壊破
全てのMPを魔法に注ぎ込み肉体強化に努めた。
特殊能力で上げていた肉体強化のバックアップをする為だ。
MPの消費が激しいが、特殊能力で上げていた分の強化はこれで何とかなりそうだった。
続いて、痛みを伝えてくる脳からの信号をカットする。
目の前の敵を倒すこと以外の余計な思考を削除。
思い浮かべるのは、私が何度も何度も練習を重ねてきた私自身が編み出した拳法。
基礎となる部分は先生から教わったけど、改良に改良を重ねて、もうこれは私独自の新たな拳法へと進化させていた。
いつものように拳法の構えを取る。
「……」
傷と出血のせいで沢山の情報を得ることが出来ない。
だから、ぼやける視界から余分な情報を消し去った。
ただ相手の青年が見えればそれでいい。
思考は、相手を殺す事だけを考えた。
目は、対戦相手だけ見る事だけに焦点を合わせた。
あとは、体が覚えていた。
シュ!
【風受の靴】で一気に間合いを詰めて、掌底を当てた。
不意の一撃に相手は思いっきり吹き飛ばされたが、壊れてはいなかった。
これじゃ駄目なのか……。
情報に加える。
何度も拳を掌を脚を相手に仕掛ける。
相手がそれを防御したり、躱したり、食らったりするたびに情報に加える。
戦いの中で、私の拳法が成長していくのを実感していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……、なんなのだ、この小娘は!!」
いきなり無言になったかと思ったら、連撃の繰り返しだった。
特殊能力を封じてやったので、技の威力が落ちるかと思えばそういった事も無かった。
『恐らく、あの娘の靴も界宝なのだろう……。先ほどから、攻撃も回避も不可能な状態なのに、それを可能にしてきている。移動系の界宝とみて間違いないだろう……』
頭の中に蜘蛛の言葉が響いてきた。
思えば、こいつとの生活も長いものだ。
余とこの超越蜘蛛との付き合いは、もう1000年ほどになる。
お互いに利害関係が一致し、余はある程度の人間を狩る代わりに蜘蛛から力を得ていた。
他の蟲達に余の親友を紹介したのだが、どうにも【アダモゼウス】と蟲達は折り合いが悪く、【アダモゼウス】が関係した人物には、宿ることが出来ないようだった。
よって超越できるのは、余だけとなった。
余は、今までに他の超越者の姿を見たことが何度かあった。
皆が無駄な人殺しを嫌がった挙句、蟲に……いや、あれは蟲の主人とも呼べる者か?
ともかく、そいつに意識を乗っ取られ、やりたくもない殺しをさせられていた。
どうやら、一般人というのは、人を殺すことに抵抗があるらしい……。
先ほど、魔女が「意識を乗っ取られていないの?」と不思議がっていたが、意識を乗っ取らなくとも進んで人殺しが出来る者の意識を乗っ取る必要が何処にあるというのだ?
余は、一般人の枠組みから既に外れた意識感覚を所有していた。
余と蜘蛛は、お互いの利害が一致した協力関係にあるのだ。
だからこそ、この状況でも色々なアドバイスや情報をくれた。
「それよりも、この小娘の状態はなんだ?まるで、意思の無い人形のようにただ攻撃を繰り返している。しかも、その攻撃が鋭さを増しているような気がする……」
『一種のトランス状態といえばいいだろうか?恐らくでしかないが、お前を倒す事以外考えていない状態を意図的に作りだし維持しているんじゃないか?……それよりも、倒すのならば早く倒してしまえ。さすがに、長く変わりすぎだ』
「簡単に言ってくれる!」
どんどん鋭さを増す攻撃が、ほぼ休みなしで放たれる。
腹から滴る血のせいで血だまりが出来るほど、ZEROは激しく動き続けていた。
このまま持久戦に持ち込めば、勝手に相手が自滅するとも考えたが、そうも言ってられない。
余は、もう結構な時間超越し続けていた。
この超越という行為、凄まじい力が手に入る分、肉体への負担が限りなく高いのだ。
塵芥の雑魚共を相手にする分には問題ないが、こういった手練れとの戦闘となると消費が激しい。
加えて、界宝【蜘蛛の手】の使用、前日の激しい【祝呪】の使用と、余の体力はとっくに限界を超えていた。
それでも生きられているのは、蜘蛛が力を分け与えてくれているからだ。
だが、その蜘蛛からも早く終わらせろと催促が来た。
蜘蛛自身にも残っている力に余裕がなくなってきたのだろう。
超越すると、凄まじい力と共に手に入るのが超再生能力である。
先ほどZEROの謎の攻撃を受けて破損した指も、既に完治していた。
あの破損を瞬時に治せるのならば、傷つくのを覚悟で突っ込み【祝呪】を打ち込む!
今度は、その良く分からない特殊能力とは違う力と、その拳法を呪う!
そう決めた!
余は、思いっきり息を吸い込むと、ZEROに突っ込んでいったのだった。




