木草の巫女
・【木草家】の長女として生まれる。
・代々、【木草家】では、長女が家督を継ぐことになっているため、【木草の巫女】としての修行をする。
・【木草家】が治める【木草の里】に住む、幼馴染と一緒に成長をしていく。
・生まれつき体が弱かった自分を、いつも庇ってくれた幼馴染に次第に惹かれていく。
・幼馴染と恋をして、成人と共に籍を入れる。
・待望の赤ん坊がお腹に宿るが、木草樹様より、性別が男である事、私の体力では、赤ん坊を産むと命の危険がある事を告げられる。
・両親や、大婆様から、堕胎を勧められる。
・私は、拒否して産もうとするが、男の赤ん坊を産むのに命を賭ける必要はないと言われる。
・幼馴染からも、赤ん坊よりも私が大事だと、堕胎を勧められる。
・全てが信じられなくなった私は、里を逃げ出そうとするが、捕まってしまう。
・牢屋に入れられて、堕胎の薬が入った食事のみを与えられたが、【木草の巫女】の力で薬を解毒した。
・いつまでも赤ん坊を堕ろさない私に痺れを切らした大婆様が、医者を呼ぶ。
・私は、牢屋から医者の待つ部屋への移動中に逃げ出すことに成功する。
・里の森の中へ逃げ出して、森の中を彷徨う。
・予定日よりも早いはずなのに、陣痛が始まる。
・無事に赤ん坊を出産する。
・男の子だった。
・早産だったけど、問題無いようで元気だった……。
・少し眠くなったから、ちょっとだけ寝ようと思う。
・おやすみなさい……。
「まったく、あの里の連中は……。私の頃と何一つ変わってないじゃない!!」
何故か、ムカムカと腹が立った!
一体、いつ視た【歩み】なのか分からないけど、私は、この里の事をなんとなく理解していた。
御家柄を気にする【木草家】の連中と、それに媚びへつらうように暮らす里の連中。
「まぁまぁ……」
お腹いっぱいになったのか、乳首から口を離して、うとうとし始める赤ちゃん。
「よしよし」
私は、赤ちゃんを担ぐように持つと、背中をポンポンと叩いてゲップを促した。
これをやっておかないと、赤ちゃんは飲んだものを吐き戻してしまうのだ。
なんせ、十人も産んで育ててから、こんなのは手慣れたもんだった……。
……………………ん?
いやいや、私、産んでないよね!?
というか、男性経験どころか、キスだってしたことないってのに、何思ってんだ、私……。
なんか、記憶の混濁がみられる。
どうしたんだろう?
独身をこじらせすぎてしまったのだろうか?
「だぁ……だぁ……」
「よしよし、ねんねしていいからね……」
何故か、この森で木草の里の事を考えると、私が私でなくなるような感覚に陥る。
いや、正確には、懐かしいような、切ないような、そんな不思議な感覚だ。
懐かしい?
私は、昔、ここで何かあったのだろうか?
しかし、いくら思い出そうとしても、そんな記憶は一切無い。
「まぁ、いいか……。とりあえず、里の方へ向かってみよう」
私は、すっかり寝付いてしまった赤ん坊を起こさない様に、ゆっくりと里を目指した。
空を見上げると、東の空が白み始めていた。
そろそろ、夜が明けるようだ。
「大婆様、申し訳ございません。まだ、千鳥の足取りが掴めません!」
大きく広い和室の玉座のようなスペースに、その老婆はいた。
腕ほどの長さのキセルを銜えて、鼻から紫煙を吐き出しながら、不機嫌そうに溜め息をつく。
「まぁさかねぇ……。そこまで、赤ん坊を愛していたとは、思わなかったねぇ……。悠長な事せずに、とっとと実力で堕ろさせておくんだったよ……。まぁ、今となっちゃ、後の祭りだけどねぇ……」
老婆は、ハァ~っと紫煙と一緒にまた溜め息吐き出した。
【木草家】の歴史上での汚点。
それは、過去に一つだけあった。
【木草家】は、代々【木草樹】様へ仕える巫女【木草の巫女】の役目を任された一族だ。
人間が文明を持って、歴史を記録していくようになった時には、既にその役目を任されていたらしい。
【木草樹】様を称え、崇めることで、【木草樹】様より、加護と守護を受けて、土地と一族を守っていただいていたのだ。
だが、代々一族の長女が受ける予定だった巫女の役目を、一度だけ奪われたことがあった。
それは、本当に唐突だった。
一族の遠い血筋の女性が、たまたま女の子を妊娠していた。
その女の子を唐突に『巫女にしろ』と、木草樹様がおっしゃったのだ。
当然、【木草家】の一族は、反発した。
何故、突然、そのような遠い血縁の物が巫女になるのだと……。
【木草樹】様の答えはこうだった。
「他に女子を妊娠している一族がいないではないか!」
その時、確かに妊娠中の女性はいなかった。
……いや、正確には男子を妊娠していた女性はいた。
しかし、男子では巫女にはなれない。
反発はあれど、【木草家】は、【木草樹】様に従うしかなかった。
【木草家】の唯一の汚点。
遠い遠い親族の【芽吹家】の長女【芽吹 双葉】を、木草の巫女として受け入れたのだ。
そして、その巫女は、悲しい事に歴代巫女の誰よりも力が強かった。
ぐうの音も出ないほどの素晴らしい巫女となったのだ。
そして、その巫女は、当然【木草家】の男子と籍を入れるものだと思っていた。
だが、ふらっと里へやってきた格闘家【巣作 蝉】に惹かれて、駆け落ち同然に里を去っていったのだった。
しばらく、里には巫女のいない状況が続いた。
【木草家】にとって、それは本当に屈辱的な時間だった。
だが、【木草家】も黙っていたわけではなかった。
【芽吹 双葉】と【巣作 蝉】との間に生まれた十人の子供の一人へ、【木草家】の長女を差し出したのだ。
半ば強引に子作りをさせ、婚姻を進めて、無事【木草の巫女】の一族としての地位を取り戻したのだった。
もう、二度とあんなことを繰り返さないためにも、常に女子の赤ん坊を用意できるようにしようと、一族で決めた。
「それが、まさかこんなことになるとはねぇ……」
もはや老婆からは、溜め息しか出ない。
それは、唯一だった【木草家】の汚点が2つに増えそうになっていたからである。
「もし、男児を産み落として、千鳥が亡くなっていたとしたら……」
ぶるりと、老婆はその巨体を震わせた。
後継ぎがいない状態での【木草の巫女】の死。
それは、【木草の巫女】の終わりを意味していた。
アダモゼウス「じゃあ、その一族から生まれてくる赤ん坊へ、今すぐ妻の方の魂を入れなさい。夫の方は……、私がなんとかするから」
そして、アダモセウス移動後。
木草樹「……はぁ、いきなり言われても、ちょうど女子を妊娠している女性なんかいるわけないじゃないですか。……仕方がない。遠縁になるが、この女性にしましょう。だって、他に女子を妊娠している女性いないんですもの……。」




