遥か先の私
「……私、よね?」
私の問いかけに、おっさんはにこりと笑い頷く。
「あぁ、正真正銘の卵ちゃんだぜ?……あー、そういえば、ストーカーの時が、私との初対面だったな。まっ、あんま驚くなって、これからも何度か会うんだからさ」
頭がくらくらして、整理が追い付かない。
いや、いきなり未来の自分と向き合うことになれば、誰だって混乱するだろうけど……。
それにしても、急すぎる。
「とりあえず、シャワーでも浴びて着替えて来いよ。生臭くて、敵わんからな……」
そう言われて、自分の姿を確認する。
服はボロボロで、全身血だらけ。
……とりあえず、風呂だな。
「私は、外にいるから、綺麗になったら出て来いよ。色々と話さなくちゃいけないこともあるしね」
未来の私に言われるままに、お風呂場で血を洗い流す。
彼女と話す前に、頭を落ち着けようと色々考えるが、うまく考えがまとまらない。
あいつは、これからの私の行く末を知っていると考えるだけで、不安でたまらなくなる。
まぁ、未来の私が元気であることは、幸いではあるんだけどね。
風呂場から上がると、服が用意してあった。
私は、それに着替えると、外へ向かった。
「やぁ、お風呂は気持ちよかったかい?」
玄関のドアを開けて、外に出ると、そこにはアダモゼウスによく似た少女がいた。
「……あんた、未来の私よね?」
「そうだよ。あのおっさんの体が気持ち悪かったんでね。ちょいと改造させてもらった」
改造?そんなことできるようになるの?
「なにも、驚くことじゃないよ。整形なんて手術でもできることだ。それに、私は魔力の限り再生できるからね。術後の経過なんて必要ないし」
私の心の中を見透かされているようだった。
……いや、彼女にとっては、2回目の景色だ。
私が何を考えているかなんて、分かっているに決まっていた。
「……何を話すっていうの?」
「それは、君が聞くことだ。私は、君が聞きたいことにだけ答えることにするよ。未来を無駄に知りたくはないだろう?」
イラッとする。
お心遣いは、非常にありがたいが、その何もかも知っている感じが、なんか嫌だ。
うまく言えないが、優秀すぎる教師に生徒が感じる反骨心に似ていると思う。
「ああ、そう。じゃあ、聞くわ。あんたは、どれくらい後の私なの?」
「魂年齢で言うなら、320年ってところかな?長生きできているだろ?」
「っ!?」
山小屋に入るドアの前には、小さな階段があり、私たちはそこに腰かけて、話をしていた。
外は、非常に良い天気で、日差しがぽかぽかと気持ちがよかった。
彼女は、くわぁ~っと大きなあくびをして、驚きのあまり声が出なかった私を無視して言葉を続けた。
「ハッキリ言って、信じられない経験ばかりしてきたよ。今までも、これからもだろうけどな。ただ、これだけは、忘れちゃいけない」
言葉を区切って、一旦間を置いた。
「始まりがあれば、終わりがあるんだ。私にもな。私が何のために生まれてきたかを忘れてはいけない」
そして続いた言葉は、嫌になるくらい重みのあるものだった。
私が生まれてきた理由……。
それは、アダモゼウスの糧となるためだ。
……でも、それは、私の望みではない。
アダモゼウスの糧になるということは、吸収されて彼女の強さになるということ。
そうなったら、私はきっと消滅する。
「まいったなぁ……。考えたことなかった……んじゃなくて、考えたくなかったことだったんだよねぇ~」
「早めに考えといたほうがいい。時間は、有限だからな。先輩からの忠告だ」
「肝に免じておきます」
これからのことを考える良い機会だった。
私は、あごに手を当てて口を閉じる。
「……これは、独り言だから、無視してくれていい」
?
いきなりどうした?未来の私?
