戦の前の静けさ
「それじゃあ、健闘を祈るでしゅ!頑張ってくるでしゅよ、二人とも!」
私達に作戦を説明し終わった庭鳥さんは、そう言うと手を振って送り出そうとしてきた。
「え?手伝ってくれるんじゃないの?」
「……はぁ~、まったく!甘ったれるなでしゅ!!ぶっちゃけ、私が居たところで、対して戦力にもならない上に、木草樹に警戒されるだけでしゅよ」
むぅ、確かに……。
前に初めて友達が出来た時に会った庭鳥さんよりかは、強さを感じるけど、私に改良した転生術を埋め込んだ時ほどではない。
というか、【魂情報】を確認するまでもなく、私やヌメっちよりも弱いと感じられるほどの強さしかない。
「ほな、行ってきますわ、師匠!」
「うむ、頑張ってくるが良いでしゅよ、弟子!」
ヌメっちは、庭鳥さんと固い握手を交わして、どんどん歩いて行ってしまった。
何やら、早く助けに行きたい気持ちが見て取れる。
「私も、行ってきます!色々ありがとうね、庭鳥さん!」
「あ、ちょっと待つでしゅ」
ヌメっちの後を追おうとしたところを、庭鳥さんに引き留められた。
「ほえ?」
「たぶん、使うことは無いと思いましゅが、一応持っていくといいでしゅ」
そう言うと、庭鳥さんは、スカートのポケットから小さな封筒を取り出して、私に渡してきた。
「……これは?」
「もし、ピンチになったら、その封筒の中身を装備するといいでしゅ。きっと役に立つはずでしゅ!」
指で触った感じだと、封筒の中には、薄くて硬い鉄板のようなものが入っているようだった。
護符やお守り系の魔道具か何かかな?
「さて、私はもう帰るでしゅよ……。その封筒の中身は、使った後にヌメっちに返してくれればいいでしゅよ。そうすれば、後で取りに来るでしゅから……」
私が封筒の中身をあれこれ考えているうちに、庭鳥さんの体が薄くなる。
今まで色々な生物に転生してきた私でも理解できない現象だった。
「あ!そういえば、いつヌメっちと知り合ったんですか?しかも、弟子と師匠って?」
「ふふ、彼から直接聞けばいいでしゅよ。さぁ、早く行かないとヌメっちのことでしゅから、勝手に一人で勝負挑みましゅよ?」
そう言い残して、庭鳥さんはぼやける様に消えてしまった。
【転移】や【転送】じゃない?思念体だけを飛ばした??
まぁ、よく理解できないけど、とりあえずは……。
「いつも、ありがとうございます!」
私は、消えた庭鳥さんに対して、頭を深く下げると、ヌメっちを追いかけて【サルト】に入っていったのだった。
「……色々鍛えてもらったんや」
私が、ヌメっちに庭鳥さんとの関係を聞くと、そんな答えが返ってきた。
「今から、10年位前かな。ふらっとワシの前にやってきてな、ワシを弟子にして色々なことを教えてくれたんや。鍛えてもくれたし、……重要なんは、木草樹様信仰心を取り除いてくれたことやな。ワシは、もう木草樹に様付けんでも怒らんで」
「そういえば、昔は木草樹って言うだけで、ドツかれたもんね~。『様を付けんかい!』って」
二人で並んで、森の中を歩く。
柄にもなく、二人そろってすごく緊張していた。
心臓が口から飛び出そうだった。
もし、失敗したら……そう考えるだけで、胃の中の物を戻しそうなくらいの精神状態だった。
「凛、ワシも全力で行くで……、勝とうや……」
「うん……」
ゆっくりと森を歩いて、精神を落ち着ける。
二人で過去話に花を咲かせて、談笑しながら歩く。
その過去話の中には、私自身が知らない情報もあって、それが逆に勇気をくれた。
だって、それは私がこれから体験するであろう出来事だと思うから……。
ゆっくりと精神を集中させていく。
二人の体から溢れんばかりの殺気が、【サルト】の生き物を寄せ付けなかった。
また、殺気を感じ取った木草樹は、【木縁樹草風華】を使用して、二人の行方を阻もうとはしなかった。
二人の精神は、集中によって研ぎ澄まされ、頭の中は、戦う事のみに特化された。
ガサガサガサ……。
「お久しぶりや、木草樹様。番人の地位を頂きにまいったでぇ……」
「ふっふっふ、随分と大人しくしていたではないか。待ちくたびれてしまったぞ……」
木草樹の元へ、二人で到着する。
沢山の蟲を従えて待ち構えていた木草樹の前に、熊の化け物が進み出た。
「……邪魔や。今回は、止めたる」
ヌメっちは、【重罪心疲】の構えを取ると、一歩前へ進み出た。
「息の根をなぁ!」
ヌメっちの気合の雄たけびに触発され、熊の化け物はヌメっちに突進していった。




