現れた幼女
うっすらと目を開ける。
……良かった、今度はちゃんと人間へ転生したようだ。
何故か、反応の鈍い体を無理に動かして今の状態を確認する。
すると、どうやら私は病室のベッドの上で寝ているようだった。
機械や器具が周りに設置されていて、そこから伸びた様々な管が私の体と繋がっている。
「コヒューゥ、コヒッ……」
言葉を出そうと喉に力を入れたが、息が口から吐き出されるだけだった。
もう言葉も話せないほど弱っちゃっているのかな?
私は、自分の両手を目の前に持ってくる。
その両手は、骨と皮しかなくしわくちゃだった。
それで、私は確信した。
どうやら、今回の転生先は老衰した女性のようだ。
前回は蟷螂に転生して、あっという間に死んでしまったけど、今回はゆっくりと考えることが出来る所へと転生してきたようだ……。
それにしても……と部屋を見渡す。
死にかけの老人一人にしては、豪華すぎる病院の一人部屋だった。
身の回りに人の姿は無く、部屋には花もお見舞いの品も無い。
ろくに体も動かせないくらいのお婆ちゃんだし、家族の人がいてもおかしくないと思うんだけどなー?
豪華な部屋のわりに、随分と寂しい印象を受ける。
……ふむ、とりあえずこの人の【歩み】を視てみようかな?
私は、頭に意識を向けて集中した。
・幼稚園、小学校、中学校、高校と、特に問題のない人生を送る。
・大学時代に両親を事故で無くして、遺産を手に入れる。
・両親の遺産で、株に手を出して大成功する。
・一生を遊んで暮らせるお金を手に入れる。
・仕事をせずに、大好きなオンラインゲームをして過ごす。
・結婚はしておらず、気が付いたらお婆ちゃんになってしまっていた。
・使い切れないほどの財産で、病院の一番良い部屋で最後の時を過ごしていた。
……なるほどね。
私は、この人の【歩み】から株の知識と儲け方を覚えた。
……それにしても、この人は幸せな一生を送ってるなぁ~。
好きな事だけをやって死んでいけるのは、とても幸せなことだと思う。
……って、現状で一番考えないといけないのは、そこじゃ無い!!
蟷螂の狩りの仕方と株の儲け方と言う2つの知識を手に入れた。
それは別に良いのだが、それだけしか手に入れていないのだ……。
ぶっちゃけると、たった2回の転生で、もう先行きが不安になってしまった。
不安になるとあれこれ考えてしまい、余計な事にも気が付いてしまうもので、今ものすごく需要な事に気が付いてしまった……。
私は、亡くなったばかりの新鮮な遺体に転生する仕様らしい……。
遺体って事は、肉体が既に限界を超えた状態ってな訳よね?
このお婆ちゃん身体は、息をするのも、体を動かすのもしんどい状態である。
前回の蟷螂の時は即死だったから気が付かなかったけど、お腹の中にハリガネムシを3匹も飼っていれば、衰弱が半端なかったのが容易に想像できた。
前回も今回も、五体満足だったから良かったものの、捕食されている最中や、交通事故にあって肉体の損傷が激しい状態ならば、あっという間に死んでしまい即転生なんてことになるのではないだろうか?
ゾクリ……。
想像しただけで寒気がした。
そんなの嫌だぞ……!
今のお婆ちゃんの身体でも苦しいんだ!
ハリガネムシがお尻を突き破った時なんて、激痛のあまりに意識が飛んだんだ!!
これ以上、死ぬほどの痛みや苦しみを感じるのは嫌だーーーー!!!
この状況に私が絶望していると、突然世界が反転した。
世界の全ての色が反転し、私以外の色が真逆に染まる。
全ての音が消えて、計器や点滴などが動きを止めた。
「やぁ、絶望してるでしゅか?」
そう私に語りかけてきたのは、幼稚園児くらいの見た目の可愛らしい少女だった。
しかし、私にはその少女がとても怖い存在にしか見えなかった。
だって彼女は、病室の隅の空間を引き裂いて現れたのだから……。
今回、長くなりそうなので、分割いたします。
続きは、18時を超えてしまいますが本日中に仕上げます。
大変、申し訳ございません。