親友
太陽が昇っていくとともに、ヌメっちの体を纏っていく【木縁樹草風華】がどんどん大きくなっていく。
私は、【魂糸】をヌメっちに刺したまま、ただその時を待った。
「ぐぐぐっ、全然っ体が動かへん……。やるのぉ~、卵!」
「さぁて、そろそろ意識を手放しちゃって大丈夫よ~!後は、こっちで上手くやるから!」
「はぁ……気が進まへんけど……。信じるで、……親友!」
「任された!」
その言葉を最後に、ヌメっちの瞳が怒りに染まっていった。
ヌメっちは、完全に【木縁樹草風華】によって狂信者化された。
思考が『木草樹様に害を為すかもしれない、異端者を始末する!』事だけで塗り潰され、私を殺そうと、必死になって体を動かそうとする。
しかし、【重罪心疲】の奥義を舐めてもらっちゃ困る。
そう簡単に抜け出せるようならば、奥義になんてなっていない。
奥義とは、極意なのだ。
分かりやすく言えば、必殺技である。
「悪いけど、会話蛙が十倍の戦闘能力持ったところで、抜け出せるとは思わないことね……」
私のセリフに、【木縁樹草風華】の色が赤から青へ変化していく。
よし!キターーーーーーーーーー!!!
これを待っていた!
内心は、小躍りしたいくらい喜んでいたけど、それを悟られないように焦った表情で演技してみる。
「なっ、なにぃ!!」
わざとらしく驚いてみちゃったりもする。
すると、ヌメっちの体がボコボコという音を立てて進化を始めた。
数千年、数万年、数億年という長い時間をかけて進化するのが生物だ。
より強く、より生き残るため、より環境に対応するために、生物は進化する。
この強者だけの【サルト】で、私を殺すためだけの進化をしていく。
本来ならば、千や万単位で時間をかけて種として進化していくのが、この方法ならば一瞬だ。
こんなに簡単に強くなれるのならば、利用しない手は無い。
正直、ヌメっちは弱い。
この【サルト】で生き残るための力が圧倒的に足りない。
私は、次の転生でも、次の次の転生でも、ヌメっちに会いたいのだ。
会って話をしたいのだ。
愚痴を聞いてもらいたいのだ!
だから、ここで生き抜いてほしい。
食物連鎖になんか負けてほしくない。
だったら、どうすればいいのか?
簡単、ピラミッドの上の階層へ移動させればいいだけのことだ!
私の時間の許す限り、ヌメっちを上の階層へ引き上げてやる!
「ハハハ!エロウマタセタナァー!」
まるで機械のように感情のない声が響く。
30cmほどだった体長は8mほどになっており、その全身をヌメヌメした体液が覆っていた。
どうやら、進化して【覚醒停体】の金縛り状態を解いたようだ。
なるほど、さっきよりも遙かに強くなっている。
だけど……
「まだまだね……」
私は、【魅了】でヌメっちの動きを封じると、【重罪心疲】を打ち込んでいった。
悪いけど、【コアトル】以上のプレッシャーが無い。
ものの数分で、疲労困憊で動けなくさせる。
「悪いわね」
【覚醒停体】は、生物の体の構造を把握していないと使用できない技だ。
特に脳の位置を正確に把握していなければならない。
もし、進化によって脳の位置が変わっていたら、【覚醒停体】はヌメっちに使用できない。
なので、今回は【重罪心疲】の滅多打ちによる疲労困憊で動きを封じさせてもらったのだ。
さて、ここからは賭けだった。
もし、生物に対して一回しか進化できないのならば、ここまでしかヌメっちは強くなれないだろう。
だけど、もしこれ以上の進化が出来るのならば……。
「!?」
ボゥ!
ヌメっちの体から黒いオーラが立ち上る。
それと同時にヌメっちの体が糸のようなもので覆われて、黒い繭に包まれていった。
「これは……、予想外の展開ね」
これ、大丈夫なのかしら?
もしかして、すごくヤバイことになったんじゃ……。
私が心配していると、あっという間に繭が開いて、中から人が姿を現した。
「……生物は、進化の果てに人型になるとは聞いたことがあるけど、これは」
私は、ヌメっちに突き刺していた【魂糸】で、【魂情報】を視る。
名前:ヌメール
種族:龍蝦蟇人
性別:♂
HP:466/466(×10)
MP:211/211(×10)
力:591(×10)
防:437(×10)
速:872(×10)
うぉ!めっちゃ強くなってる!
しかも、ちゃっかしく竜でなく、龍種まで持ってる!
「感謝するでぇ、あんさんみたいな強敵に会えたことに……。そして、木草樹様のお恵みに……」
ヌマっちは、なにやらかっこよく決めているようだけど、この結果に私はもう大満足だ。
……だけど最後に一言言いたい。
だって、仮にもレディの前だ。
「その前でぶらぶらしている物をしまいなさい!」
「んっ?」
ヌマっちが股間を見るのと同時に、【転送】を発動させる。
流石に、親友殺しをさせるわけにはいかない。
私は、この転生体が生まれた【テントナル】まで戻ってから、死ぬことを決めていた。
「……なんや、これ?」
【サルト】から異端者の気配が去ったのを感じ取った木草樹は、【木縁樹草風華】を解除していた。
正気に戻ったヌメールは、自らの体を見て、驚きを通り越して呆れていた。
どこからどうみても、人と同じ体つきをしていて、しかも何やら強さが溢れてきているのだ。
しかも、何故か【超擬態】とかいう特殊能力まで備わっていた。
ドロン!
煙が発生して、見た目が会話蛙の頃と同じになる。
「なるほど……これが【超擬態】やな。ふむ、やっぱりこっちのほうがしっくりくるなぁ~」
卵の計画を聞いた時は、正直上手くいくとは思っていなかった。
しかし、この体を見るにどうやら成功したようだ。
「ふん!まったく、無茶ばっかりしおってからに……挨拶も言わんで行きおって……」
「シャー!!!」
後ろから突然、蛇飛蝗が襲い掛かってきていた。
しかし、蛇飛蝗の頭は、一瞬にしてヌメールの胃袋の中へ消えてしまった。
「……これで、2回目やなぁ。命を救われんのは……」
もし、卵の提案が無かったら、逆にヌメールが蛇飛蝗の胃袋の中に納まっていただろう。
ヌメールは、決心していた。
もし、今後卵に会うことがあったら、絶対に何があっても手助けをすると!
<今回の転生先で手に入れたもの>
・【サルト】の知識
・親友




