作戦を説明する!
丸薬が喉を通り過ぎると同時に、体に力が溢れてきた。
「さっすが、庭鳥さん秘蔵の品ですな~!元気100倍って感じですわ!」
私は、【歩み】で現在のステータスを再確認する。
HP:5730/5730
MP:4211/4211
力:9700
防:6493
速:8891
うん、最高の状態と言っても差し支えないだろう。
いつもは、私のMPだけが突出しているのだが、今回に至っては、そこだけが低い感じになってしまっている。
素直に感じる感想は、化け物という一言のみ……。
天武の才能を与えられた者が、最高の血統と最上の肉体を持ち、生まれた時から、その才能を伸ばす生き方をしてこないと、57年という短い年月では、ここまで辿り着けないだろう。
「ほら、服も用意しておいたでしゅから、早く着替えるでしゅ!」
自らのステータスに感動していると、庭鳥さんが服を手渡してくれた。
本当に、なんて出来る人なんだろう。
私は、ボロボロの服を脱ぎ捨てて、新しい服に着替える。
「一応、二人のステータスを【魂情報】で調べて、紙に記入しときましゅた。お互いに確認してみてくだしゃい」
「至れり尽くせりやなぁ……。ほんまに、ありがとなぁ、お師匠さん!」
「気にしなくていいでしゅよ。後で、たっぷりお礼をいただきましゅから~」
くすりと少女らしい笑いをして、庭鳥さんは私たちに紙を渡した。
自分自身のステータスは、さっき確認したので、ヌメっちのほうを確認してみるかな?
名前:ヌメール
種族:龍蝦蟇人
性別:♂
HP:1577/1577
MP:463/463
力:1253
防:1009
速:1392
ふむ、大体100年ちょっととはいえ、中々な成長をしてくれたものだ。
私が感心していると、ヌメっちは、紙と私を交互に何度も見直していた。
まぁ、そりゃ驚くか。
文字通り、今の時代ならば、木草界最強の人物に転生したのだから。
「いやぁ……こりゃ、なんの冗談なんや?……強すぎやないか?」
「今回に限っては、強すぎて悪い事なんてないでしゅよ。さて、では二人とも聞くでしゅよ」
庭鳥さんの言葉に、私とヌメっちは、正座になって黙った。
そう、今回に限っては、ちょっとばかり無茶をしなくてはならないのだ。
なんせ、これ次第で私の運命が決まってしまうのだから……。
「木草樹は、あれから111年間、卵を閉じ込めて様々な実験を繰り返していましゅ。まず、卵ちゃんがまだ転生を繰り返していることを知られるのは、まずいでしゅ。よって、ヌメっちは、今回だけ卵ちゃんを凛と呼ぶでしゅ!」
「ん?あれ?どういうことや?卵なら、ここにおるやん……」
庭鳥さんの言葉に衝撃を受けているヌメっち。
そう言えば、敢えてヌメっちには説明していなかったわね……。
「あー、庭鳥さん。そういえば、ヌメっちには、全然説明してなかったわ。だって、ヌメっちが知ったら、勝手に暴走して助けに行きそうだったからさぁ~」
「ああ、そういえば、そうでしゅたね。私もうっかりしてたでしゅ」
未だに、頭に?マークを浮かべているヌメっちを前に、庭鳥さんが軽く咳ばらいをして説明に入る。
「今から、111年前にヌメっちを逃がした後に、卵ちゃんは木草樹に捕まってしまっていたんでしゅよ。それで、未だに木草樹に捕らわれ続けているんでしゅ」
「なっ、なんやて!?」
こっちを向くヌメっちに、にや~っと笑顔を向ける。
ふっふっふ、混乱してる、混乱してる。
まぁ~、無理もないけどね。
だって、捕らわれているはずの卵がここにいるんだし。
「じゃあ、こいつは誰や!この頭にくるニヤケ顔は、間違いなく卵やで!」
相変わらず、一言多い両生類である。
大事な決戦前じゃなかったら、間違いなく殴っていた。
「……私は、『助けてもらった後』の卵よ。既に、色々経験しててね、年齢は250歳くらいにはなったかしらね。ようやく、【巣作蜘蛛】に転生できたから、ここに来たってわけよ」
そうなのだ。
私は、昔ヌメっちを逃がした後に、木草樹に捕まって色々と実験されていたのだ。
正直言うと、その時のことは思い出したくもない。
んで、ある時に助けられたのだけど、それがこの【巣作蜘蛛】にだったのである。
初めは、【巣作蜘蛛】本人に助けてもらったと思い込んでいたけど、転生を繰り消していくうちに、どうもそんな人格者でも無いし、【サルト】に向かった経緯が無い事に気が付いたのだ。
そこで、更に調べてみると、【巣作蜘蛛】にギフトが訪れた監視結果を発見。
そして、確信したのだ。
ああ、私は未来の私に助けられたのだと……。
それに気が付いた時に、私は思ったのだ。
もし、【巣作蜘蛛】に転生することがあったら、過去の私を助けに行かなくてはいけないと!
