猛毒の粘液
「ほらほらほらほらほら?どないやぁ!」
ヌメっちは、ひたすらに拳を熊に打ち込んでいく。
かなり効いているようで、一発当たるごとに熊の巨体がグラリと揺れる。
ヌメっちの攻撃に対し、熊も爪を立てて切り裂くように腕を振るうが、どうにも動きが鈍い……。
私が【魂情報】を盗み見て確認すると、『状態異常:猛毒』の表記があった。
ああ、やっぱりあの粘液の効果『毒』なのね。
拳と一緒に毒も打ち込む……。
これは、ガードしても、ガードの上からダメージ入る有能な攻撃手段だ。
「おおっ、ヌメっち考えて攻撃してるなぁ……」
それにしても、見事な体術捌きである。
格闘経験は、一体どこで身に着けたんだろうか?
明らかに素人の喧嘩のような立ち振る舞いでは無い。
「……やっぱり、私かな?」
少し妙だと感じたのは、さっきの鳥を一撃で屠れた時だった。
なんで、未来の私がこの程度の相手に苦戦していたのだろうと思ったのだ。
……いや、今の私にはもちろん強敵でしたよ、ええ!
既に、MP残量も1000を切っているしね。
……でも、今の私でも勝てる相手に、未来の私が苦戦するのは明らかにおかしいでしょ?
そこには、きっと何か理由があると思った。
「その理由がコレかな……」
ヌメっちの体の身のこなし、動き、呼吸、リズム。
全てが【重罪心疲】の動きによく似ていた。
きっと、私はこの親友を鍛えたのだ。
その為に、ワザと負け続けたんじゃないかな?
先ほどの【魂情報】を見ても、熊のステータスは、ヌメっちをちょいと上回る程度のレベルだった。
猛毒による追加効果で、今や全てのステータスがヌメっち以下なのだ。
もはや、負ける要素がない。
「これで、仕舞いや!」
ヌメっちの正拳突きによって、高く空へ吹き飛ばされる熊。
その巨体は、地面に倒れると起き上がることは無かった。
「よっしゃ!」
「おお!やるじゃない、ヌメっち!」
「いやいや、卵のおかげやで!」
私とヌメっちは、手を取り合って喜……ぼうと思ったけど、ヌメっちが粘液まみれだったんで、謹んでお断りをした。
まぁ~、まだ私の全身もヌメっちの唾液で微かに湿っているけどね!
……ふぅ、ともかくこれでよく分からないけど、一件落着ってことなのね。
「そうそう!ヌメっち、早く説明して……」
「ふむ、良くやったぞ!二人とも」
私の言葉を遮って、木草樹が話しかけてきた。
まぁ、いいか。
この人の話を聞いていたら、もしかしたら分かるかもしれないしね~。
……な~んてことを呑気に考えていた時期が、私にもありました。
私とヌメっちは、二人して大人しく木草樹の話に耳を傾けていたら、とんでもない言葉が後に続いたのだった。
「 だ が 、 ツ メ が 甘 い ! 」
その言葉と同時に、熊の体に青い炎が纏わりついた。
「なっ!?」
「止めを刺すならば、きっちり卵のように頭を潰して、命を終わらせなければいけないな……。動けなくなっただけで、満足するようでは、とてもとても……」
ボコボコと音を立てて、熊の巨体が変化していく。
油断した……。
熊も鳥も【木縁樹草風華】を使っていなかった。
だから、そういう勝負なんだと勝手に思い込んでしまっていた。
「貴様を東の新たな番人にする事は出来ないな!」
グギャガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
進化し終わった熊が起き上がり、雄叫びをあげた。
熊の体は、大きく崩れていて、体から腐敗臭が漂っていた。
体のあちこちから、大小様々なキノコが生えていて、まるで小さな山のようだった。
その様子を観察していた私達。
先に口を開いたのは、ヌメっちのほうだった。
「厄介な進化しおったなぁ~。恐らく、ワシの毒攻撃を食らいまくったからやろうな……」
「攻撃に耐性を持ったってことね……」
こんな生物は、今まで見たことが無かった。
間違いなく新種の生物だ。
名づけるなら、【茸山熊】ってところだろうか。
そっと、刺したままの【魂糸】から【魂情報】を確認する。
「あ、こりゃ無理だわ……」
ステータスは、全てヌメっち以上。
それに加えて、【木縁樹草風華】まで纏っていた。
「さぁ、圧倒的な絶望の前に今度はどう戦うのだ?」
木草樹の愉快そうで残酷な声が耳に残った。




