立ち塞がる者
頼もしい仲間の協力を得て、私は彼の前に立つことが出来た。
立つと同時に、特殊能力【自己強化再生】を発動した。
瞬時に傷が治っていく。
これで、肉体のダメージは消えた。
ただし、あくまでも肉体のダメージだけだ。
消費したMPやHPが回復するわけでは無い。
疲労は蓄積しているし、風邪をひいた時のように頭がぼーっとする。
それでも、気合を入れて彼の前に立った。
「……この帝国が出来て1230年。余の前に立ちはだかった者は、誰一人としていなかった。貴様の名を聞いておこう」
「ZERO……。あんた達が造った国に兄を殺された不幸な少女の末路と言ったところかしら?あんた達の理想の国を壊しに来た悪い悪い魔女よ!」
「フッ、面白いなZEROよ。貴様は、余の帝国が気に入らないと?それは、何故だ?」
「何故?」
「それを言ってくれれば、余は素直にその悪い部分を直そう。理想の国に近づけよう。それでは、不満なのか?」
「……」
大総統の言葉に息を呑んだ。
何も改心しようとした大総統に驚いたわけでは無い。
只々、呆れてしまっただけだ。
この国の何処が気に入らないのか分からない事に!!
そして、彼の部下に酷い目に遭わされた神楽坂姉妹に対して謝罪がないことに!!
私は、内心ぐつぐつと怒りを溜めていたが、努めて冷静に話す。
「悪い所はありすぎて、すぐには言葉に出来ないわ。それに、こんな状況の国を1230年も放っておいたのが私には信じられない!あんた達の都合で、どれだけの弱い人を不幸にしてきたのよ!」
「弱ければ、強くなろうと努力すればいいではないか!それに我が国民を皆殺しにしておいて、よくも不幸にしてきたなどと言えたものだ!余の民たちは、皆が強きものだった!貴様たちが救いたい弱き者たちなど、強くなる努力を怠った怠け者でしかないわ!!そんな奴らは、不幸になっても仕方がないだろう?」
「みんながみんな、強くなれるとは限らないわ……。どんなに努力しても届かない者もいる。普通でいいのよ、強いとか弱いとか、そんなんじゃなくて……。人はそれぞれ個性があって、色んな人生を楽しむことが出来ると思っているわ……。弱い人がいれば、助け合っていくべきだと思うし、弱いからといって強い人に暴力を振るわれても良いなんてことは無い。私の理想は、どんな人でも笑って日々を生きていける国。そこに、暴力や侵略なんていらない。ただ、誰からも侵害されずに生きていけさえすればいいの」
「どんな人でも笑ってというのは、無理があろう?先ほど、貴様が努力しても届かない者もいると言ったばかりではないか?」
「たまには泣いても良いと思う。怒っても、妬んでも、恨んでも……。ただ、生きることを楽しんでほしい。決して必死にならず、生きることが辛く苦しいものにならなければ、それがいい。人は、1人で生きていくものではなく、支え合って生きていくものなのだから……」
「ふむ……。貴様の話の理想は低いな……。余は、もっと個としての高みを目指した。そして、それを民にも強制した。それに弾かれた者を、修正してきたのだ!」
「それが、あんたの命令に『はい!』としか答えられないこの国の国民ってわけでしょ?そんなの人間じゃないじゃない!自分の意思を持たない者は、生物ですらない。そこらの石と変わらないわ!!」
「ふむ、石と変わらないから殺しても良いと?随分と傲慢だな、魔女とやらは……」
「うるさい!!」
私は大きな声を上げて、彼の話を遮ると構えを取った。
「お互いの理想が食い違ってるんだから、どちらも譲れなきゃ戦争になるしかないでしょ!!今まで、色んな命を奪ってきておいて、綺麗ごとをぬかすんじゃない!!」
「くっくっく、失敬。確かに、それに関しては余が悪かった」
大総統は、影も構えていた武術のような構えをした。
「余は、強き者を助ける考え方。貴様は、弱き者を助ける考え方。根本的に違うのだな?」
「いいえ、正しく言うならば、私はその考え方ではないわ……」
じりじりと私と大総統の間合いが縮まっていく。
「私の考え方は、弱き者も助ける考え方よ!強き者を見捨てるような真似はしないわ!」
「ふふ、それは困ったなぁ……」
「?」
「余は、弱き者も助ける考え方が出来ぬ!よってたかって父と母を殺した民衆共を助けるなんて愚かな考え方は浮かばぬ!!」
「……じゃあ、ぶつかり合うしかないわね?」
「違いない」
お互いの目を見つめ合ったまま、数秒の時が流れた。
先に動いたのは、大総統だった。




