奥義伝授
「一日をくれって?どういうこと?」
国王の間の入り口前の広間にて、親父さんと私は向かい合って立っていた。
「私は、娘に何も教えることが出来ませんでした……。不器用な親父でしたからね。何も教えないことで、娘を守ろうとしたんですよ……」
「……」
「でも、それは間違いでした。教えなくては、伝わらないこともある。もう、遅いですけど……後悔だけはしたくない!ギフトさん、私は、観梨亜に伝えなくてはいけないものがあるんです!」
「……そう。それは、何?」
「能力拳法【重罪心疲】の奥義!私は、これを娘に伝えなくてはいけなかったのです!……すみません、貴方は、もう娘ではないとわかっています。でも……、でも!ください!!私が観梨亜に奥義を伝える時間を!!!」
静かな広間に、親父さんの声だけが響く。
辺りを警戒しているが、敵が攻めてくる気配はない。
「ああ、【グランディア】の者を警戒しているなら、もう大丈夫ですよ。【右狩り】で最後です」
親父さんの言葉で、私は警戒を解く。
「……そう、なら大丈夫ね。…………まぁ、いいわ。私の時間、貴方に譲るわ」
真剣な親父さんの目を見て、私はこの転生先での時間を彼に譲ることにした。
これで、親父さん自身の後悔が少しでも晴れるなら安いもんだしね。
「ありがとうございます」
親父さんは、私に向かって深々と頭を下げると、残った左腕を前に突き出して構えを取った。
「ギフトさんではなく、観梨亜と呼ばせていただきます。……観梨亜、【重罪心疲】についてどこまで知っている?」
親父さんの言葉に、私は観梨亜の【歩み】と意識をシンクロさせた。
「……【マールド】国王直属の実行部隊【聖心】が全員習得すべき能力拳法であり、戦闘技術であるくらいだね」
「【重罪心疲】とは、罪を犯した者に対し、罪を意識をさせて心身共に疲労させる技である。……と、表向きは言われているが、実際は観梨亜の言った通り、能力拳法の一種だ。そもそも、能力拳法とは何か知っているな?」
「……能力拳法とは、【マールド】の初代魔女である【ZERO】が生み出した、特殊能力を武術に取り入れたものです。攻撃手段に特殊能力を使用する為の工程を取り入れることによって、特殊能力付加させた攻撃が出来るようになります。また、能力拳法を覚えることで、特殊能力を使用できない一般人でも特殊能力を使用できるようになります」
自然と言葉遣いが敬語になっていた。
教わる立場であることと、観梨亜の【歩み】とシンクロしたことで、観梨亜だったらこうするだろうという意識に引きずられた結果だろう。
「うむ、そのとおりだ。そして、能力拳法は、【マールド】に住む人にとっての戦闘手段だ。それゆえに、様々な能力拳法がある」
私が知っている能力拳法は、魔女【月詠】が使用していた【暴傷外与】と、この転生体が使用していた【重罪心疲】のみだったが、どちらも違う特殊能力を取り入れた拳法のようだ。
【暴傷外与】は、その名の通り、他者や物を傷つける特殊能力を付加させた能力拳法だ。
指でつつく程度の攻撃でも、抉られたような傷を付けることが出来る、とても攻撃特価に優れた能力拳法だったりする。
そして、これから教わろうという【重罪心疲】は……
「【重罪心疲】は、【聖心】のみが覚えることを許された国家能力拳法だ。疲労効果の特殊能力を付加させた能力拳法で、この攻撃を受け続けた相手は、疲労が蓄積していくのだ」
ということらしい。
ふむ、これは対生物にとっては、かなり強い能力拳法なんじゃないだろうか?
疲労困憊とは、疲れて弱りきることだ……。
生物ならば、弱体化することが可能になる。
「観梨亜、お前は技の精度を磨いていけば、いずれ私以上の使い手になるだろう……。しかし、お前には、まだ奥義を教えていない……。奥義を覚えなくして【重罪心疲】を極めたとは言えないだろう」
ゴクッ
溜まっていた唾を飲み込む。
この親父さんは、この右腕を失い、大量出血した状態で奥義を伝えようとしているのだ。
今は亡き、娘のために……。
「だから、覚えてもらうぞ!【重罪心疲】奥義【覚醒停体】を!!!」




