助けるといったな?あれは、ウソだ
「……あなたは何者?」
私は、ぎょっとして、喉を抑えた。
先ほどまで、息をするのも辛かったのに、呼吸どころか言葉まで出せるようになっていた。
「ああ、わたちは、あなたを助けるものでしゅ」
たどだどしい舌ったらずな話し方で、幼女は私に言葉を続けた。
「あのババアに見つかると厄介だから、手短に話をするでしゅ、準備はいいでしゅか?」
私が戸惑って、目を白黒させていると、幼女は構わずに要件を話し出した。
「あのババアは、早く知識だけを回収したいがために、わざわざ自己回復や修復機能をあなたに付加しなかったんでしゅ。その方が、転生の回転率がいいでしゅからね~。あなたの精神面への負担度外視の鬼畜仕様でしゅ」
この幼女が言うババアとは、おそらくアダモゼウスのことだろう。
ということは、この幼女も神様の関係者なのかな?
まぁ、空間裂いて来たんだから、普通の人じゃないとは思っていたんだけどさー。
「実に稚拙な転生術でしゅよ。一番近くの死にかけの生物にランダムで移動するといったものでしゅ。よく、これで魂を修行なんて言ったものでしゅよ。今の時代でしゅと、平和すぎて魂の修行になんて全然ならないのでしゅに……」
「なんか、色々詳しいっすねー。で、あんたは何者なんすか?」
なんか、色々とこちらの事情に詳しい様子。
私が警戒したところで、どうにかなる相手じゃないと判断しましたよ、ええ。
じゃー、もういいじゃん。
わざわざ改まった話し方なんかしなくても。
幼女なんかに敬語使えるかってーの!
「ンフフ、卵ちゃん。今、幼女なんかに敬語なんか使えるかって思ったでしゅね?いい度胸でしゅ」
幼女が、思わず抱っこしたくなるような可愛らしい笑顔で、私に向かって笑いかける。
……なんで笑顔で笑いかけられているのに、私の背筋に寒気が走るのだろうか。
「ごめんなさい、反省してます」
「ふむ、人間、嘘をつかないのが一番でしゅよ。……私の名前は、巣作庭鳥といいましゅ。魔女をやってましゅ」
「ははぁ、魔女さんですか……。どおりで……」
ばーさんの知識から得た、この【木草界】の常識にその名があった。
【魔女】とは、木草界に存在する様々な国の一つを管理する、国の頂点に立つ存在である。
表立って政治に介入したり、女王として君臨したりする魔女もいれば、重大事件が起こった時以外、国には無関心な魔女もいるみたいだ。
ただ、全ての魔女に共通するのが、見た目が幼い女の子ということと、不思議な術を使える絶対的強者だということ。
「おいっ!ピヨコ!早くしないと感づかれるぞ!もうすぐ、時が動き出しちまう!」
先ほどの空間の裂け目から、キツネのお面をかぶった男性が顔を覗かせた。
ああ、色が反転したこの状態って、時が止まってらっしゃったんですね……。
駄目だ!
まだ私の知識では、彼らが何をやっているのかチンプンカンプンだ!
理解不能、理解不能、理解不能、理解不能。
「やれやれ、忙しないでしゅね……。分かったでしゅ。すぐ終わらせましゅよ、リュンクスちゃん」
そう言うと、庭鳥さんは、ものすごいスピードで私の額に人差し指を突き立てた。
指が第一関節ほど、頭にめり込む。
「ギャー!!痛い!!痛い!!!」
「我慢するでしゅ。今、卵ちゃんに掛けられている転生術を改良しておりましゅ。これが、完了すれば、もっと広い世界へ旅立てるはずでしゅ」
私の魂に強制的に何かを注ぎ込まれていくのを感じる。
しかし、私は額に感じる痛みの方が辛く、余計なことを考える余裕もなかった。
「転生術に時間跳躍を加えましゅた。これで、時空を超えて木草界に存在しゅる全ての生命に転生できるようになりましゅた。あと、これはサービスでしゅ」
そう言って、額に食い込ませた指を奥へ進め、脳へ突き立てた。
私は、一気に痛みから解放され、意識が遠のく。
「次の転生先は、特別に私が指定させていただきましゅた。……そこでの知識は、この先の転生生活で非常に重要になりましゅ。絶対に、歩みを視ておくんでしゅよ?」
庭鳥さんが、額から指を引き抜くと同時に、私の意識は闇へ消えた。
あの人、本当に私の助けになったんだろうか?
<今回の転生先で得たもの>
・株の儲け方
・木草界に暮らす人の一般知識
・木草界の国【ズラーヌ】の言語
・転生術に時間跳躍が付加
<巣作庭鳥さんイメージ>