成長を妨げる親
「ギフト様、何処に行こうか?」
小さいビニール袋の中。
私は、水草と一緒にゆらゆら揺られていた。
「ん~、恭太くんの行きたいとこでいいよ。何処か無いの?」
「えーっと、……僕、公園に行きたい」
「よし、じゃあ公園に行こう!連れてって!」
恭太少年と遊ぶ約束をした以上、全力で遊ぼう!
彼の手によって、ちゃぷちゃぷと小気味のいい音を立てながら運ばれていく私。
まぁ、仕方がない。
私はグッピーだから、飛んだり跳ねたり出来ないのだ。
って!……あれ!?
もしかして、公園着いても遊べなくない??
「着いたよ、ギフト様!……あっ」
私が、どうやって遊ぶかを、あたふた考えている間に公園についてしまったようだ。
しかし、恭太くんの様子がどうにもおかしい。
「?」
そこは、すごく小さな公園だった。
あるのは、ブランコ、砂場、滑り台、ジャングルジムだけ。
その砂場では女の子たちが、滑り台では男の子たちがそれぞれ遊んでいた。
その中の男の子たちが、恭太くんを見つけて、にやにやしながら近寄ってきたのだ。
「あっ……ぁぁ」
恭太くんの顔が暗くなる。
あー、もしかして……お姉さん気づいちゃったぞ!
「よぅ、恭太!今日は、お勉強はいいのかよ!」
男たちの中から一際大柄な男の子が、恭太くんに向かって凄んできた。
恭太くんは俯いたまま、カタカタと体を震わせた。
はい!これ決定!!こいつ、いじめっ子だー!!
「確保ー!確保ー!!」
私は、ヒレから更に4本【魂糸】を出して、大柄な男の子とその取り巻きっぽい子達にぶっ刺した。
!?
男の子たちは、驚愕な表情を浮かべた後、無表情になって、ぼーっと虚空を見つめ始めた。
さて、外の世界では、すっかり大人しくなった男の子たちだったけど、こっちでは大騒ぎだ。
「なっ、なにがどうなっているんですか!?」
「くそー!うごけねぇ!なんだよ、これ!!」
「ママー!ママー!!」
「わー、金縛りってやつかな?すご~い!」
……若干一名おかしいのがいるが、みんな慌てているようだ。
「オホン!あー、テステス!聞こえるかね?少年諸君!」
ぴくっ
私の言葉に、全員の体が一瞬強張ったように動く。
「ふむ、聞こえているようだね。さて、君たち、恭太くんとはどんな関係なのかな?」
「なんだ、てめぇ!だれだよ!!」
「ふぉっふぉっふぉ、元気がいいのぉ~。私は、神様の使いじゃよ。素直じゃない悪い子にお仕置きしに現れたんじゃよ」
胡散臭い老人風に子供たちに話しかけてみる。
それだけで、3人の子供たちが怯え始めたのが伝わってきた。
ん?一人歓喜してるけど無視無視!
「わっ、悪い事なんてしてないです!」
「うん、ひっく……。ぼくたち何も……」
「だまらっしゃい!!!!」
私の大声に、後ろめたい気持ちが乗っていた声が黙った。
ふっふっふ、この【魂糸】を通しての会話では、嘘はつけないのだ。
何故なら、声に感情が乗っかって伝わってくるからね!
「君たち、この恭太くんを、虐めて楽しんでるだろ?嘘をつく子は、悪い子だよ?」
「……」
「……」
私の言葉に取り巻きの二人が黙る。
「……あいつが、あいつが、遊びに来ないんだもん」
だが、さきほどのリーダー格の大柄の少年だけが、私に話しかけてきた。
「おれは、バカだから、勉強のできるあいつがすごくて。だから、友だちになりたくて。でも、あいつ塾ばっかりで、なんど誘ってもいやだってゆうし……」
次第に声が震え始めて、しゃくりあげるようになる。
「だから、ついいじわるしちゃったけど……こうしないと、あいつ。話してもくれないし……」
無表情な大柄の少年の体から、ポロポロと大粒の涙が溢れだす。
ふむ……、そういえば恭太くんから、なんで虐められるのかを聞いてなかったな。
「恭太くん。きみは、この子達とどうして遊ばなかったんだい?」
【魂糸】を通して、恭太くんと会話を始める。
【魂糸】5本出しつつ会話をする。
……意外と、しんどい。
「えっ、だって、この子達、馬鹿なんだもん」
「っ!?」
「パパとママが言ってたんだ。自分よりテストの点数が悪い子と遊んじゃダメだって、話をしちゃだめなんだって!だから、遊ばなかった」
「……」
はぁ……、親の教育で子供の成長妨げてどうするよ……。
親ってのは、子供の成長を促さなきゃ意味ないってーの!
「あー……、恭太くん。きみ自身は、この子達と遊びたくなかったのかな?」
私の質問に、彼は少々目を伏せた。
「あそびたかったけど、パパとママが……ダメって……」
よし、決めた!私、この子達を友達にする!
教育パパママの偏った方針なんて知ったこっちゃない!
「……恭太くん。これは、貴方の友人としての言葉。この子達はね、きみと遊びたかったの。でも、きみはこの子達を無視して虐めた。」
「えっ!?ぼく、虐めてなんかないよ!」
「相手が話しかけてきてるのに、無視するのは虐めだよ。何のために言葉があるんだい?相手との意思の疎通を図るためなんだよ。会話は、本当に大切なコミュニケーションのひとつなんだよ」
「……」
「難しい言葉がいっぱいありすぎて、意味が分からないかもしれない。でもね、いつか意味を理解してほしいな。そして、今日は、この子達と遊んでほしい」
「……天使様が、そういうなら……分かったよ」
私は、みんなに刺していた【魂糸】を引き抜く。
恭太君以外の子たちは、いきなり自由になった体に慌てて、どこかおかしいところはないかを確認しているようだった。
そんな、彼らに一歩、恭太君が歩み寄る。
「……無視しちゃってごめんね。僕も、遊んでいいかな?」
恭太くんの言葉を聞いた途端、大柄な男の子がボロボロ泣き始めた。
「俺も、俺もぉ……ひっくひぃっく、ごめんな~!!!遊ぼう!あそぼ!!」
握手を交わした後の二人は早かった。
泥まみれになって遊んで、夕暮れにはすっかり友達同士になっていた。
取り巻きの3人とも、初めのぎこちなさが無くなって、仲良くなったようだ。
「じゃあな~、恭太!また、明日遊ぼうぜ!!」
「うん、またね、公平くん!!」
カラスが鳴く夕暮れ、恭太くんの友達となった4人が公園から家へ帰っていった。
「……楽しかった、恭太くん?」
「うん、めちゃくちゃ楽しかったよ!!」
私の言葉に、最高の笑顔で応えてくれる恭太くん。
いや~、さっすが子供!仲良くなるのが早いわ。
それにしても、良かった。
恭太くんに友達が出来た。
それは、私にとって最高に喜ばしいことだった。
だけど、問題もある……。
それは、恭太くんの親について……。
一晩限りの話し合いで解決できる問題じゃない。
最悪、せっかくできた友達を別れさせるかもしれない……。
「はぁ……、随分とまぁ……頭を抱えているようでしゅね」
夕暮れの公園で、砂場にいた女の子集団から分かれた女の子の一人が、私に話しかけてきた。
その話し方には、聞き覚えがあった。




