進化
蛇は、思ったりも早く【転移】に対応してきた。
それは、蛇が持つピット器官で熱を感知してきたからだ。
私自身が放つ熱を感知することによって、死角に移動した私を瞬時に見つけて攻撃する。
だけど、まだまだ私の【転移】のほうが速い!
私の拳を12発、蛇に叩き込んだ所で蛇の動きが止まった。
「ようやくかぁ……」
蛇は倒れこみ、こちらを睨みつけたままビクビク痙攣を繰り返して動かない。
私の【重罪心疲】をまともに食らって、ここまで動けたほうが驚きだった。
【重罪心疲】は、相手を疲労させる能力拳法だ。
防御しようが、肉体にさえ当たれば、その部位を重度の筋肉痛にさせることが出来る。
体中に【重罪心疲】を食らった蛇は、疲労困憊で動けなくなっているはずだ。
この能力拳法という【マールド】の格闘方法だけど、能力拳法を習っていない者には防ぎようのない若干チート気味の技術だという事が分かった。
というのも、数千種に及ぶ数があると言われている能力拳法だが、違いがあるのは攻撃手段だけで、防御手段に関しては、全て統一されているようなのだ。
私が極めている能力拳法は、【重罪心疲】と【暴傷外与】の2種類のみだけど、防御手段は統一されていた。
どうも、防御の型自体の能力拳法があり、それが『能力拳法の能力を打ち消す効果を付与させる』効果があるようだ。
そりゃ、そうだよね。
傷を与える【暴傷外与】、疲労させる【重罪心疲】、両方とも盾や鎧でもなければ、防ぎようのない効果の能力拳法だ。
腕で受けようが、足で受けようが、食らえばそこに効果が出てしまう。
拳法家なら、その効果を打ち消して、素手で受け止める防御方法をあみ出すわよねぇ~。
「……?」
能力拳法について考えていた私の目の前に、先ほど蛇に食べられそうになっていた蛙が飛び出してきた。
「ハハハ、えろぅ、すんまへんでした!おかげで、助かったわ~!!」
何やら、気さくな感じで声を掛けてきて、頭をペコペコ下げる蛙。
「ぇ?何、あんたしゃべれるの??」
素直に驚いた。
【共感】で、生物と意思の疎通を図ることは、何度かやった事あったけど、人語を話す化物と会話をするのは初めての経験である。
「そりゃあ、ワシ【会話蛙】やからのぉ~!会話が通じる相手とやったら、どんな生物とでも会話できるで!」
えっへんと胸を張るような仕草を見せる。
なかなか可愛らしいやつである。
「誰とでも会話できる蛙なら、あいつに命乞いでもすればよかったじゃない?なんで、食べられる寸前だったのよ?」
私は、顎で蛇を差す。
蛙は、ちらりと蛇を見た後に、大げさなリアクションでため息を吐いた。
「だから、言うとるがな~。会話の通じる相手とだけだって……」
なるほど、あいつは話を聞かないやつらしい。
「まぁ、私はあんたを助けたつもりはないわよ。ただ、あいつがこっちに襲い掛かってきたから……!?」
私が蛇の方へ顔を向けると、青色のオーラがうっすら立ち上るのが見えた。
「青ぉ!?【木縁樹草風華】じゃない!!??」
次の瞬間!蛇の体がボコボコと大きく膨らみ、体の形が徐々に崩れ始めた。
「あっ、あかん!【進化】や!!」
「【進化】?何よ、それ!?」
「【進化】は、木草樹様をお守りするものだけに許された特別な処置や!木草樹様を守ろうと戦った者が、傷つき力尽きようとした場合にのみ発動する奇跡。強制的に肉体を成長させて、相手を最も始末しやすい生物へ【進化】するんや……」
【木縁樹草風華】とは、木草樹がこの国に侵入した異端者を始末するために、異端者に襲い掛かった生物を強制的にパワーアップさせる加護だったはず……。
もしかして、その保健か!
もしも、その状態で負けた場合は、強制的にその相手を最も殺しやすい生物へ【進化】する。
「くっそ!生物が数千年、数億年単位でやっとたどり着ける領域なのに、それすら一瞬で行えるのか!!」
無意識に下唇を噛む。
私の見ている前で、蛇の体から更に4本の獣の足が生えてくる。
背中から蝙蝠を思わせる大きな翼が生えてくる。
「マジか……。まさか、これはドラゴン種の【コアトル】やんか!」
「逃げるぞ、蛙!!」
私は、蛙を抱きかかえると、蛙ごと自身を魂で覆い、【透化】を発動させる。
そして、【転移】を発動!!
【転移】は、基本的に一人での移動しか出来ない。
しかし、服や荷物程度なら一緒に【透化】してやれば、移動できるのだ。
幸いにも、蛙の大きさは抱きかかえられるくらい。
なので、一緒に【転移】で移動出来る。
それくらいには、【魔法】を鍛えていた。
私が転生してまず初めにやる事は、【自己強化再生】。
そして、その次にやるのが【歩み】の確認。
その次が、【魂糸】を東西南北に各1本ずつ伸ばすことだった。
もし、自分が敵わない相手と出会った時に、すぐに【転移】で超長距離逃げることが可能になるからだ。
私は、今回南へ大きく伸ばしていた【魂糸】の先へ【転移】をした。
一瞬にして景色が流れて、ゴツゴツとした岩ばかりの地帯へ移動が成功した。
距離にして1000kmほど、一気に移動したわけだ。
「さすがに、逃げきっ」
ドゴーン!!!!!!!!!!!!!!!
私の後ろで、爆風が吹き荒れる。
急いで、後ろを確認すると、そこにはジャンプしてきたであろう【コアトル】が、長い舌をチロつかせていた。
「カロロロロ……」
「はっ!鳴き声まで変わっちまって……、余裕ぶっこくなってーの!!」
私は、蛙を地面に放すと、【重罪心疲】の構えを取った。
……第二回戦の始まりである。