まぁ、庭鳥さんまでが『卵救出計画』に関わっていたとは知らなかったけどね。
「今回は、ただの前回のリベンジじゃ無いでしゅ。必ず、卵ちゃんを救出することが重要なんでしゅよ。もし、助けるのに失敗したら、歴史に矛盾が生じて、こっちの卵ちゃんは消えるでしゅ」
「!?」
「卵ちゃんも分かっているでしゅね?貴方が助かったからといって、必ず今回の救出も成功するとは限らないと……」
私は、庭鳥さんの言葉に頷く。
「歴史は、無数に広がっていくあみだのような物。助かった未来もあれば、助からなかった未来もある。もし、失敗すれば単純に助からなかった未来へ歴史は流れていく」
「そういう事でしゅ。だからこそ、念には念を入れるに越したことは無いんでしゅ」
ごくりとヌメっちの喉がなった。
そして、なんとも申し訳なさそうな顔で私を見つめてくる。
「おいおい~、気にすんなよぉ、親友!比較的大きな収穫もあったし、別に私は気にしていないからさぁ~!」
「せやけど……」
「……無駄話は、慎めでしゅ。一刻も早く作戦を説明したいんで、口を閉じて私の話を聞いてちょうだい」
ピタリ
普段と違う口調の庭鳥さんの言葉に、私とヌメっちは慌てて口を閉じると、ピンっと背筋を伸ばした。
その様子に満足した庭鳥さんが口を開く。
「まず、転生した卵ちゃんがここにいる=卵ちゃんが木草樹の元から逃げ出すことに成功している。の方程式が成り立ち、救出が困難になりましゅので、卵ちゃんの素性は隠すことにしましゅ。卵ちゃんの姉の凛という設定でいくので、ヌメっちは卵ちゃんをそう呼ぶんでしゅよ?」
「了解や!師匠!」
「そして、必ず卵ちゃんを見つけ出して、殺すことが重要でしゅ。私と【アダモゼウス】が掛けた【時空転生術】は、そうやすやすと解けるものじゃないでしゅ。恐らく、【アダモゼウス】くらいしか一瞬で解けない仕様になっていると思いましゅ。つまり、殺せば勝手に転生が発動して、逃がすことが可能なんでしゅよ」
「……」
「熊の相手をヌメっちが、卵ちゃんの相手を凛ちゃんがやるんでしゅ!卵ちゃんを探し出して、殺すことが作戦の最終目的でしゅ!」
なるほど、殺せばいいのね。
ならば、この肉体への転生は最高と言っていいだろう。
「っていうか、卵を探さなあかんのやな?どうやって探すねん?」
私自身は、何処に閉じ込められていたのか知っているので、疑問にも思わなかったことを、ヌメッチが庭鳥さんに質問していた。
……そうか、何処に閉じ込められているか分からない体で行かないと、木草樹に感づかれてしまう可能性もあるのか。
しっかり、演技しないといけないわね。
「卵ちゃんは、肉体が死ねば、勝手に魂が別の肉体へ跳ぶように術を施されていましゅ。ただ、一部の例外を除いて……」
「例外?なんや、それ?」
「これは全ての魂に言える事でしゅが、霊界にいた場合、魂は霊界に留まってしまうのでしゅ。つまり、木草樹の内部に閉じ込められていた場合、転生が発動しなくなるんでしゅ。詳しい説明は、省きましゅが、魂だけの状態ならば、木草樹の外へ出すだけで転生が発動するというわけでしゅ」
「おおー!なら、簡単やん!!卵を閉じ込めている檻的なやつをぶっ壊せばいいんやろ?」
「まぁ、そういうことでしゅ」
ちらりと、庭鳥さんが私を見た。
大丈夫、分かってますって……。
私は、無言で庭鳥さんを見たまま、頷いた。
だって、私は知っているから。
実験によって、卵という魂がどうなってしまったかの結末を……。




