遅すぎた後悔
「んん……っ?まずいかなぁ?」
どうも、この城の内部に敵である【グランディア】の兵士が入り込んでしまっているようである。
それで、その内の一人である【右狩り】に殺されたと……。
つまり、まだ私の転生先を殺した【右狩り】は、生きているってことだ。
とっとと、トンズラしたほうが良いような気がするけど、この娘の父親がどうも【聖心】のリーダーであるようだ。
んで、国王の間の入口で、国王をお守りしているみたいなのよね~。
「……………………はぁ」
私は、頭を掻くと国王の間のほうへ、走り出したのだった。
何故って?
この娘が、お父さんを守りたいって思って死んでいったからに決まっているでしょ!!
そんなこと微塵も思っていなかったら、とっくに【ウラヌス】へトンズラしているわよ。
「……【歩み】の唯一の欠点でもあるわね」
死んでいった者の最後の感情が、痛いほどに分かるってのは、本当に厄介なものだわ。
「嫌いじゃないけどね」
私は、国王の間に続く通路を駆け出して、入口へ向かう。
すると、その入り口前に右腕を失った初老の男性が、片膝をついて傷口を押さえていたのだった。
「父さん!」
無意識に自分の体が、そう叫んでいて、自分でもすごく驚いた。
私は、男性に駆け寄ると、辺りを警戒しながら、裂いた服で傷口を縛った。
「ぐぅっ……観梨亜か?無事……じゃないな。お前は誰だ?」
私の顔を見て、一瞬安堵した男性だったが、その視線が私の右腕に移動したときに、驚愕の表情を浮かべ、一気に警戒を強めた。
辺りを見ると、私の腕が袖ごと落ちていた。
あぁ、あの付近に私の右腕が落ちてないと思ったら、【右狩り】がこんなところまで持ち去っていたのね。
「ああ、警戒しないで。私は、あんたの娘じゃないけど、敵じゃないから。ギフトって言えばわかるかしら?」
私の言葉に、男性は悲しい顔をしてうなだれた。
「ギフト……様でしたか…………。ということは、私の娘はもう?」
「……亡くなってるよ」
途端に涙をこぼして、号泣し始める男性。
嫌だねぇ……、娘を失った父親の涙ってのは……いつ見ても慣れないわ。
見ている風景が僅かに揺れるのが分かる。
おっとっと、もらい泣きしちゃったよ。
慌てて瞳を袖でこすると、もう一度辺りを警戒し始めた。
何故なら、【右狩り】の姿がどこにも見えないからである。
「あんた、【右狩り】はどうしたの?姿が見えないんだけど?」
「あぁ……、消えましたよ」
「消えた?」
「【強者の神隠し】のようですな……。私も、実際に見るのは初めてですが……」
【強者の神隠し】?初めて聞く言葉だ。
【エンシェントドラゴン】の記憶を呼び起こしてみても、その言葉に関する情報は無かった。
「ねぇ、その【強者の神隠し】ってなんなの?初めて聞くんだけど?」
「……【強者の神隠し】とは、この世界で偶にある怪奇現象のことです。化物並みの強さを持ち、尚且つまだまだ成長する要素を持つ生物が、死ぬ直前に神に隠されたかのように消える現象のことを言います。何故、そういったことが起こるのかは、いまだに解明されていませんがね」
私の頭の中に、アダモゼウスが強者を採取してほくそ笑む姿が浮かんだ……。
嫌な妄想をしてしまった。
私は、慌てて頭を振って妄想を吹き飛ばす。
「じゃあ、あんた【右狩り】を倒したってこと?明らかに、あんたのほうが弱そうなんだけど……」
さっきの話だと、この親父さんが【右狩り】を倒したかのような言い方だった。
観梨亜の記憶から推測する【右狩り】の強さは、……私が知る最強転生先【月詠】以上。
少なくとも、目の前にいるこの親父さんの強さでは、太刀打ちできるような存在ではないはずだ。
「ふふふふ……、何事にもやり方はあるってことですよ。単純な強さが、戦闘の結果に直結することは無いってことです」
何やら自虐気味に笑って、肩を落ち込ませる親父さん。
なるほど、【聖心】リーダーの肩書は伊達ではないってことだね。
「とりあえず、あんたが無事で良かったよ。この娘もあんただけは助けたいって思いながら死んでったから、これでこの娘の気持ちも浮かばれるだろう」
「そう……ですか。観梨亜がそんなことを…………」
親父さんは、更に肩を落とすと、虚空を見つめてポツリと話し始めた。
「ギフトさん、私はね、娘にこの仕事をさせたくはなかったんですよ。……いつ死ぬかも分からない過酷な仕事です。なのに、あの娘は、【重罪心疲】を軽々習得してしまいました。残念ながら、娘には才能があったんですよ。【聖心】になるための才能がね……」
「……そう」
「ですが、私は、それを認めたくなかった。認めてしまえば、リーダーである私自身が、娘を死地へ送らねばいけなくなります。娘が強く活躍するほど、危険な任務を任さねばならなくなるのです。……それ故に、娘ではなく、私の一番信頼していた部下を自分の後釜にするべく鍛えました。しかし、その部下も婚約者を【右狩り】に殺されて、復讐しようと【重罪心疲】以外の力を求めました。【重罪心疲】を極めれば勝てたのにもかかわらず、彼の未熟な【重罪心疲】で婚約者を守れなかった故に、【重罪心疲】を恨み捨てたのです」
「……」
「私は、娘を鍛えるべきだった……。娘を私の後釜として育て上げ、【重罪心疲】を極めさせるべきだった……。そうすれば、また違った未来になったかも……娘は生きていたかもしれない」
「……そうかも、しれないわね」
「ギフトさん……お願いがあります」
長い懺悔にも似た親父さんの話が終わり、親父さんは私をまっすぐ見つめた。
「娘の一日を私にくれませんか?」




