木草界最強の武術【能力拳法】
意識を集中してひたすら突く。
ただただ突く。
ZEROの頭の中は、それのみを考えていた。
どうすれば、より破壊効果を得られるのか?
どうすれば、より砕くことが出来るのか?
破壊を求めて手が勝手に動いた。
より効果を引き出せるように打ち込みの瞬間に捻りを加えてみた。
より砕けるようにインパクトの瞬間に拳を震わせてみた。
ZEROが放つ技が秒単位で成長を続けていた。
ZEROの攻撃は、徐々に破壊効果を纏っていき、能力拳法【爆砕壊破】の入口までようやく辿り着いた。
その時、大総統が動いたのだ!
防御を捨てて、ZEROへ手を伸ばした。
先ほどの傷の具合と超越中の治癒速度の速さから、ZEROの攻撃を食らっても大事には至らないと判断し、ダメージ覚悟でZEROへ特攻してきたのだ。
さすがのZEROでも【呪い】で、拳法と魔法を封じられたら手の出しようがなくなる。
本当に無力な少女へとなり下がってしまう。
この突然の特攻に、先ほどまでのZEROならば驚いて動きが一瞬止まってしまっただろう。
そして、またしてもその隙をつかれてしまっていたに違いない。
しかし、今のZEROはまるで壊れたおもちゃのように決めた事を繰り返す人形のような状態だ。
驚きも戸惑いも見せることは無かった。
無心にただ突く。
防御を捨てて、攻撃に徹してきた青年へと拳を突き出す。
少女と青年の差だ。
当然、先に大総統の長い腕がZEROの体内へと突き刺さった。
びくんと一瞬だけ、ZEROの体が震えた。
この瞬間、ZEROの魔法と拳法が封じられてしまった。
しかし、ZEROの掌底がそれを封じられる少し前に大総統の胸へと届いていた。
……先に血を吐いたのは、ZEROだった。
そのまま、ZEROは前のめりに倒れ込んだ。
少しの受け身も取らず、地面へ落ちる。
血を限界まで吸った服がべちゃりと嫌な音を立てた。
少し間が空いてから、血だまりが彼女の腹部を中心に広がり始めた。
「……カカカ、あーっはっはっは!!余の勝ちだな!!」
右拳を高らかに上げて、大総統はそう宣言した。
それが、彼の最後の言葉となった。
元々、【能力拳法】とは、マールドを中心に広まった拳法である。
その拳法とは、特殊能力を付加させた拳法であると言われているが、詳しくは違う。
特殊能力とは、言ってしまえば限定した超常現象を起こすことの出来る力だ。
例えば、火を起こせる特殊能力を持った人がいたとしよう。
火を起こすと一言で言っても、マッチ、ライター、コンロ、火打石、摩擦熱、バーナー、虫メガネ、ペットボトル等々、特殊能力以外で色々な火を起こす方法がある。
特殊能力も火を起こす一つの方法に過ぎないのならば、拳法の動きや攻撃手段、速度や位置、タイミングや衝撃等を色々変化させて組み合わせることによって、同じ結果を起こす事は出来ないのだろうか?
結論から言うならば、それは可能だったのだ。
繰り出し方を変えることで、火力を上げる事にも成功し、特殊能力を持たない者でも、その【能力拳法】を覚える事で、その特殊能力の効果を持った拳法ならば扱えるようになったのだ。
全ての【能力拳法】の開祖は、その開発した【能力拳法】と同じ特殊能力を持つ者だった。
自身が特殊能力でその力を自在に扱えたからこそ、拳法に取り入れ、効果を出すようにできたのだ。
そして、この【能力拳法】には恐ろしい所があった。
それは、【能力拳法】を使用する者同士でないと、【能力拳法】を防げないという事だ。
【能力拳法】は、その特性故に、完璧に入らないと効果を発揮しない。
少しでもタイミングが外れたり、場所が1ミリでもズレたりしただけで、能力効果は発動しなく、ただの拳法になり下がってしまうからだ。
しかし、達人ともなれば、防御されることも計算して攻撃を繰り出す。
また、直前に防御部分への攻撃へと攻撃場所を変更したりもする。
そうなれば、素人では防げない。
文字通り、防御をした部分へと能力効果が発動するからだ。
それ故に、【能力拳法】使いが覚えるのは、完全無敵の防御の型が最初となる。
全ての【能力拳法】自体を防ぐことの出来る能力効果のある防御の型を……。
それは、【能力拳法】使いの間では常識であった。
生身の人間が【能力拳法】を防ぐことが出来ない事は、マールドの人間ならば子供でも知っていた。
……しかし、それはあくまで遙か未来の常識である。
今、産声を上げたばかりで、【能力拳法】として一番初めに完成した【爆砕壊破】を防ぐ術を知る者など、未来から来た2人しか知らないだろう。
使用しているZEROでさえ、自分が使用している拳法の名前も、それを防ぐ術も知らないのだから、仕方がないのだ。
大総統が無防備で、完璧に放たれた【爆砕壊破】の奥義を食らったとしても、それは仕方のない事なのだ。
今から何十年後かに、この拳法と奥義に名前が付けられる。
【爆砕壊破】の奥義は、対象をまるでガラスのように粉々に粉砕爆発させる技だ。
その奥義は、後に【爆】と名付けられるようになる。
パッッキーン!!
右手を高く掲げた状態の大総統の全てが粉々に吹っ飛んだ。
そして、そこに残されたのは一匹の蜘蛛だけだった。
「やれやれ……、新たな宿主候補も死ぬとは不幸な……」
蜘蛛は、ZEROを一瞥して飛び去って行った。
きっと、新たな宿主を探しに飛んで行ったのだろう。
どんな傷も瞬時に治せる超越状態だが、例外があったのだ。
それは、卵の【自己強化再生】と同じで、HPが一気に0になるような攻撃には対処できないという事だ。
血濡れのZEROが横たわる中、遂に大総統との決着が着いたのだった!!