「私は、精神だけの存在だ。もし、鍛えるなら魔法の国【ウラヌス】を全ての転生先で目指すべきだ。あそこには、学ぶべきことがいっぱいあるからな~。私も昔、大変世話になった」
「……随分と、お優しいんですね。先輩」
「私も、先輩にやさしくしてもらったからな~、お返しだよ」
にやっとお互い、顔を見合わせ笑いあう。
そういうことなら、決まった。
次の転生からしばらくの間は、魔法の国【ウラヌス】を拠点として生活していこう。
24時間で、学べるだけ学んでを何百、何千と繰り返していけば、きっと私は何かを掴める。
いや、それできっと彼女は掴んだのだろう。
だからこそ、助言をくれたに違いない。
「ありがとう」
「いやいや、独り言だよ。……で、他には質問あるかい?」
そうだった!
……せっかくだし、聞けることを聞いとくほうがお得だよね。
よし、じゃんじゃん質問しちゃおう!
ここからは、Q&A方式でお楽しみください。
Q:320年も転生しているのに、今まで私が私自身に会えなかったのは何故なの?
A:魂生のほとんどを、魔法の国【ウラヌス】で活動しているから、会う機会が少なったんじゃないの?私も、あんたに会わなかったら、【ウラヌス】に向かっているところだよ。
Q:さっき、何度も会うといってたけど?
A:魔法の国【ウラヌス】に、私が集中しているからね。あんたも向かうようになれば、嫌でも会えるよ。
Q:雪山のおじさんや、病気の少女を助けに未来の私が来なかったのは何故?
A:あの日、あの時、あの場所に向かうのは、非常に難しい。転生したタイミングが合わなければ、無理だろう。でも、仮に助けに向かえたとしても、私だったら絶対に行かない。それは、その場にいた私が解決する問題だからだ。
Q:なんか、貴方から言いたいことある?
A:残念ながら、何もない。転生していけば、勝手に自分で気付けるはずだよ。
「ふむ……」
「はっはっは、悪いねぇ。あんたは、まだまだ魂年齢半年のひよっこなんだよ。まだ、自分で色々考えて行動したほうが良い時期だ」
そう言って、彼女は立ち上がって、大きく伸びをした。
「さて、そろそろ私は行くよ。時間がもったいないからね」
「……どこに行くの?」
「さてね。自由に生きてるようで、不便に生きてるからね~。まぁ、今の目的に従って生きてるってのは、自信をもって言えるよ」
はぁ、とっても私らしい言葉だ。
上手い事はぐらかされた。
なんだか偉いことを言っているようだけど、質問には答えていない。
「んじゃ、長生きしなさいよ」
私が彼女に向かって、軽く手を振る。
「ああ、そうするさ。んー……、1つだけ忠告させてもらってもいいかな?」
「何?」
「この後、2回目の転生の時に、また未来の自分と会う機会があるんだよ」
「うん」
「その時の出来事を、絶対に忘れるな!」
さっきまでのおちゃらけていた時とは違う真剣な声。
何が起こるかわからないけど、かなり重要な出来事が起こるみたいだ。
私は、ゆっくりと大きくうなずいた。
それを見て、彼女はにこりと笑うと、片手を上げた。
「じゃあ、またね!転移《【テントナル】→【ウラヌス】》」
ブゥン!!
風が通り抜けるような音とともに、彼女は私の前から姿を消した。
「何よ、その便利な転移とかってやつは……」
はぁ~っと、大きなため息が出た。
今までは、待っているだけだった。
有能な生物に転生できなければ、知識は増えないと思っていた。
馬鹿か、私は!!
何のために、人は勉強するんだよ!!!
何のために、人は鍛えるんだよ!!!
24時間しかない?
違うだろ!
24時間もあるんじゃない!
「一夜漬けで、試験に合格した経験があるやつにも転生したことあったな……」
学ぼう。
歩みを視るだけではなく、自分の力で学ぶ!!
「よし、行くか!」
私は、気合を入れてから、町へ向かって歩き始めた。
目指すは、町の図書館!
小さいことから、こつこつと知識を増やしていこうと思った。
<今までと今回の転生先で得たもの>
・全ての世界の言語
・基本的な人や生物の知識




