全滅
範囲を固定する。
手を閉じる。
10分待つ。
その行為を2回やった。
隠れ家の上で、詩は苦しみもがきながら死んでいく人々の姿を見ていた。
ZEROが開発した特殊能力【真空領域】は、固定した範囲内の空気をだけを消し去る力だ。
生物が生きるために必要な酸素という物を消失させる。
当然、10分もすれば、生物は全て死に絶える。
既に帝国【アダモグラン】の4分の3の生物が亡くなっていた。
その光景に、ZEROも詩も黙る。
詩から、その出来事を聞かされた神楽坂姉妹も黙ったままだった。
誰一人、初めからこれをやっていればと思う者はいない。
……これまでの作戦を考えたのは、卵である。
もしも卵がこの作戦を考えて、南から少しずつ全滅にしていったら、確かに皆がほぼ無傷で決着がついただろう。
しかし、そうなれば、そこには守りたかった人も理想の世界さえも無くなってしまう。
神楽坂姉妹は、幼い頃にゴミ捨て場で暮らしていた。
そこには嫌な人もいたが、自分たちを最後まで助けてくれた人もいたのだ。
だから彼女達は、【サナルアダモ】を帝都で暴れるのみに留めた。
もしも参謀長や総統がゴミ捨て場にいたら、彼女達は決して帝都のように暴れ回らなかっただろう。
そしてそれは、ZEROにも言える事だ。
彼女にも、幼い頃に兄以外で世話になった人が山ほどいた。
そして、その人達の子孫と呼べる者たちが【サナルアダモ】に多く暮らしているのを知っている。
ZEROも神楽坂姉妹も、人間なのだ。
恩は忘れないし、返したい気持ちも持っている。
遙か昔に彼女達へ優しくした人がいた。
そのおかげで、連合帝国【アダモグランディス】は全滅を免れたのだ。
大総統ならば無能と割り切ったであろう者たちのおかげで……。
だからこそ、手遅れになってしまった人々に容赦がない死が襲い掛かっていた。
言っても聞かない。
言っても分からない。
自分たちが特別だと信じて疑わない、哀れにも洗脳されてしまった有能な人々。
ZEROが、手を閉じて10分待った。
そして、手を開けると、一部の場所以外の生物は全て死に絶えてしまった。
たったの40分で、【アダモグラン】の全国民は全滅してしまったのだった。
「ふぅ……」
くらりと立ちくらみがしたが、踏みとどまった。
さすがに国中の生物を全滅させるほどの特殊能力を酷使してきたのだ。
結構な力を消耗してしまっていた。
手をグーパーにして、体の調子を確認する。
「……ふむ、60%ってところかな?」
詩ちゃんと同程度の体力なら何とかなるだろう。
私は、先ほどの能力使用時に弾かれた場所を【千里眼】で確認する。
するとそこには、古臭い城があったのだった。
「あれか……」
私は、【転移】で城の前に移動すると、指をクイックイッと動かした。
その直後に、口に刀を銜えた詩ちゃんが、一葉と双葉を両脇に抱えたまま姿を現した。
「師匠!」
「ご無事でしたか!」
「ええ、いよいよボスのお出ましみたいよ……」
詩ちゃんが、私の顔色を見て眉をハの字にしたのが見えた。
私は、アイコンタクトであなたも同じようなものでしょと返す。
お互いに軽く微笑を浮かべたところで、城の扉が音を立てて開かれた。
瞬時に、戦闘態勢に入る。
しかし、中から現れたのは、疲労が溜まり疲れ切った青年だった。
私と詩ちゃんは、その青年の顔を知っていた。
「ふむ、貴様らが魔女か?……ようこそ、余の城へとでも言えばいいのかな?」
「貴方が、この【アダモグラン】の総統にして、連合帝国【アダモグランディス】の大総統の【芭蕉 実】に間違いないわね?」
青年は少しかったるそうに笑うと、優雅に会釈してみせた。
「いかにも」
「随分お疲れの御様子ですけど、何かありましたか?まさか、いきなり土地にかかっていた呪いを解除するなんて思いませんでしたよ。おかげで、罠かと疑ってしまいました」
「お疲れなのは、お互い様ではないのか?ふ、罠と疑って少しでも攻め込むのに躊躇したのならば、解除した甲斐があるというものだ。その分、休ませてもらったからなぁ……」
私は、大総統を観察した。
いくら強くてもこんなに消耗しきっているのは明らかにおかしいと感じたからだ。
私達の前に姿を現したという事は、こんな状態でも勝算があるという事。
決して油断してはならない!
私は、弟子と詩ちゃんを下がらせて前に立った。
右手に【最強矛】、左手に【最強盾】を展開して、相手の出方を待った。
「……ふふふ、随分慎重じゃないか魔女よ?とても、余の国民を殺しつくしてきたとは思えないぞ?」
「あ?」
「昨日の晩に、少し余の体力を削る出来事があって、その回復の為に国民を捨て駒にしたのだが……、まさかここまで役に立つことなく殺されるとは驚きだった。いや、そちの体力を大幅に削ったと褒めてやるべきか?」
ベラベラとおしゃべりが好きな大総統様ですこと!
いい加減うっとおしくなってきたので行動を起こそうと思っていると、詩ちゃんがこそっと私の耳元で囁いてきた。
「ZEROさん、チャンスです。あいつ、かなり消耗してしまっているようです……。私達全員でかかれば、恐れるに足らない相手だと……」
「くっくっく、なんだ女中!貴様、中々見る目があるではないか!!だがしかし……くっくっく!ハーッハッハッハッハッハ!!!!!!!!」
小声で話していたはずの詩ちゃんの声を聞き、大総統は何故か大きな声で笑い声をあげた。
まるで、余を舐めるな!とでも言うかのように……。
大総統は、突然ピタリと笑うのを止めると、指で後ろの古城を差した。
「この古城の中には、余の妻と子がいる……」
「……?」
「妻と子を守るためには、怖い物も恐れる物も何もない!たとえ、命や自分自身を失ったとしてもなぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「!?」
「それが、父親というものだ!!」
ドクンと心臓が跳ね、鳥肌が立つ。
私は、一歩前に出て【最強盾】を前に突き出した。
その盾を挟んだ私達の前で、大総統の姿が変貌していく。
髪の毛が異常に伸び、体が甲殻で覆われていく。
目が真っ黒になり、虫のような複眼になった。
「これは!まさか!!【超越】!?」
私の後ろで、詩ちゃんが悲鳴のような声を上げていた。
私には、その【超越】というものは分からないけど、目に見えて相手の力が強化されていくのが分かった。
4対1でも、どっこいどっこい……。
それが、今の私達と相手の戦力差だと感じた。
「消耗してくれてたのが嬉しいわねぇ……、これならまだなんとかなるかも……」
「……そうか?ならば、更に絶望へと叩き落してやろう!」
超越し終えた大総統は、腰に下げた細長い袋から一振りの棒のようなものを取り出した。
それは真っ黒で、先が8又に分かれた奇妙な形をしていた。
「そんな……まさか!!」
絶叫に近い声を上げたのは、詩ちゃんだった。
「何あれ?確かにヤバそうな雰囲気をバリバリに感じるんだけど!!」
「あれは……あれは……、最悪の界宝【蜘蛛の手】です……」
国民が全滅した【アダモグラン】にて、動き出す影があった。
それは一つや二つではなく複数で、そいつらは古城を目指して進んでいたのだった。




