、一子相伝らしいので、厳重に教え方が隠されていたとしても不思議ではない。
……この蜘蛛の【歩み】のおかげで、能力拳法関係については多くの知識を得たけど、今は忙しいので後でまとめよう。
話を戻す。
その結果、ヌメっちが辿り着いた戦闘スタイルが、自身から分泌される『猛毒』を利用した戦闘方法だった。
耐性が無い限り生身でのガード不可能、状態異常によるステータスの数値減少、常時HPが減り続ける等の効果を持つ、特別な接触毒をヌメっちは作り出すことが出来た。
接触毒は、毒の中でも最も性質が悪く、普通は体内に注入したり、摂取しなくては毒の効果は出ないと言われている。
しかし、接触毒は、触れただけで毒に侵されるという反則的な代物だ。
まぁ、生身で触れなければ効果は無いけどね。(※服などの上から浴びた場合、服に染み込んで、肌に到達する前に脱げれば、毒の影響を受けることは無い)
その猛毒と、私の教えた格闘術を掛け合わせた通称【ヌメヌメスタイル】(本人命名)が、私の知るいつもの戦闘スタイルだ。
しかし、今のヌメっちの構えは、明らかに【重罪心疲】のもの……。
私は、ヌメっちが庭鳥さんと出会ってから何があったのかを知らない。
その時代に転生してはいたのだが、【サルト】に着いた瞬間に叩き潰されそうな生物ばかりだったので、ヌメっちに会いに行けていなかったのだ。
ヌメっちが熊に負けてから、庭鳥さんに出会うまでも、私からは基礎的な戦闘術しか教えられていない。
つまり、あれは庭鳥さんが教え込んだもの……。
興味と一緒に、胸にモヤモヤしたものが渦巻いている……。
こんなことに嫉妬しても仕方がないとは思っていても、感情は止められない。
何故か分からないけど、庭鳥さんとにこやかに話すヌメっちを私は、面白くないと感じていた。
「でも、ここは庭鳥さんがヌメっちを教えて導いてくれたことに感謝しなくちゃ……」
私が教えていただけでは、万が一にも勝ち目はない。
二人で修行をしていたであろう風景を思い浮かべると、モヤモヤするけど仕方がない!
私は、頭を振ってその想像を振り払って、二人の戦いを見守った。




