母性
「お願い、お願い、赤ちゃんを助けて!!」
泣き叫ぶ私の腕に抱かれた元気の無い赤ん坊の姿を見て、双葉ちゃんの表情が真剣なものになる。
双葉ちゃんは、雷化を解くと、すぐにこちらへ向かって駆けてきてくれた。
「生まれたばかり?へその緒は?」
「まだ……、まだ繋がってるの!私、どうしたらいいか、分からなくて……」
「母親が狼狽えるんじゃない!!あんたは、この子の母親なんでしょ?だったら、ドーンと構えてれば大丈夫だよ」
私を安心させるように、にこりと笑顔で笑いかけてくれる双葉ちゃん。
その優しさに、泣き止もうと我慢した瞳から、また涙が溢れてきた。
「とりあえず、シーツと包帯のようなものが必要だね……。ちょっと待ってて!」
双葉ちゃんは、そう言うと、近くの比較的無事な民家の中へ入っていった。
そして、中からベッドのシーツを盗ってくると、それを帯状へ切り裂いた。
続いて、双葉ちゃんは、人差し指と中指を魂で覆うと、それに魔力を込めて刃化させる。
「よし!準備オッケー!さぁ、早く赤ちゃん見せて!」
私は、急いで双葉ちゃんの前へ赤ちゃんを差し出すと、双葉ちゃんは、へその緒をつまんで、それをあっという間に切り、切り口を帯状のシーツで縛った。
そして、裸ん坊の赤ちゃんを余ったシーツで包むんでくれた。
「あとは、おっぱいあげれば、大丈夫だよ」
その言葉に、私は本当に安堵した。
赤ちゃんの小さな手が、私の胸をまさぐるように動き出す。
その仕草に、赤ちゃんを本当に愛おしく感じた。
私は、右の胸を露出させて、赤ちゃんの口元へ持っていった。
正直、授乳は、初めてで少しドキドキしていたが、赤ちゃんが胸に吸い付くと、そんな気持ちはどこかへ消えてしまった。
「んくんく」
乳首が痛いくらい必死になって胸に吸い付く赤ちゃん。
可愛い声を上げて、必死になっておっぱいを飲んでいた。
「ううっ、うわぁああああ」
自然と嗚咽が溢れる。
無事で良かった安心感と、この子を産んでよかったという満足感。
そして、この子を残して死んでしまったこのお母さんの無念。
それらの大きな未練というこの体に残った感情が溢れていく……。
瞳からは、涙が溜まらずに溢れて、赤ちゃんの顔へ落ちていく。
赤ちゃんは、それを気にもせずに、必死におっぱいを飲んでいた。
まるで、最初で最後の授乳だと分かっているように、必死に……ただ必死に……。
「いたぞー!こっちだ!!」
一人の兵隊が、私たちのいる道の先で大声を上げていた。
「やれやれ、感動のシーンで無粋な輩だこと……」
双葉ちゃんは、両手の平を上にあげてオーバーなリアクションを取ると、先ほどと同じ紫の電気を帯びた姿へと姿を変えた。
「【雷光体現】」
バリッ!
軽い電気の音と共に、双葉ちゃんの姿が消える。
道の先では、兵隊の大声で集まり始めた兵士の群れが見えた。
「うぎゃああああ!!!!」
いきなり、兵士の一人が叫び声を上げて黒焦げになった。
「なっ!!」
「僕から逃げられたら、見逃してあげるよ。……但し、逃げられたらね!」
その後の双葉ちゃんの姿は、雷そのものだった。
ピシャーン!
ゴロゴロ!!
雷独自の雷音を響かせて、光速で兵士たちの間を駆け抜けていく双葉ちゃん。
兵士は、双葉ちゃんが触れた瞬間に黒焦げになる。
自身を意思を持つ雷と化して、兵士たちを裁きの雷で焦がしつくす。
その姿は、恐ろしくも頼りがいがあり、何より美しかった。
「ひぃ!まっ、魔女め!!」
「まじょ~?ひどいな、僕らはそんな怖いものじゃないよ!まぁ、でも……確かに君たちにとったら魔女なのかもね……」
そう言って、怯える最後の兵士を黒焦げにして、戦闘を終える双葉ちゃん。
未来から過去へ来ると、色々と分かることがあって、本当に面白いと思う。
きっと、この戦闘の後に彼女たちは、魔女を名乗ることになったんだろう。
そんなことを考えていると、双葉ちゃんはこちらに向かって歩いてきた。
「ごめんね!どこで僕と会ったのか覚えてないから、それについて詳しく聞きたいところなんだけど、今は絶賛急用中なんだ。僕は、これからこの国で暴れまわらなくちゃならない。ここから、南は、僕が暴れまわった後の方向だから、割と安心して移動できると思う。……君についていけないけど、大丈夫かな?上手く逃げていけられる?」
双葉ちゃんは、申し訳なさそうな顔で、私にそう聞いてきた。
ここまで、色々やってもらって、更に助けてもらおうだなんて罰があたる。
私は、赤ん坊を強めに抱きしめると、深く双葉ちゃんに頭を下げた。
「大丈夫!本当にありがとう!!……絶対にお礼に行くから」
「そう?それなら、お礼は、ケーキがいいなぁ。イチゴのショートケーキ!僕、大好きなんだ!」
そんな冗談を口にする双葉ちゃんと握手を交わす。
「じゃあ、幸運を祈るね!」
「うん、私も御武運をお祈りするね!」
双葉ちゃんは、にっこり笑うと、光速で姿を消した。
「……さて」
とりあえず、この場は危険だ。
私は、【転送】を利用して、元の森の中へと戻ったのだった。
元の森へ戻ると相変わらずの真っ暗闇だった。
先ほどは、戦火の中にあったから、色々と明るく、熱いくらいだったからね……。
とりあえずは、状況の整理が肝心だ。
私は、この女の転生体の【歩み】を視た。
「…………ああ、そういう事だったんだ」
この木草界には、遙か昔、それこそ人類が生まれた頃から木草樹を祀っている一族がいた。
それは、私が転生した一番先の未来でも存在している一族で、この世界で唯一、木草樹から同じ名を名乗ることが許されていた。
そして、その一族が住み、その一族が治める土地は、聖域とされて、どんな生物の侵略も許される場所では無かった。
当然、それは、この時代でも例外ではなく、帝国でも侵略できない神聖な場所だったのだ。
そして、ここは、その神聖な聖域の森の中。
その神聖な聖域を管理している一族は、代々【木草】の名字を受け継いでいた。
そして、その一族は、周りからこう呼ばれていた。
【木草の巫女】と……。




