見覚えのある場所
「まぁ、これが【転送】よ。一回、体験してみると理解しやすいでしょ?」
非常に印象に残っている黒い砂漠だけの元王国。
そこに、私とばーさんの二人が立っていた。
「相手や物を送る場合には、【魂糸】で覆って【透化】を施してからの発動するのかぁ……。思ってたより、高難易度の魔法なのね」
私の【転移】が成功した後、ばーさんの【転送】によって、ここに連れてこられていた。
ここの終焉は、私も見たから知っている。
女王の国【ズラーヌ】。
その跡地である。
「ここから【ウラヌス】までは、国を一つ挟んでいるほどの距離がある。ただ、霊界移動の【転送】なら一瞬で移動可能なわけだ」
霊界移動ねぇ……。
木草界とは、木草樹という巨木の根の上で世界が成り立っている。
木草樹には、この世界全ての生物の輪廻転生を行う機能が備わっていて、死んだ生物の魂は木草樹の根によって吸収される。
そして、水を吸い上げるごとく、魂は吸い上げられて濾過される。
濾過された魂は、記憶や力の全てを失い、木草樹の蕾に集められる。
蕾にある程度の魂が貯まると花が開花して、まるで花粉のように浄化された魂が色んな母親のお腹の中へ吹き込まれるという……。
ご神木として世界中から崇められている霊木の体の中は、異次元空間だった。
時間や距離などの概念が存在しない世界。
そう、まるで木草界とは別の世界だった。
出入りできる存在は、魂のみ。
故に、【転送】で移動する場合には、【透化】で魂と同じ存在へ肉体を変質させる必要がある。
そして、【透化】の状態で体の力を全て抜くと、魂と勘違いした木草樹に吸収される。
木草樹の体の中は、青と黒の光と闇が入りじまった不思議な空間だった。
そこで自分が木草樹の外で残した【魂の残骸】を感じて、その場所まで移動した後、【透化】を解除すると、木草樹が異物と判断して木草樹の外へ放り出される。
これが、【転送】の原理だ。
「世界中に根を下ろす木草樹だからこそ出来る移動方法よねぇ……」
木草樹の中では、外の世界のことがほとんど認識できなかった。
唯一認識できるのが、それぞれの魂のみ。
そこで、自分の魂の残り香ともいうべき残骸を認識して、それを目印に移動する。
この移動と言うのもおかしな話で、距離の無い世界なのだから、魂の残骸を感じるだけでその場所に到達できるのだ。
【転送】によって移動する場合、不慣れなものがやっても10分ほどで世界中マーキングしたところだったら、どこにでも行けるだろう。
……ん?マーキング?
「ねぇ、未来の私。ちょっと聞きたいんだけど?」
「何よ?」
「ここに【転送】してきたってことは、あんたここにマーキングしてたの?」
「私じゃない。もっともっと過去の私がだよ」
そう言って、BBAはにやっとこちらに笑いかける。
……ああ、そういう事か。
理解した。
「……ここにマーキングしたのは、月詠に転生したときの私ってことね?」
「ご名答!【自己強化再生】で、暴れまくったろう?その時に、あちこちに残骸が散らばっているのよ。そして、もう気が付いたでしょ?この【転送】が、私たちにとってどんなに万能な移動方法なのかを」
口元が思わずにやけてしまう。
やばい!この魔法、超絶便利魔法だ。
「どんな転生体であっても、魂の残骸を残すのは卵である私。つまり、過去で残骸を残しておけば、この世界で行けない場所は無くなる」
その言葉に、ばーさんはとびっきりの笑顔で頷いたのだった。




