【魂糸】
「さてと、この土地で一年暮らしながら、やってほしいことがあります!……えーっと、余った時間を使って【魂糸】で遊ぶようにしましょう!」
「魂糸?」
「ええ。【魂糸】ってのは、さっき鈴ちゃんも出してた、この糸の事です!」
私は、指先から出せるだけ【魂糸】を出して、鈴ちゃんに見せた。
昨日とは打って変わり、【魂糸】は普通に出せるようになっていた。
どうやら無事に未来は修正されつつあるようで、私はほっと胸を撫で下ろす。
一瞬で蜘蛛の巣のように展開された【魂糸】を、驚きの表情で見る鈴ちゃん。
「わー!すっごーい!!」
「ふっふっふ、これでも私、ものすごい修行を積んでおります!」
尊敬の声を上げる鈴ちゃんに向かって、ついついドヤ顔を決めてしまった。
「でも、せんせー!これって、何の意味があるんですかー?」
鈴ちゃんが可愛らしく、手を上げて私に質問をした。
私は、引き続き、ドヤ顔で説明を続ける。
「ああ、この糸は、魂の形状を変化させて糸化したものなんだけど、これには不思議な力があるのよ。鈴ちゃんには、この糸を研究して、不思議な力を解明してもらいたいと思います!」
そうしてもらわないと、この世に【魔法】が誕生しないからねぇ……。
私は、本音をこっそりと心の中で呟いた。
【魂糸】を研究して、【魔法】を開発したのは、【ZERO】という事になっている。
鈴ちゃんには、早い段階から【魂糸】に慣れ親しんでいただかないと、後の歴史に色々影響してしまうだろう。
「う~ん、でも私、何でも出来る力があるんでしょ?なのに、なんで、そっちの方の不思議な力を解明させようとするの?」
……まぁ、それは至極まっとうな疑問だと思う。
何でも出来る便利な力があるにもかかわらず、不便な方の力を解明させるってのは、確かに不思議に感じるよねぇ……。
だけど、これには【魔法】の開発以外にも、ちゃんとした理由があるのだ。
「……鈴ちゃんには、何でも出来る力があるけど、他の人にはその力は無いんだよ。だけど、この【魂糸】の不思議な力は、どんな人でも鍛えれば使用できる力なのよ。もし、鈴ちゃんと同じような不幸な女の子がいたら救ってあげるんでしょ?だったら、一人で生きていけるだけの力を教えてあげるまでは、面倒見てあげないと幸せには出来ないと思けどなぁ~?」
「あぁ……、そう言われればそうかも……」
【魔法】は、魔女の必須スキルだ。
【不老】しか特殊能力を持たない少女が、生き抜くために絶対に必要な特殊技術なのだ。
だからこそ、今後の為にも、彼女が【魔法】を開発する必要がある。
彼女の未来の弟子や仲間の為に必要なのだから……。
「ね!だから、鈴ちゃん、大変かもしれないけど、【魂糸】の謎を解明してもらいたいと思うの。初めは、最初に言った通り、【魂糸】を出して遊ぶだけでいいから」
鈴ちゃんは、指先から【魂糸】を出して、それをクネクネとミミズのように動かしてから、にこっと私に向かって笑った。
「うん!わかったー!」
それを見て、安心をしたところで、背後から物音が聞こえた。
ガサガサッ
すぐに【自己強化再生】を掛けて、いつでも動けるように臨戦態勢を取る。
そのすぐ後……。
「ガオーッ!!」
ネコ科の大型肉食獣が、私に向かって勢いよく飛び出してきた。
「……やったね。お昼は、お肉だ……って、あれ?」
肉食獣の飛び出してきた方へ向き、【重罪心疲】を打ち込もうと腕を振り上げたまま、固まってしまう。
肉食獣は、私に飛びかかろうとした姿勢のまま、動けなくなっていたのだ。
必死に体を動かそうと、全身をブルブルと震わせているが、少しも動かすことが出来ないようだ。
「まさか……」
私は、後ろを振り向いて鈴ちゃんを見ると、鈴ちゃんから肉食獣に伸びる一本の【魂糸】を確認出来た。
「ダメだよ、お兄ちゃんの体に傷をつけちゃあ……」
これは、間違いなく【魅了】!?
馬鹿な!
もう、【魔法】を使っているっていうの!!??
驚いている私を尻目に、鈴ちゃんは、【念力】で肉食獣を空高くに放り上げて、【魂糸】を引き抜いた。
そして、重力に引かれるまま落下した獣は、地面に叩きつけられた。
「ガァッ!?」
小さな悲鳴と共に、大地に血が広がっていく。
小さく痙攣を繰り返していた獣だったが、やがて動かなくなっていった。
「やれやれ……、恐ろしい才能ねぇ……」
私は、大きく息を吐き出すと、バーベキューの準備に取り掛かろうとしたのだった。




